34階層の魔王
34階層の最奥。
そこに魔王がいた。
魔王といっても、まぁ40階層のボス程度で楽に倒せた……かに思えたが、突然、巨大な竜の姿に変身した。
正真正銘最後の戦いが始まる。
「いよいよ最後の戦いだぜ! 気を引き締めろ!」
キッケが言った。
本当に長かった。
ていうか、本当に長い。
体感、ファンタジー小説ワンシリーズ分くらいの冒険をした気がする。
時間の流れが外の世界の一万分の一になっていなかったら、俺たち四人ともとっくに捜索願が出されているところだ。
何度全部投げ出して家に帰ろうと思ったことか。
もしも、ミルク、アヤメ、姫の三人がいなかったら俺はこの苦難に耐えることができなかった。
それもこれで終わるんだな。
栄光の鎧を身に纏った俺は、聖剣エクスカリバーを抜く。
戦いの合図は、アヤメの魔法からだった。
「解放:神雷竜巻」
結局、元々使えた魔法が一番強かったらしく、救世のワンドを構えて放ったアヤメの魔法が魔王を巻き込み鱗を剥がして雷を叩きこんでいく。
そこに四方八方から姫とその分身達が迫った。
通常の分身九人と本体が、シャドーアサシンのとくぎである影分身を使いさらにそれぞれが九人の影分身を生み出した。
結果、その数は100人となる。
その100人がオリハルコンのクナイで魔竜を突き刺した。
明らかにオーバーキルな状態だ。
俺の出番はないのか? と思ったが、魔王は倒れない。
それどころか、体力が一瞬で回復している。
影分身の効果が切れて十人に
「魔王は心臓が七つあって、死んだら一瞬で回復するぞ!」
「つまり、七回殺さないといけないってことか? あと六回?」
「いや、壊れた心臓も直ぐに復活するから、まずは神の杖を手に入れて奴の身体を七つに分割する必要がある。導きの祠にそのヒントがあっただろ?」
「そこ、行ってない!」
なんかものすごい山の上にあったからめんどくさくて。
俺たちのレベルなら魔王だろうと十分倒せると思ったんだよな。
「なにやってるんだよ! 勇者なら全部の怪しい場所に行くのが当然だろ!」
「そんな当然知らないよ!」
魔王が炎を吹いた。
「冷気壁!」
アヤメの魔法が炎を防ぐ。
くそっ、このままじゃ――
「キッケちゃん! 魔王の心臓を一つにすればいいんだよね! だったら私の出番だよ!」
そう言うと、ミルクは三枚のカードを取り出した。
【ブランクカード】【除算カード】【7カード】
ミルクが木の鉛筆を取り出し、何も描かれていないブランクカードに文字を書き込む。
内容は【魔王の心臓】
彼女はそのカードを三枚合わせて天に掲げた。
「泰良、いまっ!」
「わかったっ! ライジングソード」
俺は聖剣エクスカリバーを天に掲げると自らの剣に雷を落とす。
そして帯電した聖剣エクスカリバーを魔王の眉間に突き刺した。
心臓が七つあれば魔王は直ぐに再生しただろう。
だが、魔王はもう再生しない。
その姿は一瞬輝いたかと思うと、灰となって消えていく。
「魔王の最後だ」
とうとう魔王を倒した。
「泰良、お疲れ」
「ああ。最後の最後までミルクに助けられた感じがするがな」
ミルクの職業【算数大好きっ子】にはある特別な力があった。
一日に十枚、文字、四則演算、数字の1~9が書かれたカードがそれぞれ配られる。
たとえば、【宝箱】【+】【3】だったら、宝箱の数が三つ増えたり、【商品の万の位】【-】【5】だったら商品が5万ゴールド引きになる。
ハズレ職業だと思ったら、戦闘にも補助にも普段使いにも万能に使える超高性能な職業だったのだ。
その中でもブランクカードはなんでも好きな文字を書き込むことができる超激レアカードで、この冒険の中で2枚しか手に入らなかった。
そのうちの一枚を最高のタイミングで使ったわけだ。
まさに「ハズレ職業【算数大好きっ子】を手に入れた女子校生勇者はありとあらゆる数字を弄って最強となる」という異世界チート系主人公のごとく大活躍をした。
灰となった魔王の中から、虹色の玉が現れた。
その玉が二つに割れ、中から美しい女性の幻影のようなものが現れると天に昇っていく。
すると空を覆っていた大きな黒い雲が晴れていき、光が差し込んだ。
『勇者の皆様、ありがとうございます。これで世界は救われます』
それと同時に、俺たちが持っていたこの世界の装備品もまた消えていく。
エクスカリバーや救世のワンドはいい装備だったんだが――
「魔王が死んで勇者たちの装備も役目を終えたんだ」
「そういう設定なのね」
キッケの説明に対し、姫が身も蓋もないことを言った。
まぁ、武器を持ち帰らせないための文言だろうな。
これ、人生ハードモードでクリアしたら記念品に好きな装備を一つ持って帰れたのだろうか?
「さぁ、城に戻ろう! みんなパレードの準備をして待っているはずだぜ!!」
「そうだね。やっと家に帰れるよ」
「いやいや、何一つ終わってないからな? 俺たちの目的は35階層だから。キッケ、35階層に続く階段はどこにあるんだ?」
「35階層はこの先だけど、この先は今後開発予定の未完成のマップだから、時間の流れが通常に戻るぞ? それでもいいのか?」
「問題ない」
「じゃあ、案内するぜ」
キッケの案内で俺たちは35階層の階段を訪れた。
「そういえば、この異世界召喚風の世界のアイテムは全部消えたのに、キッケは消えないし普通についてこれるのか?」
「おいらはこの世界のシステムナビゲーターだからな。世界の常識枠からは切り離されているし、メタ発言も自由にできるのさ」
そういえば最初に会ったときからかなりメタな発言ばっかりしていたな。
「じゃあ、ダンプルのこととか知ってるのか?」
「ああ、知ってるぜ? ダンプルの奴、ここを作っている途中に突然いなくなりやがってよ。お陰でこの世界のボリュームが随分と小さくなっちまった」
いや、十分大ボリュームだぞ。
「ダンプルの奴、このダンジョンの22階層で鉄になってたぞ? このダンジョンの35階層からエネルギーを奪われてな。俺たちはその調査と解決のためにここに来たんだ」
「なんだってっ!? なんでそんな大事なことを黙って、異世界召喚体験ゲームで遊んでたんだよ! それをわかってたらデバックモードを利用してとっとと35階層に連れて行ってやったのに」
「言おうとしたのに、お前が直ぐに消えたんだろ!」
俺たちの苦労はなんだったんだよ。
「で、35階層の原因は何かわかるか?」
「そうだな。ダンプルの奴は文化祭用にこの異世界召喚ダンジョンを建設する予定にしていたんだが、テストプレイも無しにいきなりダンジョンを設置するのは危ないってことで、誰も来ていない31階層から35階層の間をテスト空間にしていたんだ。35階層に隠しダンジョンを作ってたんだが、その時に侵入者が現れて、その対処をするって言っていなくなったんだよ」
「絶対それだ!」
その侵入者がダンプルをあんな状態にして、超激レア缶を開かない状態にした張本人じゃないか。
そいつを倒せば解決じゃないか。
「その侵入者ってなに? まさか、また終末の獣ってオチはないわよね?」
「いや、ダンプルが言うには――エルフだって話だ」
「「「「え?」」」」




