道の駅のレストラン
久しぶりの姫の車に乗っている。
本当に、俺たちのメンバーの中で、一番若く見える姫が実は最年長者で、唯一運転免許を持っているって何の冗談かと思った。
俺も免許を取りたいんだけど、うちの高校の校則では卒業まで運転免許の取得は禁止されている(内緒で免許取ってる奴が何人もいるけど)。
進学校のミルクやアヤメが通う高校は言わずもがな。
プライベートでも最近はちょくちょく乗っているらしく、前より乗りやすい感じがする。
「結構広い道の駅ですね」
「本当だね。天気もいいし最高の琵琶湖日和だよ」
最高の海日和みたいにミルクが言う。
そういえば、滋賀県の人は琵琶湖のことを海と呼ぶらしいし、なら海日和みたいに言っても問題ないのか。
いつもなら、遊びに来たんじゃないって姫が怒るところだが、今日は金曜日の放課後。
事情を説明して、金曜の午後の授業を俺たちだけ休みにしてもらった。
上松大臣も手を回して出席と同じ扱いにしてくれた。
ダンジョンに潜るのは明日の朝からの予定なので、いまは完全なオフ。
遊びといってもいい。
「彫刻プラザもあるんだって。いろんな彫刻があるね」
ミルクが写真を見て言う。
このまま彫刻プラザに行きそうな勢いだが、
「先にレストランに行こうぜ。営業時間終わっちゃうぞ」
もう十六時三十分だ。
ホテルで食事を食べようかと提案したのだが、明日の夜はホテルの食事になるだろうからと、今日はこの道の駅で食べることにした。
道の駅のレストランは昼食がメインなのだろう。
中は結構空いていた。
全員で食品サンプルのメニューを見る。
おぉ、近江牛の定食がある。
いろんなものがあるが、さすがにびわ湖ブルーカレーは売ってなかった。
さすがは滋賀県といえば近江牛だよな。
と他のメニューを見ていくとバームクーヘン豚?
なんだそれ、バームクーヘンの豚?
バームクーヘン豚? いや、マジでバームクーヘン豚ってなんだ?
口に出して言いたくなるぞ、
「バームクーヘン豚」
俺じゃない。
そう呟いたのは姫だった。
「姫?」
「ち、違うのよ。こういうのってなんか気になるじゃない?」
別に咎めてるわけじゃない。
恥ずかしがることじゃないと思うが、思わぬところを聞かれてしまったから慌てたのだろう。
みんなで食券を買う。
「私はエビフライ定食にしようかな」
「ニジマス丼定食にします」
「近江牛弁当にするわ」
「じゃあ俺はバームクーヘン豚弁当にするよ」
そう言って食券を買った。
姫が恥ずかしそうに俺を睨みつけるが、別に当てつけじゃないぞ。
こういう聞いたことのないブランド肉が食べたくなるんだよ。
気になって調べたところ、バームクーヘンが混ぜられている飼料を食べて育った豚らしい。
全国銘柄ポーク好感度コンテストでは最優秀賞を受賞した経歴もあるのだとか。
アヤメのニジマス丼にはニジマスのお刺身とイクラがいっぱい乗ったお重の定食だ。
ミルクのエビフライは頭のついた大きなエビフライが二本もある。これまた美味そうだ。
そして、俺と姫の食事も運ばれてくる。
これは、豚の生姜焼きだな。
うん、甘い……気がする。さすがバームクーヘンを食べてるだけはあるな。
あっという間に残り三切れに。
「姫、そっちの近江牛一切れくれ。お前の気になってたバームクーヘン豚一切れやるから」
「気になってないわよ。でもそのトレードには応じてあげるわ」
「泰良、私も豚一枚と食べかけのエビフライ、交換しようか?」
「食べたやつ渡すなよ。てか、残り少ないんだから――」
ミルクが齧ったエビフライが俺のご飯の上に乗り、自動的に豚肉が奪われていく。
そして、残り一枚になってしまったところで、アヤメがこっちを見ていた。
「あぁ、アヤメ。そのニジマス、少しわけてくれないか? 俺の豚肉一枚やるから」
「はいっ!」
アヤメとニジマスをトレード。なんとニジマス二枚にイクラも少し貰った。
うん、ニジマスも淡泊でありながらしっかりと甘味があり、美味しいな。
豚肉はあまり食べられなかったが結果的にいろんなものを食べられてよかった気がする。
とその時だった。
「おーっほっほっほっほ! 久しぶりですわね! 皆さん」
この高い音程の笑い声、直接聞くのは久しぶりな気がする。
押野妃――姫の腹違いの姉さんだ。
「妃、なにしてるの?」
「なにって、偶然通りかかったらあなたたちがいたから挨拶に来たのですよ」
「一緒に食事をしないならさっさとホテルに帰ってなさいよ。ここは食事をするところよ?」
「わ、わかってますわ! 誰か、メニューを持ってきなさい」
「メニューはあっち。注文は食券形式よ」
「券? 食事をするのになぜ券を買っているのです?」
マジか!?
この人、食券システムを知らないのか。
さすが生粋のお嬢様だな。
姫はわりかしそういうところに柔軟な対応をしているのに。
姉妹の差か。
「そっちの方が便利だからよ」
「なるほど、人件費、オーダーミス、会計ミスの削減、そしてお金に触れないことで衛生面の向上など工夫をして、この安さで提供しているのですね。どうりで、本来なら何万円もする牛肉の定食がわずかこの価格で提供できるのですわね」
この値段でもちょっと割高かなって思ってたんだが。
「では――」
と妃さんが食券を買おうとしたところで――
「お客さん。ごめんなさいね。もうラストオーダーの時間が終わっちゃったの」
店のおばちゃんが言った。
あ、本当だ。ラストオーダーの時間五分も過ぎてる。
「え?」
妃さんが固まったまま、少し泣きそうな顔をしていた。
ていうか、この人、何しに来たんだ?




