求む働き方改革
PDでパペットとともにレベル上げをしている。
最初は過保護気味にパペットの世話をしていたのだが、いまではベルトコンベアの前に待機して流れてきたメタルフライフィッシュを次々に倒している。
まるで、回転寿司で目当ての寿司が流れてくるのを待つ子どものように見える。
「働き者よね、パペットくん」
ミルクが感心するように言う。
パペットのエネルギーは魔力だ。
水野さんが近くにいないと彼女から魔力を補充できないが、代わりに魔石が使われている。
黒い魔石なら直ぐに動かなくなるが、高純度の紫色の魔石を使用しているため、数年は動き続ける。
「製作者に似たんじゃないか?」
水野さんとパペットの姿がダブって見える。
パぺットは疲労がない(劣化はするだろうけど)ので、一日中働いていても問題ない。
「頑張れよ。お前が頑張れば水野さんのレベルが上がって、技術が上がったら魔道具作成の制作時間も少しは短くなるし、疲労も減るはずだからな」
パペットが頷いて、運ばれてきたメタルフライフィッシュを潰す。
だが、今回は五体同時に運ばれてきたため、四体が宙に飛んだ。同時に四人の姫も跳んだ。
メタルフライフィッシュの羽の部分だけをクナイで斬り落とすと、メタルフライフィッシュはそのまま床に墜落。
落ちたメタルフライフィッシュをパペットが潰す。
「うーん、これだったら私たちは必要ないかな?」
「そうね。パペットのことは私たちが見てるから、深い階層でレベル上げしてきていいわよ」
と姫の分身たちが言ってくれたので、お言葉に甘えて俺たちは深い階層に移動した。
その後、俺たちはPD内で食事や休憩を挟み十五時間ほど狩りを続けた。
休憩中の定番の遊びはトランプだが、これが難しい。
俺の幸運値が平等な遊びの邪魔をする。
大富豪をした途端、スペードのA~Kまで全て揃っていて、階段で一撃終了できる展開には驚いた。
結果、女性三人対俺一人の勝負になってしまった。
「あぁ、泰良のババ引いちゃった。アヤメちゃん、はいこれ」
「はい、もらいました。押野さん、どうぞ」
「受け取ったわ。さぁ、泰良! 私のジョーカーはどこかしら?」
ババ抜きで一対三の勝負ってありか?
しかも、俺が二位までに上がれないと俺の負けらしい。
さて、まずは端っこを選ぼうかな。
「姫! お前、カードをすり替えただろ! めっちゃ速くて一瞬見逃しそうになったぞ」
「あら、なんのことかしら?」
「くそっ、油断ならない――トランプはダンジョン産じゃないから詳細鑑定も使えないか」
遊びも本気だ。
そんな感じでダンジョン探索を楽しんだ。
姫の分身は何度も交代したが、パペットはずっと戦い続けた。
そして――
「いやぁ、今日も頑張った頑張った。水野さんもブラック気質あるけど、俺たちも大概おかしいよな。一日四十八時間もダンジョンに潜ってるなんて」
「文句を言わないの。休憩は十分とってるでしょ? 私たちは年齢のせいでトップランカーと比べると十年出遅れてるのよ? 一日四十八時間潜ったところで追いつくのに何年かかるかわからないわ」
「だいぶ追いついている気がするんだが。国内ランキングももう76位になってるぞ? 姫なんて75位だろ?」
「本当のトップランカーはもっともっと上よ。十年選手でダンジョンに潜り続けた人間でもトップランカーになれない人間は二十階層のボス部屋で弾かれ、三十階層に行ける人間は一握り。私たちがこれから戦っていく、追い抜こうとしている相手はその一握りの連中よ」
月見里研究所の職員も大半は二十四階層まで行けてやっと。
才能があるという閑さんも三十階層が限界。
「そうか……ここからが本番ってことだな」
ダンポンもずっとダンプルの調査をしてくれているし、ブラックとかそういう甘っちょろいことは言っていられないってことか。
「頑張らないといけませんね」
「でも、私たちならいけるよ」
「だな――あ、水野さんに報告をしておこう」
水野さんに今日のレベル上げが終わったことを念話で伝える。
『水野さ――』
『壱野くん! なにしたのっ!? 私のレベルがなんか凄く上がって、もう78になってるんだけどっ!? 本当になにしてるの!?』
『え? レベル78? さすがにそこまでは――あ、レベル差ボーナスか!』
自分のレベルより遥かに高いレベルの敵を倒すと、経験値にボーナスがつく。
どうやらパペット経由の戦闘でもそのレベル差が適応されたらしい。
『ラッキーってことで!』
『ラッキーで済むのっ!? 私の攻撃値と技術値1400以上になってるんだけどっ!?』
『それは凄いな』
さすが鍛冶師の覚醒者だ。
鍛冶師は攻撃値と技術値が尖端異常者並に上がるからな。
俺には及ばないが、攻撃値と技術値は姫たちをもう上回っている。
防御値と体力値は低くて相変わらずの紙装甲みたいだけど。
『ってあれ? またレベルが上がったんだけどっ!? あれ? 壱野くん、ダンジョンの外なんだよね?』
『姫の分身とパペットくんが居残りレベル上げしているから、もう少しレベルが上がると思うぞ?』
『ちょっと休憩しようよ! パぺットくん働き過ぎて壊れちゃうからっ!』
水野さんは自分のことを棚に上げてそう叫んだのだった。
その後、パペットの部品が過度な使用により劣化していたことが判明し、パペットの働き方改革が断行された。
まさか、俺たちや水野さんではなく、パペットに働き方改革が適用されることになるなんて思ってもいなかったな。




