琵琶湖ダンジョン23階層のD缶開封
さっきまでのグリーングリフィンと比べると、二十二階層の敵は非常に味気ない。
グリーングリフィンがここを通ったせいか、魔物もほとんど隠れてしまっている。
そのため、姫の分身が見つけた階段を下りてさっさと二十三階層に降りた。
二十三階層に降りると、いつも通り祭壇があった。
いつも通り……
「あれ? 新しい絵が増えてないか?」
「本当だね。前はこんな絵なかったよね」
いままで空に浮かぶ島や森、海の中、砂漠等いろんな絵が飾ってあったが、枚数は同じだった。
それが一種類増えている。
極寒の大地だろうか? 雪で覆われているのか雪で作られているのかわからない建物が見える。
「終末の獣によって滅ぼされた世界がまた一つ増えたってことね」
「やっぱりそういうことだよな……勇者たちがいなかったら、俺たちの世界もこうなってたんだよな」
この世界は異世界の勇者によって既に終末の獣から救われた後の世界らしい。
世界を破壊するはずの終末の獣は地下深くの異次元に封印されている。異世界の勇者とともに。
名前も知らない勇者には感謝しても感謝しきれない。
俺はインベントリからD缶を取り出した。
「泰良、そのD缶は?」
「だいぶ前に、響さんから貰ったD缶だ。琵琶湖ダンジョンの23階層に供えたら開くらしい」
「祭壇のD缶……となると、異世界関連のアイテムが手に入るのでしょうか?」
アヤメが尋ねた。
てんしばダンジョンと城崎ダンジョンの23階層の祭壇にD缶を供えたら、勇者のロケットが出てきた。
祭壇が異世界に関係する場所であることは間違いない。
そう考えると、この祭壇に供えることで開くD缶の中には異世界由来の品が入っている可能性が高い。
まぁ、キングさんの目的や俺たちがエルフの世界に行く方法について知った今となっては、異世界の品を手に入れることはそれほど優先度が高いものではない。
「じゃあ、開けるぞ」
D缶を祭壇の上に置いた。
パカっと開く。
毎回のことだが、この開く瞬間は気持ちいいんだよな。
無限プチプチや無限枝豆と同じように、無限D缶開きとかそういうジョークグッズを出してくれないだろうか?
「さて中身はなんだろな。ミルク、出してみるか?」
「でも私が見たらハズレじゃない?」
「もう開いたんだから中身は一緒だろ」
たとえ観測するまで中の状態がわからないシュレディンガーの猫であっても、箱を開けた人によって猫の生死が変わることはないはずだ。
D缶やトレジャーボックス、宝箱の場合だと、開く瞬間に中身が変わる可能性があるからシュレディンガーの猫理論に全て当てはめて考えることはできないが、しかし、蓋を開けた後だと中身が変わることはないだろう。
「じゃあ見てみようかな?」
ミルクがドキドキしながら缶の中身を見る。
そして、ミルクが少し不思議そうな顔をして、中身を取り出した。
そこに入っていたのは――宝石のような石だった。
鑑定してみる。
【鬟帷ゥコ遏ウ?夂黄繧呈オョ縺九○繧句鴨繧呈戟縺、荳?闊ャ逧?↑遏ウ】
……文字化け?
目をこすって再度詳細鑑定をする。
【浮空石:物を浮かせる力を持つ性質のあるどこにでもある石】
あ、見えた。
なるほどなるほど。
って、どこにもねぇよ!
と思ったら
【浮空石:物を浮かせる力を持つ性質のある異世界の石】
また鑑定結果が変わった。
なんか鑑定結果がフワフワしているな。
しかし、物を浮かせる力を持つ石か。
青木だったらバ〇スとか言うんだろうな。
少し遅れてミルクたちも鑑別のモノクルを使い、修正された鑑定結果を見る。
「物を浮かせるね。もしかしたら、あの絵にある空に浮かぶ島と関係あるのかしら?」
そうかもしれないな。
最初の鑑定結果ではどこにでもある石って書いてあったし。
島全体が空に浮かんでいる世界なら、そういう石がそのへんにゴロゴロ落ちていてもおかしくはないだろう。
「どうやって使うのかしら?」
「詳細鑑定によると、魔力を込めればいいらしいぞ」
「じゃあ、私は使えないのね」
姫が不貞腐れるが、お前は天翔があるからいいだろ?
「私、使ってみていい?」
「いや、最初は安全のために俺が使うよ」
ミルクから浮空石を受け取り魔力を込める。
よし、飛べ! 飛べ! 飛べよぉぉぉぉおっ!
お、おぉ、おぉぉぉぉぉおっ!
「泰良? どうしたの?」
「何も変化がない」
浮かぶ気配どころか、身体が軽くなった感じもない。
物を浮かせるという説明だから、生物は浮かせられないのだろうか?
もしかしたら石だけなら浮くんじゃないかと思ったが、やっぱり石に変化はない。
「どういうことかしら? 地球の空気が合わないとか?」
「どうなんだろう? 閑さんに渡して調べてもらうか。いや、その前にダンポンに聞くか」
さっき鑑定結果が変わったのって、異世界のアイテムがこの世界に初めて現れたものだから鑑定結果の設定が追い付かなかった、つまり誰かが鑑定結果を調整したのだろう。
その調整をしている筆頭が、ダンポンだと思う。
「気になるから今から聞いて、一気にPDの四十一階層から琵琶湖ダンジョンに入り直しましょ」
それもそうだな。
グリーングリフィンがここまで来た影響で魔物があんまりいないからな。
普通に魔物がいるだろう下層まで一気に移動したい。




