異世界に召喚されたのか?
突然、異世界に召喚されたような流れになっている。
廃世界の再生? もしくは、滅んだ世界の過去に迷い込んだ。
しかし、そんな感じはあんまりしないんだよな。
「さぁ、勇者たちよ。まずは勇者様たちの職業を確認致します。どうかこの水晶に触れてください」
「……え? 勇者が職業じゃないの?」
「勇者は称号でございます」
腰の低い王様が言う。
そういうものか。
大臣っぽいお爺さんにより水晶が運ばれてくる。
【鑑定の水晶:触れた者の職業を調べることができる】
罠ではないようだ。
「俺から触れてみる」
水晶に触れる。
よくわからない文字が浮かび上がった。
なんて書いているんだ?
「おぉぉぉ、剣神! 剣神です! 我が国最強の剣士の剣聖を超える最強前衛職です」
なんかめっちゃカッコいい職業だった。
「次、私よ!」
姫が水晶に触れる。
「シャドーアサシンです! スカウト系の最上級職です」
「へぇ、アサシン……暗殺者ね。私の戦闘スタイルにピッタリな職業みたい。どうやらその人の戦闘スタイルに即した職業になっているみたい」
「では、私は魔法系でしょうか?」
アヤメが水晶に触れる。
「これは!? 大魔術師っ! 五百年前に伝説の消滅魔法を生み出したポープ以降、潰えた職業です!」
みんなすごい職業になってるな。
最後にミルクだ。
「私はなんだろ? やっぱりガンナーかな? あ、でもファンタジー世界だし、回復魔法も使えるから、聖女とか錬金術師とか?」
ミルクが少し恥ずかしそうに触れる。
「……ふむ……これは初めてみる職業ですな」
「本当ですか!?」
「はい………………」
何故か大臣が言い淀む。
「どうした、大臣! その勇者様の職業はなんなのだ!?」
うん、俺も気になってきた。
まさか、暗黒騎士みたいな怖い職業、いや、それどころか魔王とか?
「算数大好きっ子」
『え……?』
みんなが一斉に聞き返した。
「こちらの勇者様の職業は算数大好きっ子です」
「算数大好きっ子って、本当に勇者なのか?」「絶対に戦闘に役に立たないだろう」「なんだ、一人かわいそう」「まぁ、三人当たりを引いたんだ。一人くらいハズレがいてもいいだろ?」
近衛兵たちがひそひそと話をする。
だが、王様はごほんと咳ばらいをし、合図を出すと宝箱が運ばれてきた。
「勇者様。これらは我々が用意したせめてもの品物です。どうかこれらを持って魔王を討伐してください! 魔王は遥か深い地の底にいると聞きます」
大きな宝箱の中には、木の剣、お金の入った袋、カギが入っていた。
姫の宝箱は木の短剣とお金、アヤメの宝箱は木の杖とお金、ミルクの宝箱は木の鉛筆とお金……鉛筆?
カギが入っていたのは俺だけか。
「あの、王様、もうちょっとマシな武器とかないんですか? そもそも鉛筆って武器じゃないですよね?」
ミルクが困ったように言う。
「財政難ですので」
腰の低い王はたったその一言でミルクの要望を切り捨てた。
だったら、兵士の武器をくれよ……って思う。
「このカギはなんでしょう?」
「背後の扉を開けるための鍵です」
え? 扉閉まってるけど、鍵がかかってたのっ!?
……ん、やっぱりそういうことか。
「王様、一つ聞きたいことがあります。俺たちは元の世界に戻れるのでしょうか?」
「もちろんです。皆様が魔王を倒したその時には、元の世界、元の時間に戻れることをお約束しましょう」
ありがとうございます。
「みんな、移動しよう」
俺はそう言って、背後の扉の鍵を開けた。
鍵は一度使うと壊れて消えてしまう。
そして、そのまま真っすぐ城を出て、広場に移動した。
ベンチがあったので、そこに座って話をする。
「泰良、私ってゲームとかやったことないんだけど、これってゲームの世界?」
「いや、ゲームの世界を参考にしているとは思うが、たぶん異世界召喚をイメージしたダンプルが作った世界だと思う。文化祭の出し物として――誰もこないこの場所でテストプレイとかしていたのかもしれないな」
俺は木の剣をインベントリにしまって言う。
そして、
「ステータスオープン!」
ステータスを確認する。
いつものステータスの横に別の表示が出た。
――――――――――
タイラー
職業:剣神
レベル:1
HP:35
MP:0
ちから:39
まもり:25
素早さ:18
運の良さ:255
装備
・布都御魂剣
・布都斯魂剣
・火鼠の外套
・-
・成長の指輪
とくぎ
・なし
――――――――――
おぉ、出た出た。
って、なんか名前が泰良ではなく、タイラーになってる。
あと、何故か運の良さがめっちゃ高い。
「私、名前がアイリスになってます」
「私はプリシスね」
「……私はミルクのままだよ」
ファンタジーのイメージを崩さないために、名前を変えているのか?
異世界召喚ものならそういうの必要ないと思うんだが、未調整なのだろうか?
「ミルク、元気がないな」
「だって、私だけ算数大好きっ子だよ?」
「まぁ、それはミルクらしいと言えばミルクらしいが……でも――」
「ハズレ職業っていうのはだいたいは凄い能力を隠し持ってるものだよ」
俺が言おうとしたことを誰かが引き継いだ。
一体誰だ?
と思っていたら、突然目の前に羽の生えた小さい犬のような生き物が現れた。
「オイラはキッケ! この世界の案内人さ! 尚、この世界は体験版だから、本番とは仕様が異なる場合があるから気を付けてくれ」
ナビゲーターってことか?
体験版とか本番とか、妙にメタな台詞を言う奴だ。
「キッケ、俺たちは急いで35階層に行く必要があるんだ。時間がなくてな」
「時間ってリアルの時間かい? 安心しな兄ちゃん! この世界はインスタンスダンジョン、兄ちゃんたち専用のダンジョンであると同時に、兄ちゃんがこの31階層に入った瞬間から外界とは切り離されている。時計を持っているなら見てみたらわかると思うぞ」
俺は懐中時計を取り出した。
この懐中時計は普通の時計と違い、自動で時間を調整する魔道具なのだが、時計が全く動いていない。
「普段はだいたい二十分の一位の流れにする予定なんだが、いまはデバッグモードだから、時間の流れが一万分の一になってるんだ。だから、兄ちゃんたちがどれだけ急いでいるかはわからないけど、十分時間はあるだろ?」
凄いな。PDよりも時間の流れが遅いのか。
「なぁ、HPとかMPとか出てるけど、まさかこのHPが無くなったらレベル1に戻るとかないよな?」
「いや、死んだら棺桶の中に入って、動けなくなるだけだぜ? 全員死んだら教会に強制転移させられる。あくまでレベル1になってロビーに戻るのは体力が0になったときだけだ。そして、この世界では俺TUEEEモードと、人生ハードモードの二種類がある。俺TUEEEモードでは、ステータスが通常のステータスとこの世界のステータスが合算で計算されるが、人生ハードモードではこの世界のステータスが完全に独立して計算される上に持ち込んだ装備品やアイテムは全て使えなくなる。その代わり、人生ハードモードでクリアしたら記念品が贈呈される。どっちで世界を救う?」
「「「「俺TUEEEモードで」」」」
全員一致で俺TUEEEモードを選択。
「おっけー! じゃあ、この世界を楽しんでくれよな。おいらはこの世界のどこかにいるから、また会いに来てくれ! アデュー!」
「待ってくれ、まだ聞きたいことが――」
俺が呼び止めるもキッケは去って行った。
長々と異世界召喚ストーリーをするつもりはないので、次回いきなりクライマックスです。
(もし希望があれば、彼らのなんちゃって異世界での戦いは番外編として書くつもりです)




