重なる急展開
「ミレリーって、泰良が言ってたエルフの女の子っ!?」
「本当に本人なの?」
「ああ、間違いない」
俺のことをイチ様と呼ぶのはミレリーだけだし、なにより胸元に俺がプレゼントしたブローチがついている。
本人であることは間違いない。
『そうですか……イチ様はやはり別の大陸のエルフではなく、別の世界の方だったのですね』
『気付いていたのか?』
『私自身が別の世界に行くようになってから初めて気付きました』
『ミレリー、お前、ダンプルからエネルギーを奪っているだろ。今すぐやめてくれないか?』
『申し訳ありません、それは出来かねます』
『なんで!?』
『私にはダンジョンのエネルギーが必要だからです』
『それで、ダンプルが仮死状態になっているんだ。お前、ダンプルとは仲が良かっただろ?』
ダンプルもまたミレリーのことを気に入っていた。
終末の獣に対抗するため、ミレリーを冒険者として鍛えているって言っていたし。
『…………』
『ミレリー! なんでこんなことをしているのか理由だけでも言ってくれ!』
俺は辛そうに俯くミレリーにそう言った。
その時だった。
突然、炎の玉がミレリーに襲い掛かった。
ミレリーはエルフの言語を使い、闇の矢の魔法を放つ。
エルフは闇の魔法が苦手なはずなんだが――
「って、なにやってるんだ、キッケ!」
俺はミレリーを突然攻撃したキッケに注意する。
システムナビゲーターなのに攻撃はできるのかよ。
「タイラー、そいつはエルフの勇者の残滓だ。このままにしておけない」
キッケがそう言ってさらに炎を放つ。
ミレリーもそれに対抗する。
炎と闇がぶつかり合う。
「泰良、どうなってるのっ!?」
「キッケが言うには、ミレリーはエルフの勇者の残滓らしい。だから放っておけないって」
「エルフの勇者? 勇者だからこの世界に渡ってきたのですか!?」
「本当にわからないんだ」
どっちの味方をしたらいいんだ?
ミレリーか? それともキッケか?
考えている間にも戦いは進んでいく。
キッケの奴、実は強かったのか。
そして、ミレリーも強い。
俺が知っていたミレリーはタイガーウルフに殺されそうになる強さだったのに、いまはレベル100相当の強さを見せている。
あの後、ダンプルに冒険者として鍛えられたのだろうか?
だが、勝負は一瞬だった。
キッケの炎がミレリーの闇を貫き――
「短距離転移! 魔法反射っ!」
俺はミレリーの前に転移し、魔法反射でキッケの魔法を明後日の方向に跳ね返した。
『……イチ様、どうして』
「タイラー、おいらの邪魔をするな! お前はダンプルを救いに来たんじゃないのか!」
「そうだ。だが、俺はミレリーの友だちだ。ここで殺させるなんてできない」
俺はキッケにそう言って、ミレリーを見る。
『ミレリー、エルフの世界なら俺が救う。エルフの女王のルシャトゥーナとも約束したんだ。お前がエルフの勇者だって言うのなら、エルフの世界を救いたいっていうのなら俺を信じて――』
『違う、違うのです。イチ様。私が救いたいのは、私が救わなくてはいけないのは――』
ミレリーが何かを言いかけたその時だった。
「壱野さんっ!」
どこからともなく現れた黒い蛇が俺たちに襲い掛かってきた。
それをアヤメの形代が受け止める。
「まさか、このような場所で見知ったばかりの者たちと再び出会うとはな。運命の定めか神の悪戯か――」
そう言って現れたのは若草山のダンジョンで出会った呪物を集めているらしい不気味な男だった。
こいつが訪れたのも驚きだが、それよりさっきの蛇。
「あの蛇、あんたの仕業だったのか」
「ん? 私の蛇を知っているのか……そうか。最近育てていた蛇が何者かに殺されたが、貴様の仕業だったのか」
「育てていただって?」
「心に闇を抱えている人間の中に巣食わせ、欲望を刺激し、さらに蛇を育てる。ようやく育って収穫の時期まで間もなくだと思っていたが――なるほど、以前に来たときは気付かなかったが貴様は勇者だったのか。勇者相手では小間使いの蛇では意味もないだろう」
何を言っているんだ、こいつは?
俺が勇者だって見抜いた?
こいつは一体何を知っている?
「あんた、何を言ってるの!」
姫が言うが、呪禁師らしき男は姫の言葉を無視して、札を投げて来た。
あれは形代?
と思ったら、紙が黒い狼に姿を変えた。
俺の影の中からクロが飛び出して迎え撃つ。
紛い物の狼なんかに負けないぞ――そう言いたげな戦い。
「おい、手を貸せ! 私一人では手に余る!」
「やれやれ――正直、この戦いは彼らには見せたくなかったのだが――」
呪禁師の言葉に応じるように現れた人物を見て、今度こそ俺は自分の目を疑った。
「うそっ、なんで――」
ミルクも彼を見て声を失った。
彼は困ったような笑顔を浮かべ、俺に言う。
「どのような事情があるかはわからない。ここは引いてくれないか?」
「事情を説明してください。なんであなたがここにいるんですか――竹内さん」
そこに現れたのは、日本の探索者ランキング第一位、竹内信玄だった。
信玄さんは黄金の竹刀を構えて言う。
「悪いが事情を説明することはできない」
「だったら俺も引けません」
「そうか。ならば――」
信玄さんの姿が消えた――って後ろかっ!?
「短距離転移」
気配で追った俺は、信玄さんとミレリーの間に転移した。
その時には既に信玄さんは斬りかかっていた。
俺は自分の身体で信玄さんの黄金の竹刀の攻撃を受けてしまう。
信玄さんの「しまった」っていう顔を見る。
そして、彼がその顔をした意味がわかった。
俺が弾き飛ばされた先はマグマの海の真上だったから。
『イチ様!』
「泰良っ!」
「壱野さんっ!」
ミレリーの、ミルクの、アヤメの声が響いた。
このままマグマに落ちたら危ない。
短距離転移で逃げようとしたのだが、胸を強く打ったせいで、呼吸がうまくできず、声が出ない。
このままじゃ落ちる。
竹内信玄:牛蔵の師匠、日本ランキング一位の探索者




