柿とカレーの相性
「それで最後に金魚ミュージアムに行った後、カラオケに行ってキスまで済まして来たのじゃな」
ミコトが種なし柿を爪楊枝で刺して口に運びながら言う。
「そんな話はしていない。ていうかなんで知ってるんだよ」
「キスなんてとっくに終えた関係なのじゃから、照れることはあるまい。あと妾が知っている理由はパソコンに『奈良 デートスポット』『カラオケ 監視カメラ』と検索履歴が残っておったからじゃ。お主、パソコンとスマホのデバイス間のアカウントを同期しておるから、検索履歴や閲覧履歴が丸見えじゃぞ」
「なっ……」
しまった……俺のパソコンを最近トゥーナに使わせているんだった。
「……柿……カレーと柿……ん? 泰良様、アヤメ様と子ども作るの?」
トゥーナが柿を食べながらとんでもないことを聞いて来た。
姫から、子どもができるようなことはしたらダメだと言われたばかりなのに。
「子どもを作るようなことはしてないよ。あと、母さんがいるところで言うなよ。俺たちが結婚していることはまだ伝えてないんだから」
俺が三人の女性と結婚していることについては、探索者の重婚に関する法律が制定されるまでは黙っておくようにと言われているのだが、トゥーナには伝えていた。
彼女が俺たちと一緒にPDの中に入りたいと言ったときに、彼女が入れない理由について説明しないといけなかったからだ。
もしかしたら、俺と結婚したいって言い出すかとドキドキしたが、そんなことはなく、今では大人しくしてくれている。
「で、ミコトに聞きたいんだが、若草山のダンジョンで呪われたアイテムを集める変な男に会ったんだ。アヤメが陰陽術を使うことも呪いのことも見抜いたし、ただ者じゃないって思ってな」
「ふむ。アヤメが陰陽術を使うことは、ある程度陰陽術を齧ったものであれば誰でも見抜くことは可能じゃ。呪いと封印についても、特に隠蔽の術式は掛けておらんからの」
「ということは、陰陽師か、陰陽術を使う人ってことか」
「そうじゃな。あとは呪われたアイテムを集めているか……となれば、呪禁師の流れを汲む者かもしれんの」
「ジュゴンシ?」
なんか人魚に間違えられそうな哺乳類っぽい名前が出てきたな。
呪禁師って書くのか。
スマホで検索したら直ぐに出て来たが、ミコトに聞いてみる。
「呪術によって病を祓う者のことじゃった。もっとも、陰陽師の台頭、そして厭魅や蟲毒のせいで衰退した。それらの悪行でさえも近年では陰陽師の行いと一緒くたにされてしまっているがの」
「ということは、呪禁師と陰陽師って仲が悪いのか?」
「そういうわけではないぞ? 呪禁師から陰陽師になった者も多い。まぁ、そもそも現代においては呪禁師も陰陽師もその役割や力も大きく変わってしまったからな。あくまで流れを汲む者というだけじゃ」
と言って、ミコトがもう一個柿を食べた。
「どうすればいい?」
「別にお主がなんとかせんといかんというわけではあるまいて。放っておけ。関わるだけ面倒じゃ」
「面倒って……まぁ、そうなんだけどさ」
俺だって自分から危険に首を突っ込むつもりはない。
もしかしたら正義の呪禁師かもしれないんだし、そもそも、あの人がどこの誰かさえもわからない。
「でも、ただの偶然とは思えないんだよな」
「というと?」
「閑さんが言ってたんだ。俺の幸運値はただ運がいいだけではないって。運命……というか巻き込まれ特性? みたいなものも付随しているんだって」
俺は、現在柿とカレーの組み合わせについて考察しているトゥーナを見る。
彼女に出会ったのも偶然だが、それは運命でもあった。
「……泰良様、どうしたの?」
「いや、柿とカレーの組み合わせについてなら、和歌山県に柿カレーっていうご当地カレーがあるぞって言おうと思ったんだ」
「……やっぱりカレーの可能性は無限大」
ちょうど栗もあるので、今度は茨城名物の栗カレーについても教えてやろうかと思ったが、そうなるとまた連日カレーの日々が続きそうなのでやめておく。
生駒山上遊園地ダンジョンでのカレーばかり食べる日々は本当につらかった。
「それで、呪われたアイテムとやらは泰良が回収したのか?」
「ああ、これなんだが――」
と俺は暗黒トレントの丸太をインベントリから取り出すと、ミコトもトゥーナも目を細めて鼻と口を自分の袖で塞いだ。
「……臭い」
「もうよい、泰良。しまえ」
直ぐにインベントリにしまう。
臭いか? 不気味な感じはするが、臭いはしなかったと思ったが。
「……エルフは呪いに敏感。あんまり好きじゃない」
「うむ。妾も本体ではないからのぉ。あのような邪気にずっと当てられていると飯がマズくなる」
そういうものなのか。
まぁ、アヤメが新しく覚えた呪いの歌とか聞いたら鼻を塞ぐだけでは済まないだろうな。
これを水野さんに渡すのはやっぱりやめておこう。
翌日、学校で放課後に水野さんにトレントの丸太(岩)を見せた。
「わぁ、凄いね。樹皮が岩みたい。これは優秀なパペットができそうだよ」
「パペットって作ったら何ができるの?」
「戦うこともできるけど、基本は労働力かな? 魔道具を作るのって、基本は素材を持ってスキルを使えばいいんだけど、中には魔石を砕いたり磨り潰したりする必要がある物もあるんだ。それで、生産量も増えて来たことだし、機械を導入しようかって思って調べたんだけど、どうも魔石と機械って相性が悪いみたいなんだよね。それで、えっと、ドイツのバイエルン州だったかな? そこの魔道具師がパペットを使って効率よく魔石を磨り潰している動画があってね。それを参考に作ってみようかって思ったんだ」
「なるほど。それができたら水野さんの仕事も楽になるね」
「本当にそうだよ。ミルクちゃんにも新しい銃の開発を頼まれてるし」
「ミルクに?」
「そう。まぁ、そっちはむしろ私の趣味も兼ねてるから、ストレス解消にちょうどいいよね」
え? 魔道具作成のストレス解消に銃を作ってるの?
なんだろ、それ。
まるで、小説を書くのに疲れた作家が、ストレス解消に新作小説を書くみたいな話だ――実際に作家界隈ではよくある話らしい。
丸太はとても重いので、インベントリに入れたまま水野さんの家に持っていくことになった。
ついでにパペット作りも見せてもらおう。




