太陽の首飾りの使い道
俺たち探索者は、ダンジョンの中と外では使える力が大きく異なる。
例えば、インベントリや詳細鑑定、エルフ語のような戦いに関係のないスキルは使えるが魔法や基礎剣術のような戦闘用のスキルは一切使えなくなる。
そして、ステータスの恩恵も失われる。
ダンジョンの中だと巨大なミノタウロスですら一撃で屠れる俺も、完全にダンジョンの外に出たらゴブリン一体を相手にするだけでも苦戦してしまう。
それが、太陽の出ている間だけとはいえ、ダンジョンの中と同じように力を扱える。
「このアイテムの正体が明らかになるのは危険すぎますよね」
アヤメが言った。
高レベルの探索者が扱えば、それこそ一つの軍隊をも退ける力が手に入る。一人軍隊となりえるアイテムだ。
紛争地帯でありながら、高額な兵器を購入できない小国ならば、絶対に手に入れたいアイテムだろう。
そうでなくても、ダンジョンの外に魔物が現れる事例はいくつもある。
欲しがる国は多いだろう。
殺してでも奪い取るというレベルの激ヤバ魔道具だ。
姫が太陽の首飾りを手に取り、装着する。
そして、次の瞬間、九人の姫が現れた。
分身スキルを使ったらしい。
「太陽が出ているのなら、室内でも使えるのね。分身もダンジョンの中みたいに動けるわ」
分身の姫たちが高速組手をしている。
ダンジョンから出てステータスが大幅に低下した結果、動体視力も落ちている俺には目で追うことすらできない。
そして、本体の姫が太陽の首飾りを外した途端、分身の動きが遅くなった。
「効果は本物ね。ここまで優秀だと確かに戦争の火種になる可能性もあるわよ。それが怖いなら黙ってたら?」
「……でもさ、牛蔵さんの事件があっただろ? あの時、もしも牛蔵さんがこの首飾りを持ってたらって思うとな」
戦争の原因や争いの元になってほしくはない。
だが、これがあれば助かる人だっていると思う。
「甘い考えだよな。これが原因で争いになってほしくないのに、これのお陰で誰かに助かって欲しいとも思うんだ」
「甘いわね。でも、泰良はそうだったわよね」
「はい、壱野さんはそういう人です」
それって褒められてるのか? それともバカにされてるのか?
一体どっちだろう。
でも、どうしたらいい?
「ちなみに、二人はどっちにしたらいいと思う?」
「ダンジョン攻略の役には立たなそうだし、使ってもらったらいいんじゃない? 死蔵させておくのは勿体ないし」
「私は慎重にした方がいいと思います。まだ黒のダンジョンから魔物が溢れると決まったわけでもありませんし」
二人の意見は分かれたか。
「壱野さん、ミルクちゃんにも聞いてみたらどうでしょう?」
そうだな。
ミルクにも聞いてみるか。
彼女に念話を送る。
『あれ? 泰良? アヤメとデートじゃなかったの?』
『デートじゃなくて仕事だけどな……実は太陽の塔に入ったときに開いたD缶から――』
と俺は説明をすると、また少し間があった。
たぶん盛大にため息をついてるんだろう。
暫く待ってから、『運が良すぎるのも問題だね』と皮肉を言われた。
自分でもわかってる。
それで、俺はどうしたらいいと思う?
『泰良のしたいようにしたらいいと思うよ』
『いや、それがどっちかわからないから困ってるんだよ』
『何言ってるの? さっき言ってたじゃない。太陽の首飾りが原因で争ってほしくないけれど、でもこれで誰かの助けになりたいって』
ミルクは一呼吸おいて続けた。
『上松のおじさまに、泰良の希望をそのまま伝えれば?』
それは俺以上に甘い意見だった。
上松大臣に相談して、もっともいい使い方を選んでもらう。
彼女はそう言っているのだ。
ただし、そのまま伝えるのではなく、これから話すこと、見ることは口外しない、そして契約に関して嘘を吐かないという誓約を魔法の契約書を使って交わしてから話した。
上松大臣もある程度覚悟を決めていたらしいが、太陽の首飾りの話を聞いて大きくため息をついた。
しかし、その後に発せられる言葉は俺たちの想像とは違った。
「まさか、太陽神の方が出て来るとは……てっきり、夜月神の腕輪が出て来ると思っていたのだが」
「「「え?」」」
「夜の間だけダンジョン内と同じ力が扱える魔道具――夜月神の腕輪という装備が政府によって確認されている」
「そうだったんですか――わざわざ契約書にサインまでもらう必要はなかったですね」
「いやいや、そんなことはない。夜月神の腕輪は世界に一つしかないし、類似品はこれまで確認できなかったからね」
それでも凄い。
こんな超危険魔道具の類似品が既に存在したとは。
「大臣、一体、その夜月神の腕輪ってどの国が所有しているの?」
「所有しているのは国ではなく個人だ」
個人っ!?
いや、俺たちも現時点で個人で所有しているから他人のことは言えないが、それが許されるってよっぽどの人だぞ。
一体それって――
「安全なの?」
「ここだけの話だが、C国の諜報員が彼を殺して夜月神の腕輪を奪おうとする事件があった。三百人の一流の諜報員――殺し屋だ。もちろん、夜月神の腕輪の効果が出ていない昼間にね」
「それで、どうなったんですか?」
「全員、自首したよ。他にも彼の持つ夜月神の腕輪を奪おうとする人間は全員、次の日には自首をした。諜報員の持つ全ての情報とともにね。それから彼の持つ夜月神の腕輪を奪おうとするのは禁忌となった」
そりゃ大変だ。
諜報員が持ってる情報が全部筒抜けになるんだから。
でも、よく国が許可するよな。
個人が核兵器を持ってるようなものだろうし。
って、その個人ってもしかして――
「大臣。その夜月神の腕輪を持っているのって」
「ああ、キング・キャンベル氏だ」




