静岡支部からの依頼(その3)
『それで釣りをしてるの?』
『そうなんだよ。だから、暇といえば暇だし、忙しいと言えば忙しいぞ』
ミルクから、『今、暇?』と念話が届いた。用事ではなく、ただの雑談の誘いだった。
俺も暇だったので、その会話に乗る。
会話の内容はミルクにしては珍しい学校での愚痴だった。
学校でミルクとアヤメのことを大々的に宣伝したいと校長先生から打診があり、それを断るのに苦労していたのだという。
一通り愚痴を聞いたところで、ミルクが言った。
『でも意外だね。泰良が釣りをしたら直ぐにそのサファイアウナギだっけ? 釣れると思ったんだけど。全然釣れないの?』
『いや、さっきから釣れてるんだ――あ、また釣れた。これは海賊の宝箱か』
鑑定してみると、
【海賊の宝箱:通常の宝箱よりいい物が入っているかも】
と出た。
みんなへのお土産ということで開封せずにインベントリに入れておく。
『どうやったらそんなの釣れるの』
『俺が聞きたいよ。釣り竿が良すぎるのかなぁ』
俺が使っているのは匠の釣り竿という釣り竿だ。
釣果が良くなるというのと、とても丈夫なので使い勝手はいいのだが、魚ではなくお宝ばかり釣れる。
『運が良すぎるのも問題だね。とはいえ、私が釣っても長靴とかやかんしか釣れないと思うけど』
『それはそれで、どうやって引っかかってるんだって話だけどな』
『直接魚影を見て狙ったりできないの?』
『いや、直接魚影ってそんなの見えないよ』
水野さんだったら、素潜りして漁とかできるかもしれない。
この前みんなで淡路島に行ったとき、海に潜って素手で魚を捕まえていたし。
いや、待てよ?
魚影が見えないなら、見える場所まで視線を落とせばいいんじゃないか?
インベントリから遠視の義眼を取り出す。
遠く離れた場所を見ることができる魔道具だ。
宝箱の中とかD缶の中身は見えない。
便利なアイテムなんだが、便利過ぎて使い方を間違えると犯罪者御用達アイテムになってしまうので封印していた。
遠視の義眼を使い、水中を見る。
おぉ、まるで水中カメラを使っているみたいにくっきり見える。
湖の中を観察していると、宝箱は完全に沈まずに魚のように泳いでいる。
ダンジョンのギミックだろうか?
もしかして、この宝箱がミミックの一種……なんて。
魔物の気配は感じないからそれはないか。
宝箱ではなく魚のいる場所に向かって匠の釣り竿を振る。
沈んでいく餌の形をした針が見えた。
魚が迷いなく針に向かっていく。
来たっ!
釣り上げる。
普通の魚だ。
『初めて魚が釣れた。ミルクのアドバイスのお陰だ』
『よくわからないけど、どう致しまして。じゃあ、そろそろ宿題するから念話切るね。話に付き合ってくれてありがとう』
『それこそどう致しまして』
念話を切る。
釣れた魚は鑑定してみたところ美味しくない魚みたいなので、そのままリリースする。
とはいえ、ざっと見たところサファイアウナギの姿は見えない。
しかし、問題ないと思う。
宝箱が泳いでいない場所に向かって俺は釣り竿を振った。
暫く待つ。
HIT!
「おぉ、これがサファイアウナギ!?」
頭のところに青い宝石が埋め込まれているウナギが――
【蒼玉鰻:通称サファイアウナギと呼ばれるとても高級な青ウナギ。頭の宝石の部分は食べられない】
釣れた……が……小さいな。
頭の宝石が大きいから猶更小さく見える。
んー、これだと一人前にも満たないんじゃないか?
とりあえず、インベントリに……うん、入った。
鑑定できたことでわかっていたが、ダンジョン内で釣れた魚はアイテムと同じ扱いになるらしい。
まぁ、入らなかったら入らなかったで、恵比寿の魚篭に入れたらいいだけの話だったが。
これで一応依頼は達成だが、もう少し釣って帰るか。
またサファイアウナギが釣れた。
激レアなウナギだって言ってたけど、コツを掴んでみれば楽勝だな。
あと何匹か釣って帰るか。
こうして依頼は達成した。
ダンジョン局の支部長さんにとても感謝された。
報酬は後日振り込まれるらしい。
ちなみに、みんなで開けた海賊の宝箱の中身はほとんどが大量の魔石か金銀財宝で、使える魔道具類や装備品はなかった。
※ ※ ※
「I国のインフラに技術と資金を提供。資金提供は1000億円。総理のばら撒きか……ってサファイアウナギのことは一切書かれていないな」
ネットニュースを読むが特に何も書かれていない。
まぁ、どういう接待をしたとか、首相と要人が何を食べたかとか、誰がその食材を提供したとか、そういう話が話題になるのは、せいぜいアメリカの大統領が来たときくらいだろうか。
「いや、見る人は見てるぞ? ほら、このI国の要人の首元を見ろよ。見事なサファイアのネックレスだろ? 今回の件に注目していたI国、C国、日本の政治家連中や投資家連中は全員がこの宝石を目にしてくれている。既に情報通はそのネックレスの販売元がうちの会社が作ったものだって気付いて問い合わせが殺到してる。いやぁ、部長も大喜びだ」
兄貴の奴、いちご大福をおねだりしただけかと思ったら、俺がダンジョンに潜っている間に宝石のバイヤーとして働いて静岡県の支部長さんと話を纏めてやがった。
そして、今日は――
「父さん、誕生日おめでとう!」
「おめでとう。これ、俺からのプレゼント!」
「ありがとうな……って、これ、結婚式の引き出物の残りじゃないか? 同じの見た記憶があるぞ」
父さんが兄貴からカタログギフトを受け取って同じことを言う。
「泰良様の御父上、おめでとう。これはトゥーナが作ったエルフのお守り。長寿の加護が宿るとされている」
「これは妾から、霊験あらたかな厄除けの護符じゃぞ」
「ありがとう、トゥーナちゃん、ミコトちゃん」
トゥーナとミコトも誕生日プレゼントを贈り、父さんが喜んで受け取る。
千年は生きるエルフの長寿の加護が宿ったお守りと、分体とはいえ本物の神様の護符とか最強過ぎるプレゼントだな。
「それにしても、今日の夕食は豪華だな。このような巨大なウナギ、見たことがないぞ」
「ああ、浜松で釣ってきたんだ」
首相とI国の要人が食べたウナギよりも大きい。
小さいサイズで通常の買い取り価格がうん百万円(宝石抜き)らしいから、このサイズだとさらに一桁上がるかもしれない……がそのことは黙っておく。
あと、トゥーナ。これは高級ウナギなんだから、カレーをかけるのはやめてくれ。
今度す〇やに連れて行ってやるから。




