没SS サキュバスとインキュバス
一巻の書籍特典用に書いたけど、文字数増やせず没にしたSSです
俺の通う月新高校は校則が緩く、そして曖昧だ。
漫画やラノベの持ち込みは禁止されているが、スマホは休み時間限定で利用可能。だから、電子書籍で漫画やラノベを読むことができる。
スマホ中毒の青木もラノベを読んでいた。
この世界にダンジョンが生まれて、もはや現実の世界がファンタジー小説になった現在でも魔物と戦う小説は人気がある。
そのせいで書店は混乱している。
同じ日本のダンジョンを舞台にした作品でも、ダンポン以外が管理しているダンジョン物はファンタジー小説、ダンポンが管理しているダンジョン物は現代小説に分類される。
青木が読んでいるのは、ダンポン以外が管理しているダンジョン物、つまりファンタジー小説だ。
「どうせファンタジー小説なら、異世界物を読めばいいじゃん。もしくはリアルダンジョンを舞台にした現代小説」
「わかってないな。日本が舞台のファンタジー小説だから面白い作品もあるんだよ。現代小説にはエルフが出てこないだろ?」
青木はそう言って小説の表紙を見せた。
爆乳金髪エルフのイラストがある。
「エルフって現実のダンジョンにいないのか?」
「いないぞ。エルフだけじゃなくダークエルフもドワーフもハーフリングも獣人も。人魚はいるけどサハギンの亜種で半魚人みたいな見た目だしな」
まぁ、コミュニケーション可能な種族がいたら今頃大騒ぎだろうな。
「サキュバスなら目撃情報があったな。どっかの二十一階層にいるらしく、絶世の美女らしいぞ」
「え? 本当に?」
サキュバスと言えば、男性を誘惑する美女の魔物だ。
ファンタジー小説によっては悪魔の一種とも、エルフやドワーフのような亜人の一種とも言われている。
夢の中に現れるとも言われるが、そんな魔物がダンジョンの中にいるなんて聞いたことがない。
「ただし、写真がないからな、眉唾物だ」
でも二十一階層ってレベル100以上のトップランカー探索者が潜るような階層だ。
しかし、配信クリスタルがあれば映像も出回るのに、画像が無いのは妙な話だな。
「同じ階層にインキュバスが出るから、そのせいでサキュバスもいるんじゃないかって言われている。そっちの画像は裏サイトに大量に出回ってるぞ」
「裏サイトって――なんで裏なんだ?」
「表向きには見せれないだろ。人間を殺す魔物とはいえ、人間の見た目をしていたら人権団体が煩いからじゃないか? そして、それが男女問わず大人気だ。むしろ男の方が好きっぽい」
ん? インキュバスって、サキュバスの男版、つまり女を惑わす存在だ。
なんで男に人気なんだ?
「ほら、これがインキュバスの写真」
と青木が俺に写真を見せてくれた。
そこには――女の子? いや、男の子?
「インキュバスって、全員男の娘らしいぞ。たぶん、ダンジョンの探索者って女より男の方が多いから、男から精気を奪えるように進化したんだろうな。カワイイだろ? 俺もダンジョンに潜ったら一度でいいからインキュバスを見てみたいな」
「そうか……俺はあんまり興味ないな」
と言って青木にスマホを返した。
「そっか。まぁ、お前には牧野がいるもんな」
なんでそこでミルクが出てくるんだよ。
関係ない。
俺はさっき見たインキュバスの写真と青木を見比べて考える。
やっぱり、インキュバスより青木の方がカワイイ顔をしているんだよな。




