若草山ダンジョン再び
翌日。
今日は日曜日だけど、ダンジョン探索はお休みだ。
昨日、スキル検証とか言って予定以上にPDで修行をしたから、その代休って感じで。
家で朝飯を食べていると、水野さんが念話で声をかけてきた。
『壱野くん、昨日はありがとう! 花蓮ちゃんもとっても喜んでたよ。ちゃんと偶然ってことで片付けたから』
水野さんには昨日の帰りにスキル玉を渡した。
水野さんに渡したスキル玉で覚えられるスキルは二つ。
一つは「時短テク」。そしてもう一つは「量産体制」だ。
時短テクは生産系スキルを使用するとき、アイテムの生産速度を上げることができる。
俺は瞬間調合がある。
なので、水野さんのところで働いている胡桃里花蓮という少女に使ってもらうことになった。
なんでも、彼女は既に天下無双の正会員になっているらしい。
なんでバイトで雇った子が一カ月で正会員になっているのかはわからないが、姫も納得しているらしく、将来有望らしいので、それならば彼女に時短テクを使ってもらうことにした。
そして、量産体制。
これは凄い。
なんと、アイテムを11個分纏めて作ることができる。その場合、素材が10個分と10個分の時間で済む。つまり、10個作ったら1個漏れなく付いてくると言う感じだ。
『それで、壱野くん。一つお願いがあるんだけど』
『ん? なに?』
『トレントの丸太が欲しいの』
『トレントの丸太? 何に使うの?』
『レベル40になったときにパペット作成ってスキルが手に入ってね』
『え? ちょっと待って、もうレベル40!?』
前、レベル35になったってのは聞いたが早すぎないか?
経験値薬だけでそこまで強くなったの?
『言ってなかったけど、レベル35になったときに「生産職の矜持」っていうのが手に入ってね。生産スキルでアイテムを作ったときも経験値が入るようになったの。だから経験値薬だけの頃より効率はよくなってるよ』
なるほど――そりゃ強くなるわ。
水野さん、もう青木より遥かに強くなってるんじゃないか?
『トレントの丸太なら、普通に売ってるんじゃないの?』
『うん。でも、どうせなら凄い人形を作りたいなって思って。トレントのような植物系の魔物って突然変異が出やすいみたいなんだよ。だから、壱野くんが本気を出せば、レアなトレント丸太が手に入るんじゃないかって思って相談したんだ』
『なるほど……トレントか。どこで手に入ったっけ?』
『若草山ダンジョンだよ。21階層にいるエルダートレントの木材があったら嬉しいな』
あぁ、薬仙人のいた場所か。
前に青木と行ったことがあるな。
水野さんから要望を受けるのは珍しい。
金銭面以外では損な役回りを押し付けているので、その要望は直ぐに叶えてあげたい。
ダンプルからエネルギーを奪っているダンジョンがどこなのかはまだわからないし、だったら今日は気分転換にそのダンジョンに行くか。
念話でみんなに連絡を送る。
『誰か、今日これから若草山ダンジョンに行ける人いる?』
『うぅ……ごめん、泰良。今日はママに用事を頼まれているの』
『私は大学に来てるの。明日までに提出しないといけないレポートを書いてるから』
『私、予定空いてます! 一緒に行きたいです!』
お、アヤメの予定が空いていた。
だったら、今日は二人で若草山ダンジョンだな。
※ ※ ※
「今日は運がいいです。壱野さんとデートができるなんて」
デートじゃなくてダンジョン探索だって、昔の俺なら言っていただろう。
だが、これはデートでいいと思う。
エルダートレントがいるのは21階層みたいなので、そのあたりなら危険もないだろう。
アヤメと二人で出かけるのは久しぶりだ。
二人で万博公園横の商業施設の観覧車に乗ったとき以来か。
「そうだ。ダンジョンが終わったら美味しいフルーツサンドの店があるから二人で行こうか」
「フルーツサンドですか?」
「うん。高速餅付きをしている店から西に下ったところにあるんだよ。夏には美味しいかき氷も売っててね。それが終わったら、金魚ミュージアムに……」
「ふふっ」
アヤメが少し嬉しそうに笑う。
「壱野さん。それ、スマホで調べてくれたんですか?」
「あ、バレた?」
俺にオシャレな映えスイーツの店とかデートスポットの情報なんてわかるわけがない。
姫だったらあいつが勝手に調べて連れて行ってくれるし、ミルクだったら適当に奈良公園ぶらぶら歩いてソフトクリームでも食べて帰るだけでもいいが、アヤメは俺のことを王子様だって思っているらしいから、俺がリードしようと思ってみたんだが、簡単に見透かされてしまった。
「でも嬉しいです。はい、どちらも行きたいです。楽しみにしますね」
「うん。楽しもう」
よし、とっととダンジョン探索を終わらせよう。
 




