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要石

 彼とこうして会うのは三度目だが、関わるのは四度目か。

 一度目は本当に出会っただけだった。

 若草山ダンジョンでエルダートレントの変異種を集めているときに出会った。

 その時は本当に出会っただけ。

 彼の名前も知らなければ、その正体もわからなかった。


 二度目、これは直接出会ったわけではないが、彼が呪いを仕掛けた不良グループが俺に襲い掛かってきた。

 その時は水野さんも一緒にいて、危ない目に遭うところだった。


 そして、三度目。

 ミレリーと出会ったとき、彼は竹内信玄さんと一緒に現れ、いろいろと教えてくれた。

 俺との関わりはその三度だが、ミルクのD缶を奪ったカラスが実は彼のペット(?)かもしれないということだ。


 いろいろと謎多き彼だが、こうして出会ったとき何を聞けばいいかわからない。

 結局俺が行ったのはなんてことのない挨拶だけだった。

 いつでも短距離転移ショートワープの魔法くらいは使えるように警戒しておく。


「久しぶりという程の間は空いていない。いや、時間の感覚というのは加齢とともに加速するというのだから、私にとってはつい最近の出来事と感じていたとしても、まだ高校生の、未来ある若者にとっては久しいと感じる期間があったのかもしれないな」


 ただの常套句としての挨拶にそこまで考察されても困る。安易に久しぶりと言った自分が恥ずかしくなる。


「不破さんは何故ここに?」

「君に名乗った覚えはないのだが、そうか。そういえば信玄が私の名を呼んでいたな。なに、最近この迷宮に呪いの気が満ちていたからな。その呪いを集めに来たのだが、しかしすっかり祓われてしまったようだ」

「すみません。昨日俺が倒してしまいました」


 謝った。悪いことはしていないが、相手の希望を奪ったのだから、つい謝ってしまう。

 これもまた常套句として言っているのだ。

 俺から発せられる言葉は自分で思っているより単純なのかもしれない。

 これが姫だったら謝らないんだろうな。

 アメリカ人は謝罪をしたら、裁判で負けを認めることになる――なんていうのは都市伝説かもしれないが、何かあれば謝ってしまうのは日本人の悪い癖なのかもしれない。

 と考えながら思い出す。

 そういえば、水野さんが襲われたとき不良グループの中から出てきた呪い――その姿はやはり黒い蛇の姿をしていた。

 もしかして、ここで集めた呪いから作られたのだろうか?


「謝る必要はない。ここには呪いを集めに来たのだが、むしろ地脈の維持という役目の方が大きく苦労の方が大きかった。それに、祓われたとはいえ、呪詛はまだこの地に満ちていたからな。私としては余計な手間を省いてその呪詛を手に入れられたことの方が大きい」


 不破さんは俺に説明をするよりも独り言のようにつぶやき、占いに使う水晶玉のようなものを取り出す。

 その玉の中は黒い何かが渦巻いており、とても不気味だ。


「……呪詛を集めて何をするのですか?」

「呪詛は私にとっては武器だ。君たちが剣を磨いたり、拳を鍛えたりするのと同じように、呪詛を集めるのは己を高めることに等しい」

「それで誰かを呪うんですか?」

「勘違いしてもらっては困る。呪いを生業とする者の仕事の大半は、誰かを呪うことではなく、呪いを祓うことにある」


 そういえば、ミコトも呪禁師の歴史は呪いを祓う仕事だって言ってたな。

 昔の医者のような仕事も兼ねていた。

 そう考えると、その本質は相手を呪うことではなく祓うことなのかもしれない。


「君の友の陰陽師のようにな。もっとも、依頼があれば誰かを呪うこともあるかもしれないが」

「随分とズルい言い方ですね」

「それが大人というものだ。まぁ、その祓うにしても呪うにしても、最近では軽いものだと万能薬一つで治療できるようになったのだから、商売あがったりだがな」


 不破さんはそう言って帽子を取り出すと、それを深く被って立ち去ろうとする。


「あの――」

「あのエルフについては話すことは何もないぞ」

「……俺の仲間がD缶を盗まれたんですが、その盗んだカラスが不破さんの飼っていたカラスにそっくりだそうなんです。心当たりはありませんか?」

「場所は?」


 不破さんが立ち止まり、振り返る。

 心当たりがあるのだろうか?


「石切神社です」

「……なるほど。鴉が妙なものを持ってきたと思ったが、これは君たちのものだったのか」


 彼はそう言って隠す素振りも見せずに懐から石を取り出した。

 拳くらいの大きさの三角錐の石だ。


【要石:呪いの発生源に設置し、封じるための石】


 呪いを封じる石?

 そんなものがD缶の中に入っていたのか。

 どうやって使うんだろう?

 詳細鑑定を使ってもっと調べようとしたが、不破はそれを鞄に入れた。


「返してくれないのですか?」

「いまは返すつもりはないが、悪いようにはしない。代わりにこれをやろう」


 そう言って不破さんは俺に黒い液体の入っている瓶を渡す。

 かなり不気味な上に鑑定もできない。


「君の友だちの聖獣にならこの価値もわかるだろう」

 

 そう言って、彼は去って行った。

 ミコトのことを知っているのか。

 追いかけようかとも思ったがやめることにした。

 彼のことを完全に信用したわけではないが、俺を騙そうと思ったのなら、あそこで要石を出さずに別のものをD缶に入っていたと言って取り出すこともできたはずだし、なんなら心当たりはないと言って白を切ることだってできた。

 それに、要石は呪うためのアイテムではなく、呪いを封じるためのアイテムだ。

 呪いを祓うことが彼の本分だという言葉を信じるのなら悪用はできないだろう。

 それよりも、この不気味な液体をどうしたものか。


 ダンジョン産のアイテムではないからインベントリに入れることもできないし……ダンジョンから出たらPDに持って入ってミコトに押し付けるとするか。

 そう考えながら、俺は聖域シートをインベントリに収納したのだった。

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― 新着の感想 ―
アニメ化、、、製作会社ガチャで当たり引けるといいですね。韓国系でゴミアニメになった作品を見るたび悲しくなる。
追いついてしまった.....更新...
キングが、最初敵っぽかったのが味方よりになってるということは、この人は…… 謝罪と賠償の代わりの謎の液体?はてさて
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