仲がいいのか悪いのか
「姫、ちょっとアヤメと二人で話がしたいんだけど、どこか場所ないかしら? お風呂でもいいんだけど」
「押野さん、私からもお願いします」
ミルクとアヤメが何か緊張した面持ちで二人での話し合いを希望した。
姫はため息をつき、カードキーを渡す。
隣の部屋のものらしい。
俺がダンジョン探索で疲労困憊になったときに使ってもらうように部屋を用意していたのだとか。
二人は感謝し、隣の部屋に向かう。
「本当は仲が悪いのか?」
「……いま仲が悪くなってる最中じゃない?」
姫は何か心当たりがあるように言う。
こいつ、二人の関係性に心当たりがあるようだ。
まったく、個人情報ガバガバだな。
押野グループはリゾート会社じゃなくて探偵会社になったほうが儲かるんじゃないか?
「泰良、ちなみに私のことはどう思ってる?」
「やる気のあるチビっ子」
「素敵なご意見ありがとう」
「あと、困った時は頼りになるド〇えもん」
「そこはス〇ーチじゃなくてよかったわ」
そういえば、ド〇えもんってアメリカでも放送してるけど、微妙に設定が違うところがあるんだっけ?
ド〇えもんの好物がどら焼きじゃなくてピザだってのは聞いたことがあるけれど、ス〇夫はス〇ーチって呼ばれてるのか。
まぁ、ここでミルクをパーティに入れないって言ったら、
「悪いな、ミルク。このパーティは三人用なんだ」
と変換されて本当にス〇夫みたいになっていたかもしれないが、実際はス〇夫より金持ちのビル・マネー君だろう。
って、マイナーなキャラ過ぎて覚えてる人はいないか。
「姫、これ前に言ってた経験値薬」
「本当に作ってきたのね。ミルクに飲ませなくていいの?」
「レベル10だと普通にダンジョンで稼いだほうがいいだろ。それと魔法の水筒って余ってないか?」
「余ってるのは余ってるけど、欲しいの?」
「ああ。代わりにこれをやるから」
俺は矢筒と指輪を渡す。
D缶から出たアイテムだ。
「これは?」
「矢がいっぱい入る亜空の矢筒と、魔力の回復速度を上げる魔導士の指輪」
「また珍しいものをホイホイと。魔法の水筒はプレゼントしてあげるから、それらは直接二人に渡してあげたら? きっとミルクもアヤメも喜ぶわよ」
「そうしたいんだが、ミルクはともかくアヤメは遠慮するだろう」
アヤメは、俺に借りをいっぱい作っていると思っている。
命を救われて、大魔術師の杖を貰ってと。
その上、魔力の回復速度を上げる指輪なんて渡そうものなら絶対受け取ってもらえない。
ここは一度姫に渡して、姫からの支給品の貸与としてもらった方がいいと思ったのだ。
「アヤメは指輪を泰良から貰いたいと思うけれど……まぁ、火種に油を注ぐ趣味はないわ。わかった、私から渡しておく。魔法の水筒はいまから会社の人間に持ってこさせるわ」
なんて馬鹿なことを考えていると、ミルクとアヤメが戻ってきた。
表情は明るくはない。
「何を話していたんだ?」
「現状確認と……宣戦布告かな? まぁ、なんでお互い気付かなかったんだろって話なんだけどね」
ミルクが言う。
二人とも魔法使い枠だし、風魔法だって補助魔法が使えるようになるからな。
確かにライバルと言えなくもないだろうが、宣戦布告は少し言い過ぎな気もする。
別の意味があるのか?
「壱野さん。私、頑張ります!」
「頑張ろうな。応援してるよ」
「泰良、私も応援してよ」
「はいはい、ミルクも応援してるよ。レベル上げと魔法の熟練度上げ頑張れ」
「そっちじゃないんだけどなぁ……」
そっちじゃなかったらどっちなんだよ。
「そろそろランチにしてダンジョンに行くわよ。はい、出発出発」
姫が手を叩いて部屋から出す。
四人でランチを食べたあと、てんしばダンジョンに移動する。
ミルクは現在は牛蔵さんのギルドの正会員のため、五階層まで入ることができる。
なので、四人で五階層まで移動する。
前回と同様キューブ狩りをする。
「解放:火矢」
火の魔法を使ってキューブを倒してみせると、姫とアヤメが驚いた。
「泰良、火魔法使えたのっ!?」
ミルクが驚いたように言う。
「レベル30になったら生えたんだ」
「……泰良が火魔法を使えるのなら、私より先に補助魔法使えるようになるんじゃない?」
「いや、俺は補助要員にはなれないよ。いざというときは地獄の業火を使う必要があるけれど、あの魔法は魔力が万全じゃないと使えないんだ」
「ヘル……ファイア?」
そういえば、ミルクは地獄の業火を知らないんだったか。
「俺の秘密兵器の魔法。イビルオーガでも倒せる」
「あぁ、アヤメを助けた魔法のことね」
そのことは聞いていたらしい。
「一撃で魔力を全部消費するから滅多に使えないが、ボス戦では絶対に重宝するはずだ。だから、補助魔法や回復魔法に魔力を回すことはできないんだよ」
「魔力を全部? それって魔力の値が高くなればなるほど魔法の威力が上がるってこと?」
俺とミルクが話していると、姫が尋ねてきた
通常、魔力消費は魔法ごとに決まっていて、特殊なスキルが無い限り威力も固定されている。
だが、俺の地獄の業火は魔力を全部消費する。つまり、威力がそれに応じて上がっていくと考えるのが普通か。
魔力値はレベルアップでは増えない。
魔法の熟練度が上がって使える魔法の種類が増えるか、もしくは新しい魔法スキルを覚えたときに増える。
通常の戦闘で火魔法を使っているのは熟練度を上げるためだが、ミルクのお株を奪うためではない。
「連続で魔法を使えないの?」
「使えないぞ」
姫が尋ねたので、断言する。
富士山近くで見せたのは、PDの中で魔力を回復させているだけだ。
アヤメにも、あの時の仮面の男は俺だったんじゃないかって疑われたけれど、地獄の業火は連続で使えないって教えたうえで、あれはGDCグループが軍事開発した戦闘兵器だったと納得してもらっている。
「待ってください。泰良さん、もうレベル30になったんですかっ!? いくら成長の指輪を持ってるっていっても早すぎませんかっ!?」
「プライベートでもダンジョンに潜ってるからね」
と俺は誤魔化した。
「姫はレベル23で、アヤメはレベル20だっけ?」
「もうレベル25よ。泰良と一緒でプライベートでもダンジョンに潜ってるから」
「レベル21に上がりました……すみません、一人遅くて」
「それ言ったら私はまだレベル10だよ……」
いやいや、プライベートダンジョンのある俺と、押野グループが管理しているダンジョンをプライベートで利用できる姫と比べるのはさすがにおかしいって。
「まぁ、キューブは経験値がうまいし、魔法もボウガンも使えるミルクなら楽に倒せるだろう。姫、アヤメ。今日はミルクのレベルアップに付き合うつもりだが、それでいいか?」
「ええ。ミルク一人だとまだ五階層は厳しいでしょうし、問題ないわ」
「だったら私が一緒に――」
「いや、俺は気配探知スキルがあるから効率よくミルクのレベル上げをサポートできる」
友だち思いのアヤメだが、効率を考えるなら俺が一緒が一番いいだろう。
今日中にレベル12くらいまでは増やしたい。
「サポートよろしくね、泰良」
「おう、任せとけ」
ミルクとアヤメ。
二人がどんな会話をしていたのかは次回、じっくり書かせてもらいます。




