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スライム酒

 翌朝、少し早起きしてPDでスライム狩りをする。

 一回のノルマを宝箱が出るまでと決めた。

 棍棒の扱いにも慣れてきた。

 少し疲れてきたらダンポンのいる部屋で休息をとる。

 レベルが上がったお陰か、レベル上げを始める前に比べ、寝つきもよく疲労の回復が速い気がする。

 昨日の夜、梅田ダンジョンの情報まとめサイトを読んでわかったのだが、宝箱はスライムを約500匹倒すとダンジョン内のどこかに現れるらしい。

 これは非常にわかりやすい指標になる。

 時計もないし、スマホも持ち込めない、太陽の光も差し込まないダンジョンの中だと時間の感覚がおかしくなり、いくらでも籠ってしまう。なので宝箱が出るまでという目安はわかりやすい。

 梅田ダンジョン一階層の広さは五メートル四方のブルーシートを並べて一万人収納可能って言っていたから、25万平方メートル。だいたい甲子園球場一個分くらいだ。

 真四角のダンジョンだったら宝箱が出ても見逃すことはないだろうけれど、結構入り組んでいる。体感ではかなり広い面積を歩いている気がする。

 宝箱はどこに出てくるかわからないし、同じ場所で狩り続けたらスライム狩りの効率も落ちるから、常に歩き続けている。

 梅田ダンジョンだと地図とか案内標識、スタッフがいるので迷うことはないが、PDでは地図も自分で覚えないといけない。

 これは大変だ。

 そう思いながらスライムを狩り続け、ようやく宝箱を見つけた。

 今日の狩りはここまでだ。

 ちなみに、中身は――


「水晶?」


 紫色のクリスタルのようなものが入っていた。

 値打ちものだろうか?

 ダンジョンについては俺はそれほど詳しくない。あとでスマホで調べてみよう。


 一度仮眠を取り、風呂に入ってから学校に向かう。

 母さんに「なんであんな(短い時間の)ジョギングでこんなに汗をかくの?」って怪しまれたが適当に誤魔化した。


 そして真面目に授業を受ける。しっかり仮眠を取ったけれど、疲れは完全に取れていないのか少し眠い。

 それでもなんとか頑張り、昼休みになった。

 青木と一緒に昨日のダンジョン探索について話す。

 昨日、青木はダンジョン探索者をやめると聞いて、親からかなり怒られたらしい。


「なんでまた? 親御さん、ダンジョン探索者になるの反対してたんじゃなかったっけ?」

「ああ。説得するのにかなりかかった。でも、昨日は男が一度決めた事を簡単に翻すなって――親父に殴られるかと思ったよ」

「そこは殴られなかったんだ」

「うちの親父、レベル32だぞ? さすがに自制できるって。アンガーマネジメントってやつらしい」


 ダンジョン内のステータスはダンジョンの中でその真価が発揮されるが、ダンジョンの外でも少しは影響が出る。

 レベル32といえばステータスもそこそこ高いだろう。

 

「親父さん、警察官だっけ? やっぱり警察官はレベル高いんだな」


 ダンジョンが出来てダンジョン探索者が増えてから、その探索者による犯罪も増えたからな。取り押さえる警察官にもレベルが求められるようになった。

 とはいえ、ダンジョンの外だとレベルによる恩恵は少なく、さすがに拳銃の弾を素手で受け止めるような凶悪犯はいまのところ現れていないが。


「じゃあ、探索者を続けるのか?」

「いまはバイトする。金をためてダンジョン留学する」

「ダンジョン留学って、かなり高いだろ? マジかよ」

「物価の安い国に行けば、それでも300万くらいだな」


 梅田ダンジョンのような場所でレベルを10に上げようと思ったらかなり時間がかかる。

 それに安全マージンのことを考えると、人が少なくても何週間もかかる。

 だが、海外のダンジョンの中には安全マージンのない、つまりレベル1でも深い階層に潜れるダンジョンがある。

 その中で、安全に魔物を狩る方法が確立しているダンジョンに行って強制的にレベルを上げる為の旅行のことをダンジョン留学と呼ぶ。

 だいたい二週間でレベル10になって帰って来られるってわけだ。


「バイトってなにをするんだ?」

「何するか考え中。とりあえず、来週までには決めたいと思う。ひとまずダンジョン関係がいいな」

「まぁ、頑張れ」


 俺はスライム酒を売ってぼろ儲けさせてもらうが、PDのことはあんまり広められないからな。

 そういえば、これって高く売れるのかな?

 と俺はあとで調べようと思っていた水晶を取り出す。


「ん? お前、配信クリスタルなんて買ったのかよ。高かっただろ?」

「配信クリスタル?」

「違うのか? そう見えるが」

「ってなんだ」

「知らないのかよ。ダンジョン内で配信するための道具だよ」


 え? 普通ライブ配信とかってスマホや専用機材などを使って行うよな?

 ってそうか。ダンジョンは結界があるせいでそれらを持ち込むことができないんだ。

 ダンポンはパソコンを使っていたが、あれは例外だろう。

 だったらどうやってダンジョン内の配信をするのか?

 俺はダンジョンについて調べ始めたのはつい最近のことなので知らなかったが、そのために使うのがこの配信クリスタルなのだろう。


「そのクリスタルは周囲からの映像情報をダンジョンの外に送ることができるんだ。動画配信だけでなくて、必要な情報を外部から送るのにも使える。メール……いや、ポケベルみたいに文字の情報の受信も可能なのがそのクリスタルだ」


 そのデータを送る方法だが、それは俺にもわかる。

 昨日、ダンポンがパソコンを使っていたからわかったが、ダンジョン内にはWi-Fi、もしくはそれに似たものが繋がっているのだ。

 スマホで動画配信用のクリスタルを検索した。

 出た。

 結構売られている。

 ……って高っ!?

 相場10万って。


「ダンジョン内だと結構出るんだが、それ以上に需要が高い――ってそうだ! 俺、ダンジョン映像編集者の資格を取る!」

「は? バイトはどうしたんだよ?」

「資格を取ったらダンジョン配信映像の編集のバイトも見つかるだろ? さっそく申し込むわ」


 と行動力が神がかっている青木は早速講習を申し込んでいた。

 俺も気になったので調べてみたが、受講料9万円とバカ高い。

 よくこんなの躊躇いもなく申し込めるな。


 家に帰った俺は、さっそく庭のダンジョンに行った。

 ダンポンはまだゲー〇ボーイで遊んでいた。

 俺に気付いたので、


「こんにちは」


 と挨拶をすると、


「こんにちはなのです」


 と挨拶で返してくれた。

 カワイイ。

 そして預けていた棍棒を受け取り、スライムを倒しに行く。

 泊まり込みで行う予定だ。

 目標は3000匹――宝箱六回分。

 今のペースで戦えば、1分で3匹くらい倒している。倒すときは一撃だが、探すのに時間がかかる。

 1分で3匹なら20時間で3000匹。

 さすがに休憩を入れる必要もあるから、丸一日の作業だ。

 スライム1匹につき黒コイン1枚、50円。

 3000匹なら15万円か。

 ただ、ダンポンとの約束でDコインの換金はこのダンジョンで換金ができるようになるまでほどほどに。

 それまではスライム酒が俺のメイン収入となる。

 3000匹でスライム酒の期待値は3本か。

 宝箱から配信用のクリスタルが出てくれたら二個目以降は売っていけばいいんだが、そう簡単には出ないだろうな。


 ということで、スライム狩りに行く。

 これが結構疲れる。

 宝箱一個目出るまでが長く感じる。

 ようやく出た宝箱の中身はピンポン玉サイズの黒い魔石だった。魔石は日本政府が脱炭素エネルギーとして注目しているもので。最優先買い取り対象になっている。が、この魔石なら売っても500円くらいにしかならないだろう。

 しかし、この魔石のお陰で日本の電気代は非常に安くなった。

 世界中の火力発電所の発電量が10年前に比べて一割未満になったっていうから凄い話だよな。

 コインと魔石の色は黒<白<黄<赤<青<紫<銅<銀<金の順番で高くなる。

 紫までは冠位十二階と同じ順番だ。

 実は金色より上のメダルがあるそうだが、未だ発見には至っていない。

 あくまで噂の話だが、金色の魔石だと同じ大きさで500億円で売れるらしい。それだけ莫大なエネルギーを秘めているということだろう。

 その後も宝箱から出るのは安い品やガラクタばかりだった。

 むしろ価値があるのはスライム酒の方か。

 3000匹だと期待値3本しか出ないはずのスライム酒が7本も出た。

 確率の偏りに感謝だ。

 さて、これをどうやって販売するか?


 ダンジョンからのドロップアイテムを買い取る事ができる業者は限られている。

 普通のリサイクルショップで売る事はできない。

 売れる場所は三種類。


・ダンジョン販売所で売る。

 国から許可を貰っているダンジョンの商品を卸す場所だ。

 ここに持っていけば、ダンジョンで手に入れたものならガラクタ以外だいたい買い取ってくれる。

 物によっては高価買取もある。


・ダンジョンオークションに出品する。

 これは週に一度、いろんな場所で開催されているもので、値打ちものなどが取引されている。

 通常買い取り価格の数十倍の値段がつくこともあれば、最低価格でも売れないことがある。


・換金所で売る。

 これは最低価格での買い取りだ。

 持ち運ぶのが面倒なガラクタなども買い取ってくれる。

 尚、ここで売られたものはダンポン経由でオークションに出品される。


 どれを選んでも、個人情報に紐づけされて収入が記録される(所得隠しはできない)のだが、販売所やオークションで売るときにスライム酒を何本も持っていけば、いったいどうやって入手したのか怪しまれる。

 なので、一本は販売所で売って、それ以外はダンポン経由で売るのがいいと思う。

 高校生だし、とりあえず数万円あれば十分だろう。


 ということで、次の日の放課後、俺は電車に乗ってダンジョン販売所に行くことにした。

 そこで、俺は思わぬ人と再会することになった。 

 薄いピンク色の髪のポニーテールの少女がこちらを見て驚いて声をあげる。


「え? 泰良?」

「ミルク?」


 同じ中学だった牧野ミルクだ。ちなみに本名。

 高校は別なので疎遠になってしまったが。


「お前、なんだよ、その髪の色。高校デビュー?」

「違うわよ。地毛よ。覚醒したの」

「え? マジで!?」


 覚醒とは、魔力に目覚めることを言う。

 十八歳に近くなると、一万人に一人の確率で魔力に目覚め、魔法が使えるようになる。

 その時の魔力が強いと髪の色が本来とは異なる色になることがある。

 レベルを上げても魔力が0な俺と違って、ミルクにはレベル1の時から魔力があるらしい。


「まさかこんなところで会うなんてな」

「本当だね。地元だと家は近いのにほとんど会わないんだもん。え? 泰良、探索者になったの? そういえば四月生まれだもんね」

「ああ、一応な」

「ってことは青木も? たしか青木も同じくらいの誕生日だったよね?」

「あいつは探索者一日で挫折した」

「あはは、青木らしいね」

「ミルクももう十八になったのか?」

「私の誕生日覚えてないの? 五月五日ってめっちゃ覚えやすいのに」


 あ、そうだった。

 女の子なのに端午の節句生まれって言ってたっけ。

 てことは、まだどんな魔法が使えるかわからないのか。

 ダンジョンに入らないと魔法は使えないし、一回ダンジョンに入らないとステータスが表示されない。


「ゴールデンウィークにね、私が十八歳になったお祝いを兼ねて、家族で石舞台ダンジョンに行くんだ」


 うわぁ、石舞台ダンジョンって、確かホテルの宿泊者限定で一泊最低百五十万って言ってなかったか?

 そこに家族全員で行くとか、さすがはお嬢様だ。


「だから、そこで使えるボウガンを買おうかなって」

「え? ダンジョンのボウガンってめっちゃ高いんじゃなかった?」

「うん。私も値段見て驚いたよ。一番安いのでも、矢三十本込みで五百万円だって」


 ダンジョンの中に地上の武器を持ち込めないし、ドロップアイテムや宝箱の中にも飛び道具は存在しない。

 だったらボウガンは?

 というと、なんとこれ、ダンジョン内の素材でできていて、しかもダンジョンの中で作られた武器なのだ。

 トレントという木の魔物のドロップ品の枝や丸太、蔦から。

 トレントの素材は加工が大変だ。

 ダンジョンの中だと機材の持ち込みもできないから一個一個手作りと値段が非常に高く、しかし安全に戦いたいという人から人気が高い。

 結果、とんでもない価格に跳ね上がっている。


「でも買ったんだろ?」

「うん、お父さんからカード預かってるから」


 とミルクは黒いカードを俺に見せた。

 友だちがセレブ過ぎる件について。


「泰良は?」

「俺はこっち」


 とスライム酒の酒瓶を取り出す。


「これ、お酒!? ダメだよ。成人したって言ってもお酒は二十歳になってから!」

「違うよ。売る方だ」

「あ、ダンジョンで手に入れたんだ。スライム酒でしょ? うわ、宝くじに当たったくらいの幸運だね」

「そこまで大袈裟じゃないって」


 たった0.1%の話だろ?

 と言って、俺はカウンターに持っていく。


「すみません、これの買い取りをお願いします」

「はい――え? これ、お客様が?」

「はい。ダンジョンでスライム倒して手に入れました」

「しょ、少々お待ちください」


 何故か店員さんが慌てて店の奥に行く。

 そして、出てきたのはモノクルを掛けた男。


「スライム酒だ……これを買い取りで? オークションに出されてはどうですか?」

「今すぐお金が欲しいんですよ。買い取れませんか?」

「買い取れないことはありません……一本約30万円になりますがよろしいでしょうか?」

「え!? 一本3万円じゃないんですか?」

「それは通常買い取りの場合です。いまは品薄なので値段も高騰しております」

「へぇ、ラッキー。じゃあそれでお願いします」


 品薄だから高騰か。

 てことは、大量に持ち込んだ場合、全部30万円以上で買い取ってくれるってわけじゃないんだな。

 もしかして、父さんもこのことを知っていたのか?

 だからあんなに驚いていたのか。

 買い取り手続きをしてもらっている間、買う物を考える。

 水が出る魔道具ってのもある。魔石を入れたら水が湧く水筒――って一本500万!?

 とてもではないが買えないので、普通の水筒にする。後は寝袋と枕は必須だな。

 荷物を運ぶためのリュックサックも。

 これらはドロップ品ではなく探索者向けのメーカーが作っている品だ。

 他にも便利そうなものを購入していく。

 通常のよりお高いが、30万という大金の前には軽い軽い。


「ミルクにも今度何か奢ってやろうか?」

「いいの? じゃあパンケーキ食べたい。今度の休みに――」


 と話をしていると二十歳くらいの金髪のお兄さんが優しい笑みで近付いてきた。


「ねぇ、ちょっと君」

「え?」

「さっきのスライム酒、俺に売ってくれないか。35万出す!」


 俺がスライム酒を売るって話を聞いていたのか?


「悪い話じゃないだろ?」

「ちょっと、お兄さん。ダンジョンのドロップ品って個人売買は禁止だよ。友だち同士でこっそりってのならありだけど、こんな場所で持ちかけていい話じゃないよ」

「うるせぇ! 外野は引っ込んでろ! なぁ、頷くだけで5万円得するんだぞ?」

「悪いですけれど、彼女の言う通りです。たとえ倍額積まれても売るつもりはありません」

「テメェっ!」


 と男が恫喝してきたところで警備員が走って来るのが見えて、男は逃げるように離れていく。


「なんだあいつ。そこまでしてスライム酒が飲みたいのか?」

「たぶん転売目的だと思う」

「転売?」

「スライム酒は品薄だから、オークションで売ればもっと高い金額で売れるんじゃないかな?」


 そういえば、店員さんもオークションを勧めてくれていたっけ。

 正式な査定が終わった。

 買い取り額は31万円らしい。

 1万円が誤差の範囲って凄いな。

 カウンター近くのテーブルに行き買い取り用紙に記入する。

 お金は現金ではなく、探索者用の個人認証カードに入金してもらい、そのカードを使って選んだ商品を購入。

 合計額7万円と、先日までの俺なら目が飛び出るくらいの額だったが、今の俺には安い安い。

 ……いや、少しドキドキしてる。

 買い物をしていると――


「なぁ、スライム酒入荷したんだろ? 売ってくれよ。この店だと販売価格50万くらいだろ?」

「買い取りはしましたが、まだ販売するまで手続きがありまして」

「そう言って上客に売るつもりじゃないだろうな? 俺はずっとここにいるから、他の客に売るのは無しだぞ」


 さっきの金髪の男が店員に詰め寄っていた。

 もう俺の関わるところじゃない。

 販売価格50万か……それでも買うっていうのならオークションで売ればよかったかな?


 ミルクとはここで別れる。

 別れ際、さっき話していたパンケーキをご馳走する約束で次の日曜日、お昼にここで会うことになった。

 そして、俺はもう一つの目的のため、ある場所を目指す。

 梅田の地下街の中央広場。

 梅田Dとは少し離れている。

 そこに、ダンジョンに続く階段があった。

 販売所に行く前にここにPDの入り口を作っていたのだ。

 地下に続く階段が現れたというのに、みんな驚きもしない。

 階段の上を歩いて行く人もいる。

 やっぱり俺にしか見ることができないし、俺にしか入れないダンジョンなのだと再認識させられた。

 なんでここにPDを作ったのか?

 それはもちろん、PDのダンポンと梅田Dのダンポンを接触させて、Dコインを換金できるようにするためだ。

 一時間もあれば終わるって言っていたので、もう十分だろう。

 PDを消そうとすると、階段が簡単に消え、普通の床に戻った。

 何ともあっけない。


 そして、電車に乗り、家に帰った俺は庭に再度PDを開いた後、階段を下りてダンポンに尋ねる。


「ダンポン、どうでした?」

「はい! 交換してきたのです」


 お、Dコインを無事にお金に換えられたようだな。

 よかったよかった。


「サ〇ダースとブー〇ターで!」


 ダンポンが通信ケーブルを振り回して言う。

 ゲームの話か。ダンポンの間でポ〇モンが流行っているのはよくわかった。

 尚、ちゃんとDコインの換金もしてくれていました。



――――――――――――――――――

壱野泰良:レベル7

換金額:4052D(ランキング:50K-100K〔JPN])

体力:37/37

魔力:0/0

攻撃:19

防御:15

技術:19

俊敏:17

幸運:128

スキル:PD生成

――――――――――――――――――

 

 お、順位が1000万以上から、一気に10万位以内に変わっている。

 まぁ、ダンジョンで食べていける人間って1万人もいないって言うし、スライム狩りで挫折した人が多いのだろう。

 何しろ、自由に狩り放題でも一日で終わる数じゃないもんな。

 なにしろ7000匹だし。

 そう考えると、初日に挫折した青木は英断だったのかもしれない。


 そしてダンジョン内も少し改善された。

 仮眠用の寝袋と枕を設置。

 この寝袋と枕、寝心地がとてもいい。

 マットレスが要らないレベルだ。

 このままここで寝起きをしてもいいレベル。

 そして、非常食を持ち込んだ。

 カ〇リーメイトと水だ。

 水はダンジョン内にも持ち込めるガラスの容器に入れて持ち込んだ。

 百円均一ショップで300円で売っているやつだ(百均なのに100円じゃないのは今更)。

 これで長時間ダンジョンに潜ることができる。


 ダンポンに質問したら、どうせ俺しか入ってこないダンジョンだから、その辺に置いていてもいいとのこと。

 ただし、武器はしっかり預けるように言われた。

 何故かって?

 保管料がダンポンの収入になるからだ。

 武器の預かりは三本までは無料だが、四本目以降は月額10D必要になるらしい。

 ダンポンにとってDコインってなんなのだろうな。


 ダンジョンに潜る。

 スライム狩りは今日も好調だ。

 そして好調なのはもう一つ。

 スライム酒が結構な割合で出る。

 300匹に一本のペースだ。

 1000匹に一本とはなんだったのか?

 確率の偏りが激しい。

 いちいち持って帰るのが面倒な感じだ。

 階段に並べているのだが、そろそろ歩くのが面倒になってくる。


「ダンポン……これ、買い取り頼めますか?」

「スライム酒、一本3万円で買い取るのです」


 値段十分の一か。

 でもここで売れば出処が詮索されなくていい。

 それに、いま市場に出回っているスライム酒は非常に少ないって聞く。

 飲みたい人が飲めないのってかわいそうだし、可能な限り市場に出そう。


「うん、じゃあとりあえず10本ほど頼みます」

「……うっ、僕が換金できるのは20万円までなのです……友だちからあまりお金を借りられなくて」

「そうなのか。だったらダンポンがこれを売って金に換えればいいんじゃないですか? 最低落札額3万円プラス手数料で売りに出せば最低額下回ることはないでしょう? 売れたあとで金を払ってくれればいいから」

「それはいい考えなのです。でも、それだとあなたがオークションに出せばいいのでは?」

「そうしたいんですが、PDの説明を他の人にできない以上それはできないんです」


 こんな能力、他人に知られたら嫉妬の嵐だろうし。

 せめて俺が有名探索家になるまでは隠し通したい。

 確定申告のある今年いっぱいでどこまで強くなれるかが勝負だ。


「わかったのです。では出品するのです。梱包と配送は僕に任せるのです」

「ええ、任せました」

「それと、さっき剣の所有申請が通ったです。これがダンジョン産銃砲刀剣類登録証なのです。ダンジョンの外に持っていくときは常に持ち歩いてほしいのです」


 とダンポンは一枚のカードを俺に渡した。

 こんな風になってるのか。

 感謝して受け取る。

 といっても、スライム相手に剣はまだ使わない。


 さて、スライム狩りを続けるか。


――――――――――――――――――――――――――


【酒好きが集まるスレ29】


352:名無しの呑んべぇ

 スライム酒の新情報出た

 

353:名無しの呑んべぇ

 飲めない奴に酒を勧める奴は逝ってヨシ!


354:名無しの呑んべぇ

>>352

 梅田の販売所の奴だろ? 粘着転売ヤーが揉めてたの動画に上がってた

 55万だって言われて騒いでた

 

355:名無しの呑んべぇ

 55万ジンバブエドルなら俺が買う


356:名無しの呑んべぇ

 オークションに出品されたんだ。10本同時に

 全部最低落札額3万円


357:名無しの呑んべぇ

 あれ? 転売ヤーも出品申請してたよな? 最低落札額60万で


358:名無しの呑んべぇ

 ていうか、なんでスライム酒ってそんなに価値あるの?

 ドロップ率0.1%っていっても浅草ダンジョンだと毎日5万人くらいの人が10匹スライム狩ってるよな?

 一日50本は出回るんじゃない?


359:名無しの呑んべぇ

 0.1%は最低幸運値を満たしてる場合な


360:名無しの呑んべぇ

 魔物のドロップアイテムは最低幸運値が設定されていて、それより幸運値が低い人の場合、ドロップ率は著しく下がる

 スライム酒の最低幸運値は50

 ベテラン探索者でもない限り満たせない値だ

 そんなベテラン探索者はわざわざスライムを狩らない

 だから、スライム酒は本当に滅多に出ない


361:名無しの呑んべぇ

 最低黄う〇ち


362:名無しの呑んべぇ

 理解した

 スライム酒、マジ貴重

 俺もベテラン探索者になってスライム酒集めてくる


363:名無しの呑んべぇ

 >>361

 肝臓や胆道の疾患、胆嚢の問題、膵臓の疾患の疑いあるから病院に行け。


364:名無しの呑んべぇ

 芋最高!


365:名無しの呑んべぇ

 見てきた

 本当だった

 出品者はダンポンになってる

 コレクターが死んで価値のわからない嫁が換金所売りしてるっぽい


366:名無しの呑んべぇ

 >>357

 値崩れ必至だな

 転売ヤー涙目でザマァ酒ウマ


367:名無しの呑んべぇ

 >>360

 いや、幸運値が50になるって、レベル200以上のトップ冒険者だけだからな?

 魔力と幸運以外のステータスはレベルが上がると上昇するが、幸運が上がるのは幸運値次第

 通常、レベル1からレベル2なるとき幸運値が上がる確率は3%くらいだって言われている。

 なぜなら、レベル1の状態だと幸運値が低いから


368:名無しの呑んべぇ

 ダンジョン談義は別スレでどうぞ


369:名無しの呑んべぇ

 幸運値を上げるには幸運値を上げる必要があるが幸運値が低いと幸運値が上がらないからやっぱり幸運値が必要になり、でも幸運値が低いから幸運値が上がらない


370:名無しの呑んべぇ

>>368

 ごめんなさい


371:名無しの呑んべぇ

>>368

 ごめんなさい


372:名無しの呑んべぇ

”(*>∀<)o(酒)"カンパーイ!


373:名無しの呑んべぇ

”(*>∀<)o(酒)"カンパーイ!


374:名無しの呑んべぇ

”(*>∀<)o(テキーラ)"カンパーイ!


――――――――――――――――――――――――――


今日はここまで。

勘違い物語ではないので、主人公が幸運値の化け物ってことは直ぐに理解します。


もしも「面白い!」「続き読みたい!」

と思われたのでしたら、

感想、レビュー、評価、ブックマークなど頂けたらとても嬉しいです。


軽い応援の気持ちでよろしくお願いします。

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何十万の取引が他人から見られる所で行われるなんて無用心ですね~
幸運値100がカンストじゃなかったんだ 初期値ブーストもあってLV200になるころにはエグい豪運先生になってる気がする マシュマロ側のダンジョン運営のメリットがどういうことなのか気になりますね わか…
俺の幸運値・・・低すぎ!?
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