その1
異世界召喚風の世界にやってきたミルクたちチーム救世主一行。
ミルクは「算数大好きっ子」というハズレ職業を手に入れて城を出た。
ep271「 異世界に召喚されたのか?」とep.272「34階層の魔王」の間の話をミルク視点で少しだけ書きます。
「おっけー! じゃあ、この世界を楽しんでくれよな。おいらはこの世界のどこかにいるから、また会いに来てくれ! アデュー!」
「待ってくれ、まだ聞きたいことが――」
泰良がキッケくんを止めたけど、既にその姿は消えてしまった。
つまり、私たちはこれから、この異世界風ダンジョンを攻略しなければいけないということらしい。
しかも、私の職業は算数大好きっ子。
でも、泰良たちは凄い職業だし、元のステータスもある。
大丈夫、私たちなら攻略できる。
それにしても、本当にダンプルの力って凄いな。
ダンジョンの中には見えないよ。
さっきの王様たちも普通の人間にしか見えなかったし、そこら中にいる子どもも普通の子どもにしか――
と小さな子どもが突然私に抱き着いてきて――
※ ※ ※
私は気付けば森の中にいた。
あれ? ここどこ?
泰良は? アヤメもいないし、姫も。
いったいなにこれ?
「お仕事これで終わりかな。ごめんね、お姉さん」
「え?」
振り返って視線を下にずらすと、さっき私に抱き着いて来た子どもがいた。
「ごめんね、お姉さん」
「何をしたの?」
「お姉さんにはいなくなってもらわないといけなかったんだ。せっかくこの世界に召喚された勇者様には魔王を倒してもらわないといけない。でも、勇者様は自分で魔王を倒すとは限らない。だったら、仲間の一人を消してしまい、こう言えばいい。『あなたの仲間はきっと魔王に攫われたのです!』ってね。大切な仲間ならきっと助けに行くよね? それが、たとえハズレ職業を貰った無能な勇者のお姉さんでも」
子どもは歪な笑みを浮かべた。
つまり、あの王様はハズレ職業を貰った私を邪魔ものとして、どうせなら魔王退治に発破をかけるための人質代わりに使いたかったと。
私は王様にもこの子にも怒りが湧いて――こなかった。
むしろ――
「そういう設定かぁ……青木がいろいろと入れ知恵していたみたいだけど……」
わざわざ一人を別行動させるような設定を考えた青木に怒りが湧き、そしてなによりその一人に自分が選ばれた不幸を呪った。
「うん、とりあえず森を一人で脱出すればいいんだね」
「できるのならね。でも、ここは凶悪な魔物が出る死の森。生きて帰れるとは思わないことだね」
そう言って子どもの姿が消えた。
転移したのだろう。
とりあえず、泰良に念話で連絡を取る。
『泰良、聞こえる?』
『ミルク、突然いなくなったが、どうした? 何かイベントか?』
『うん、死の森って場所に飛ばされちゃったみたい。とりあえず自力で脱出してみるよ』
『そうか。まぁ、大丈夫だとは思うが、無茶はするなよ。きっと少し歩けばお助けキャラとか、そういうのが現れてチュートリアルが始まるはずだから』
『わかった。あと、王様の遣いが来て、私を攫ったのは魔王だとか適当なこと言ってくるけど、実際のところ犯人は王様だから』
『悪い王様だったか。いきなり奴隷にしようとしないだけマシか。わかった。こっちはうまいことやっとくよ。それより、食糧とか大丈夫か?』
『泰良から預かってるアイテムバッグの中に食べ物とかいろいろ入ってるから大丈夫だよ。最悪、魔法で栄養剤も出せるし、病気や怪我も平気だから』
薬魔法ってサバイバルの中では最強なんじゃないかな?
職業はハズレだけど、持っているスキルは強いから問題ない。
とはいえ、姫や泰良みたいな機動力はないし、アヤメみたいに魔法で空間を把握することはできない。
出口がどっちかわからないけれど、とりあえず歩くことにした。
ダンジョンの森の中。
鬱蒼と茂る森の中だけど、獣道らしき道がある。
たぶん、ここを進めってことなんだろうと思い、真っすぐ進む。
暫く歩くと、蛇が出て来た。
大蛇と呼んでもいいサイズの蛇だ。
アイテムバッグから出て来た三本のナイフが念動力によって動き、蛇に吸い込まれるように刺さっていく。
今度は二メートルはある巨大な熊が現れた。
明らかに私に向かって威嚇している。
熊に出会ったときは視線を逸らさず、後ずさりするように距離を取れって言われているけど――
私は迷わず魔法を放った。
石弾が熊の頭を破壊する。
銃を使う必要もない。
大きな虎が出て来た。無魔法の魔力弾を使ってやっぱり倒す。
落ちた金色のお金っぽいものをアイテムバッグに入れながら歩く。
泰良はちょっと歩けばお助けキャラが現れるって言ってたけど、いつになったら現れるんだろ?
……お助け?
もしかして、ピンチにならないと助けてくれないのかな?
と思っていたら、今度は一つ目の巨人が現れた。
「…………キャァァァァっ! 助けて、食べられちゃう!」
私が叫ぶと、茂みの中から男の人が現れ――
――パァンっ!
助けが入ったところで、私は一つ目巨人の目に銃弾を放った。
二十歳くらいの茶色い髪の剣士が少し困ったような目で私を見た。
「悲鳴が聞こえるから来たのだが――」
「助けに来てくれてありがとうございます」
「助けてない。勝手に助かったのだろう」
「でも、そうしないとストーリーが進まない気がしたので」
「ストーリー? よくわからないが、娘が一人でこんなところで何をしている」
「道に迷ってしまって。近くの町まで案内お願いできないでしょうか?」
「案内か……それは無理な相談だ。どうやって森の中に入ったかはわからないが、ここは死の森と呼ばれている。ここから出るには転移の魔法以外に方法はない」
「え?」
どういうこと?
いきなり詰んでるの?
あ、でも転移の魔法で出られるのなら、泰良が迎えに来てくれたら転移魔法で脱出できるのか。
だったら心配ないね。
「とりあえず、安全な場所まで案内しよう。俺の名前はクエンドだ」
「ミルクです。よろしくお願いします」
こうして私はクエンドさんと知り合い、森の中を進むのだった。




