PD生成Ⅲ
西条さんとは結局21階層を一周回って終わった。
俺の服もボロボロになってしまったから早めの切り上げとなった。
更衣室で普段着に着替え、ホテルに向かう。
俺たちと西条さんの泊っているホテルは別らしいので、タクシーは二台呼んだ。
「それでは、西条さん。また明日」
「……うん。今日は楽しかったよ。また今度一緒にダンジョンに潜ろう」
「あの、西条さん。もしかして話したいことありました?」
「いや……まぁ、うん。娘のこととか相談したかったんだけどね。ダンジョン学園に寄付をしてもらっているようだからそのお礼とか……」
西条さんがどこか気まずそうに言った。
まだ娘さんと仲直りしていないのかな。
閑さんに謝罪に行く勇気があるのなら会いに行けるのではないか? と思ってるけど、娘さんの多感な時期にずっと身体を操られていたのだから難しいのかな?
それとも会わせてもらえないとか?
「あの、勇気をもって会いに行ったらいいと思いますよ。なんなら、アヤメの――パーティメンバーの東さんの妹さんと西条さんの娘さんが同級生らしいですから、そこから繋ぐというのも――」
「いや、会ったんだよ。でも、何を話したらいいかわからなくて――ほとんど会話が弾まなくてね」
それは仕方ないと思う。
何年も会っていないんだから、娘さんにとっても血が繋がってるだけの他人に思えたんじゃないだろうか?
まぁ、会えたっていうのなら、二人の溝も徐々に埋まっていくだろう。
そう願う。
あと、寄付金については姫に言ってくれ。
俺はいくら寄付しているとか、どういう名目で寄付しているとか何も知らないから。
タクシーに乗ってホテルに到着。
姫に念話を送って部屋の場所を教えてもらう。
「待ってたわよ」
私服の美少女三人に迎えられて部屋に入った。
女性陣三人は同室で俺だけ別室らしい。
「相変わらず広い部屋だな。みんなで大運動会でもするのか?」
「そんなことしたら別の部屋に迷惑だよ」
ミルクに言われるが、当然冗談だ。
「妃さんは同じ部屋じゃないのか?」
「妃は別のホテルよ」
「広い部屋を取ってもらったのは、PDを設置してもらうためです」
PDの設置?
まぁ、このくらいの広さだったら可能か。
「全員で修行をするのか?」
「それもいいけど、そろそろアレを使わない?」
「アレ? って、あぁ、アレか!」
俺は思い出した。
超激レア缶の中に入っていたアレのことだろう。
【黄金の竹:好きなスキルを思い浮かべながら叩き割ると、一つだけスキルのランクを一段階上げることができる】
プラチナの竹はランダムで複数ランクが上がるが、こっちは一つしかランクを上げられない代わりにスキルが選択できる。
これまで使わなかったのは、太陽の塔に入ったことで手に入るD缶から特別なアイテムが出ることに期待していたからだ。
もしも超激レアスキルだったら、そのスキルのランクアップに使おうと思っていた。
しかし、太陽の塔に入ったときに開いたD缶の中身は激レアアイテムではあったがスキル玉ではなかった。
「そうだな。で、何に使う? ミルクの薬魔法か?」
「壱野さんのPD生成ではないんですか?」
「え? なんで? 俺ばっかり使ってるし。姫の分身とか将来性を考えるとアヤメの大魔術も選択肢に入れるべきだろ」
俺はそう言うけれど、三人とも俺のPD生成の強化に乗り気のようだ。
「PD生成のランクが上がれば中の設備も充実しそうだよね」
「魔物の発生頻度が変更できればレベルアップしやすくなると思います」
「真衣たちが入れるようになるかもしれないわね」
まぁ、PD生成でできたPDは現在四人の共有財産みたいな状態になっている。
これの強化をするのは平等と言えるだろう。
「わかった。じゃあそうするよ」
俺はそう言ってインベントリから一節の黄金の竹を取り出した。
姫からクナイを借りて、トントンと叩くと竹がパカっと割れた。
「ステータスオープン」
――――――――――――――――――
壱野泰良:レベル155(ランクB)
換金額:4422896D(ランキング:54〔JPN]815[ALL])
体力:6486/6486
魔力:500/500
攻撃:2752(+275)
防御:2359(+471)
技術:2348
俊敏:2247(+224)
幸運:6851
技能:速読 剣術Ⅱ 速筆
スキル:PD生成Ⅲ 気配探知 基礎剣術 瞬間調合
詳細鑑定Ⅱ 獄炎魔法 インベントリⅡ 怪力
火魔法 投石 ヒートアップ 基礎槍術
魔法反射 肩代わり トレジャーアップ
妖精の輪 琴瑟相和 水魔法 応用剣術
疾風 常在戦場 ラッキーパンチ 影獣化
対応力 付与魔法 空間魔法 猫の手
エナジードレイン 念話 隠形 財テク
鉄壁 二刀流 基礎格闘術 延長 ボス特攻
獅子搏兎の恩寵 エルフ語
――――――――――――――――――
ステータスを確認する。
「「「どう(です)?」」」
「うん、ちゃんとPD生成がⅢになってるよ。みんな、部屋の端によってくれ」
女性陣が部屋の端に寄ったのを確認し、
「――PD生成!」
部屋の真ん中に地下に続く階段を作った。
ちょうどいいので、外套もインベントリから取り出す。
「泰良、それどうしたの? ボロボロじゃない!?」
「グリーングリフィンの風魔法にやられた。身体は平気だよ。かすり傷は負ったけど」
また無茶して――って姫は言うし、ミルクとアヤメも心配してくれるが、それほど強敵ではなかった。
そう説明したけれど、ここまでボロボロになった服を見て心配するなって言う方が無理な話か。
とりあえず、四人でPDの中に入る
「強化おめでとうなのです」
ダンポンがそう言って出迎えた。
さて、どう変わっているかな?
と思ったら、あれ? 階段が二つある?
俺たちが降りてきた階段とは別ののぼり階段があるが、片方は入り口が塞がっている。
「ダンポン、こっちの階段は?」
「PDの入り口を二つまで設置できるようになったのです」
「へぇ、二つまで……え!?」
二つ設置して繋がる?
それって――
「泰良! 一つはオフィスの地下に常設しましょ! そしてもう一つは泰良の家の庭に! 通勤が凄く楽になるわ!」
同じことを考えていた。
これって、もはや転移魔法陣と同じだ。
「他にできることを教えてくれ」
「まず、持ち込みアイテムが緩和されたのです。一部の電化製品などの持ち込みが可能になったのです。泰良、ゲー〇ボーイを持ってくるのですよ! 一緒にポ〇モンをするのです!」
「あぁ……そのうちな」
水野さんの家にあるゲームを借りてくるか。
でも、電化製品の持ち込みが可能なのは嬉しいな。
一度、アヤメがラーニングした腰巾着を悪用してパソコンを持ち込んだことがあったが、次からはダメだって怒られたからな。
「あっちの部屋は?」
「倉庫なのです。泰良の私物などを保存できるのですよ。ここに置いてあった泰良のD缶も運んでおいたのです」
そういえば、大量にあったD缶の入っている段ボールが見当たらないことに気付いた。
運んでくれたのか。
「他に何が変わったか教えてくれないか? できれば一番大きな変化から頼む」
「はいなのです。タイラは前回、PDの名前の意味に別の意味が加わったことを覚えているのです?」
「ああ、忘れるわけがない」
「今回も同じなのですよ」
PDは元々、P:プライベート・D:ダンジョン。つまり、俺専用のダンジョンだった。
そのPに、プライベートの他にパートナーが加わったことで、俺は女性三人と結婚することになった。
今回は新たな意味が加わったってことか?
P……PARTY? 仲間なら全員入れるダンジョン? だったら、俺たちの結婚している意味がなくなるから嫌なんだよな。
それとも、P:PARENT? 両親って、父さんと母さんが入れる? 母さん、二度寝にPDを使いたいって前に言ってたことがあるが、そのために?
「今回はPDのDに新たな意味が加わったのです」
「え? Dの方に? ダンジョン以外の意味ができたっていうのか?」
「はい、PERSONAL OR PARTNER’S DIMENSION――別次元に通じるシステムが解放されたのです!」
……は?
別次元――それって異世界に行けるってことかっ!?




