巨大な蛇
「世界という概念の中心?」
階段を下りながら尋ねた。
「そうなのです。ダンジョンというのは物理的に地下にあるのではないのはお客様も知っているはずなのです」
それは知っている。
例えば、この浅草ダンジョンの入り口付近の地下には様々なものがある。
ガスや上水道、下水道などの配管、地下倉庫、地下鉄など。
しかし、ダンジョンの中でそれを見ることはない。
何故なら、ダンジョンの地下は別の次元になっているからだ。
だから、いくらダンジョンを降りたところで、地球のマントルに到達することはないと言われている。
もっとも、マントルに到達するには何万階層も潜る必要があるので、実際に試した人はいないはずだが。
「ダディ、それでこの世界の概念の中心にはなにがあるの?」
「終末の獣だ」
「「「――っ!?」」」
終末の獣っ!?
「終末の獣って、まだ生きていたのっ!?」
「エルフの世界を滅ぼしたものではないよ。この世界の終末の獣だね」
ダンプルが引き継ぐように説明をした。
「この世界の……それの方が危ないじゃないですかっ!?」
「大丈夫だ。もう十年前に封印は済んでいる」
「封印……死んではいないんですか?」
「終末の獣は死んだところで、別の個体が現れる。それならば生きている者を封印したほうが安全だというのが我々の見解だ」
そういえば、エルフたちは一度、終末の獣を打ち倒している。
しかし、百年後、別の終末の獣が現れ、エルフの世界は滅んだと言われている。
って待て。
十年前って言ったか?
十年前っていえば、この世界にダンジョンができた年だ。
ただの偶然なのか?
そのことを尋ねようとしたところで、階段の終わりが見えてきた。
と同時に、何か凄い気配を感じる。
これまで感じたことのない気配。
かつて俺が倒した終末の獣よりも遥かに強大で、かなり気持ちが悪い。
その階段の奥底で俺が見たのは――
「蛇?」
大きさは段違いだが、確かにそれは蛇の頭だった。
その巨大さが故に、蛇の尾がまるで見えない。
そして、その蛇は眠っているように目を閉じていた。
「九つ頭を持つ蛇の怪物――それがこの世界の終末の獣だ」
「九つですか……八岐大蛇より一つ多いですね」
俺は腰にある布都斯魂剣――八岐大蛇を倒したという伝承を持つ剣――のレプリカをちらりと見て言う。
こんな巨大な蛇の頭があと八本もあるのか。
「九つの蛇といったら、ヒュドラのことでしょうか?」
「大阪にも空海が九つの頭を持つ蛇を倒した伝承はありますね」
え? 大阪に住んでるけどその伝承は知らない。
頭が複数ある蛇なんて、八岐大蛇くらいしか知らないんだがいろいろといるんだな。
「複数頭を持つ蛇や竜の伝承は世界各地にある。君たち日本人ならキングギ○ラがわかりやすいか」
キングさんが言った。
「「キング……?」」
「「ギ○ラ……?」」
何の話だろう?
名前からして、キングさんと関係あるのか?
「……すまない。逆にわかりにくかったようだ」
キングさんが申し訳なさそうに謝った。
あとでスマホで検索しよう。
「泰良、あそこ!」
「え?」
姫が蛇の頭の上を指差す。
蛇の頭が巨大すぎて気付かなかったが、その頭の上に人の姿があった。
その姿を見て俺は自分の目を疑った。
「キングさんっ!? いや――」
キングさんに似ているが、でもどこか違う。
すると、キングさんは姫の肩に手を置き、そして言った。
「彼はこの世界を救った勇者だよ」




