名古屋ダンジョン探索
名古屋ダンジョンのロビーにおにぎりが販売されていた。有料のお茶もあって水筒に補給できるサービスもあった。妙○園というところの有名な茶葉を使っているらしい。
二つとも値段がそれなりにしたが、せっかくなので購入。
「本日、25階層が貸し切り状態になっております。その階層を跨いで移動する際は、入り口に設置している鐘を鳴らして誰かを呼んでください。鐘が設置されていなかったら既に貸し切り状態が終わっていることになりますので、自由に探索してもらって結構です」
自由移動ができる3階層まで案内してもらいながら係員に教わった。
ダンジョン階層の貸し切りはEPO法人の特権の一つで21階層以降で可能なのだが、申請がめんどくさいので利用したことがない。
そもそも、俺たちにはPDという申請不要の貸し切りダンジョンがあるからな。
俺たちの用事は17階層のメロンなので、そこまで行く必要はないんだが、貸し切りしたくなるほど美味しい階層なのだろうか?
地図を頼りに下の階層を目指しながら考える。
スマホは更衣室の貴重品入れに預けて来たので確認できない。
ふむ、こういう時は――
『姫、質問』
『どうしたの、泰良』
『いま、名古屋のダンジョンにいるんだけど――』
『なんでよ!? 大阪に帰ったんじゃなかったの!?』
『いや、ダンジョン産のメロンが食べたくて』
と新幹線の中での出来事を話す。
『呆れた。で、25階層の魔物の情報が欲しいのね。普通のネット情報だと20階層までの情報しかないものね』
『ああ。わかるか?』
『待って――うん、わかったわ。25階層にはドラゴンがいるわ』
『ドラゴンってあのドラゴンかっ!?』
頭の中に、七個の玉で呼び出されて願いをかなえてくれる龍の姿が浮かんだが、あれとは違うだろうな。
『泰良が想像しているドラゴンとは違うわよ。見た目はヴェロキラプトルに近いかしら? 名前もヴェロトルって名前で登録されてるし』
『ヴェロキタ……それってどこの怪獣だ?』
キング○ドラみたいなものか?
キングさんが言っていたことが気になってネット検索して覚えた。
『怪獣じゃなくて恐竜――獣脚類って種族の奴よ。ダチョウみたいに走ってるの』
『あぁ、ジュ○シックパークで見た気がする』
キング○ドラはわからなかったが、あっちの映画は金曜ロー○ショーで何度もやってるからな。
『で、その竜がどうした?』
『その竜の鱗が新素材として注目されているのよ。富士山事件では、戦車の装甲ですら魔物相手だと何の役にも立たなかったみたいだからね』
『竜の鱗で戦車を作るのか?』
差し詰めドラゴン戦車ってところだな……ん? なんかかなり序盤のボスとして登場して簡単に壊れそうな気がするが……うん、気のせいだな。
しかし、一体何枚の鱗が必要になるのやら。
『教えてくれてサンキュー』
『いいわよ。泰良に頼られるのは嫌いじゃないし。ミルクとアヤメに一歩譲った分、こういうところで巻き返しておかないとね』
嬉しいことを言ってくれる。
姫と念話を終了し、ミルクとアヤメと情報を共有する。
「へぇ、ドラゴンの鱗か。本当にファンタジーの世界だね」
「エルフと狐の神様が居候してる時点で今更だけどな。とりあえず、25階層、通過しておくか」
「なんで?」
「今後竜の鱗が政府から依頼されるかもしれないから、PDに登録しておきたい。ヴェロキタ……じゃなくて、ヴェロトルをいつでも倒せるようにな。それに――」
「それに?」
「いつか水野さんにドラゴンの鱗を使った装備を作ってほしい」
※ ※ ※
「くしゅん」
「水野先輩、風邪っすか?」
「ううん、ちょっと鼻がムズムズして悪寒がしただけ」
「それ絶対風邪っすよ。少し休んだ方がいいっすよ」
「うん、今ある仕事が終わってから少し仮眠を取るよ」
※ ※ ※
名古屋であろうと東京であろうと大阪であろうと、ダンジョンってどこでも同じだ。
地図があれば直ぐに下り階段に辿り着き、午前中に出発して昼過ぎには最初の目的地の17階層に到着した。
さて、メロンを落とす魔物は――
「なんだ、あの気持ち悪い魔物は――」
巨大な緑色の……ナメクジ?
頭の部分がライオンの鬣みたいになっている。
「シシウミウシだよ。ウミウシの魔物だね。酸を飛ばしてくるから厄介だよ」
「ウミウシか。あんまり近付きたくないな。それより、メロンを落とす魔物は」
「泰良、あの魔物だよ。メロンを落とすの」
マジか。
あんまり近付きたくないんだが。
「壱野さん、試してみたい魔法があるのですが、使ってみていいですか?」
「うん、別にいいけど」
なんだろう?
ここでアヤメが試したい魔法っていうのは?
「スラッグデス!」
アヤメが魔法を放った。
スラッグデス? スライムデスじゃなくて?
しかし、聞き間違いではなかったらしく、スライムではないはずのウミウシがその場で死んだ。
緑色の液体の入った瓶が出た。
この色は薬だろうか?
【メロンソーダ:とってもおいしいメロンソーダ】
あ、うん。メロン狙いだもんな。
「アヤメ、今の魔法は?」
「即死魔法(粘)の熟練度が上がって覚えたんです。ナメクジ、カタツムリに効果があるみたいですが、ウミウシにも効果があってよかったです」
ナメクジやカタツムリを殺す魔法か。
ナ○ック星人にも効果がありそうな魔法だな。
その後、アヤメや俺の魔法、ミルクの銃でシシウミウシを倒して、メロンを五個、メロンソーダを三十本ほど確保したところで、遅めの昼食にする。
天むすも美味しかったが、なによりお茶が上質だった。
さわやかな香り。そして、キリッとした渋味とほんのりとした甘味。
値段の価値はあると納得する味だった。
昼食を終えてボス部屋を目指す。
ボス部屋に登場したのは――
「ザリガニ!?」
巨大で真っ赤なザリガニが空を泳いでいた。
「海老神みたいですよ。ダンジョンロブスターをドロップするみたいです」
ザリガニではなくロブスターなのか。
「ロブスターか。名古屋名物エビフライにして食べてやるか」
「エビフライにするならロブスターじゃなくて、普通にクルマエビを買って帰って作った方が美味しいとおもうけどな」
ミルクが呟くように言った。
さて、どうやって倒す?
空を飛ぶ相手なら、姫の天翔が一番なんだが、彼女がいないのなら、アヤメの魔法かミルクの銃?
いや、俺でも本気で跳べばあそこまで届くかな?
「壱野さん、ここは任せてください! ゼンちゃん!」
「拙者の出番か」
アヤメがそう言ってヤツデの葉を取り出すと、一瞬で鬼幼女天狗の姿に変わった。
空を飛ぶエビと空を飛ぶ幼女の勝負が始まった。
カップラーメンができるより早い時間に決着がつき、海老神は巨大なロブスターへと変わった。
「これはマズいな」
俺が意味深に呟く。
ロブスターが大きすぎて、これを揚げるための天ぷら鍋やフライヤーが家にない。




