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月が綺麗ですね#side 響翔

BL要素(一方通行)が含まれます。

そういうのが苦手な方は読み飛ばしてください。

 人が秋に恋をするというのは遺伝子レベルで決まっているらしい。

 秋は食べ物も豊富で、安全に子育てをすることができるから発情しやすくなる――という理由らしい。秋に恋をしたところで、秋に子どもができるわけではないのに――つくづく人間って変な生き物だと思う。


「どうしたの、カッキー。考え事?」


 大学キャンパスのベンチに座って月見のバーガーを食べながらそんなことを考えていると、同じゼミに通う有希が声をかけてきた。

 見た目はギャルの恰好をしていて、言動もそれっぽいが、実はかなり真面目な女子だ。

 考えがまとまらないことを考え事と言うのなら、考え事なのだろう。


「わかった、ダンジョン配信のことでしょ。カッキー最近頑張ってるもんね。あーしもちゃんねる登録してるよ」

「ありがとうよ」

「カッキーはこのまま探索者になるの?」

「どうだろうな。有希こそどうなんだ? 就職活動中だろ?」

「うん。服装自由の会社を選んでるんだけど、結構厳しめ」

「お前、成績もいいんだし、常識もあるんだから、就職の間だけでもそのギャルっぽい服装と言動をやめたらどうだ?」

「いやー、それも考えたんだけどね。あーしはこの姿が好きだから、それを受け入れてくれる会社に就職したいかなーって」


 好きだからそれを受け入れて欲しいか。

 有希の言うこともわかる。


「でも、受け入れてもらえないだろ」

「だったら受け入れてくれるところを探すまでだよ」

「他になかったらどうだ? そこ以外はない。そこ以外は就職したくない。それでも、有希はそのまま自分を通すか?」

「あはは、カッキー、それは矛盾しているよ」


 何が矛盾しているのか、僕にはわからない。


「だって、そこ以外に就職したくないって思える会社があるって、それが一番好きってことっしょ?」

「……そう言われてみればそうなのか」

「あぁ、そうだ! カッキー、あーしと結婚してよ。あーしの良さはカッキーもよくわかってるっしょ? 結構尽くすタイプだし」


 確かに僕は有希の良さはわかってるな。幼馴染だし、料理をご馳走してもらったこともある。

 両親が共働きで、中学からは弟の面倒を一人で見てきた苦労人だ。

 いまでも弟の食事は有希が作っている。

 よくもあのネイルで上手に料理を作れるものだと感心している。

 少し前なら、有希との結婚を考えたことがあったが……


「ごめん。有希のことは嫌いじゃないけど」

「そっか。カッキー、最近様子がおかしいと思ってたけど、やっぱり好きな人が――って、カッキー、どうしたのっ!?」

「好き…………好き、僕はやっぱり好きなのか。いや、でも……しかし……」

「もしかして、カッキー。自分の気持ちがわかってないの?」

「わからない。本当にわからないんだ」


 僕は両手を合わせて俯いて言う。


「あのね……好きかどうか悩むってことは、もう好きってことなんだよ?」


 有希が僕の前で座り、僕の目を見て言った。

 

「告白しちゃいなよ。付き合ってくださいって。もしダメならあーしが慰めてあげるから」

「有希……あぁ、そうだな」


 好きという気持ちに嘘をついてはいけない。

 有希がギャルの姿の自分を貫くように、僕も自分の気持ちをそのまま貫こうと思う。


「僕、伝えてみるよ。相手が男か女かは関係ないよな!」

「え? おと……あぁ、配信の……まぁ、うん。いまは多様性の時代だし、そういうのもあり……じゃないかな? うん、応援するよ」


 有希が僕から距離を取っているような気がするが……でも、決意は固まった。


 その日はちょうど、彼が撮影のために事務所に来る日だ。



 僕は早めに事務所に入って、彼が来るのを待った。

 彼には用事があるからいつもより十分程前に来て欲しいって伝えている。

 緊張してきて、喉が渇いた。

 さっきからお茶ばかり飲んでいる気がする。

 一時間前に買ってきたはずの2リットルのペットボトルのお茶も半分くらいなくなり、三回くらいトイレに行った。

 扉が開く音がした。


「おつかれさまでーす。あれ? 響さんだけですか?」


 入ってきた。

 いつも通りカワイイ声の高校生の青木君が。


「あ、あぁ。まだ揃ってなくてね」

「そうですか。それで、響さん。用事ってなんですか?」


 青木くんが鞄を開けて鞄の中からビニール袋と、ファストフードのセットメニューを取り出す。

 伝えるんだ。

 付き合ってください。好きですと。


「そうだね。えっと……付き…………好きなんだ……僕は」

「本当ですか? 俺も大好きなんですよ」

「本当に!?」


 まさか、青木くんも僕のことが――


「はい! 月見のバーガー。やっぱりこの季節はこれですよね」


 青木くんはそう言って、月見のバーガーを紙袋から取り出した。

 それはもう無邪気な笑顔で。


「ははっ、うん。美味しいよね」

「響さんも絶対好きだと思って、一個余分に買ってきたんです。一個あげます」


 と青木くんは月見のバーガーを一個俺に投げた。

 昼に食べたとは言わずに、青木くんの好意を受け取り、月見のバーガーも食べる。

 おいしい。

 自分で買ったものよりも遥かに美味しい。


「はは、美味しい……とっても美味しいよ」

「この時期限定ですからね」

「こんなに美味しいのなら、期間限定じゃなくてもいいと思うんだよ」

「それはどうでしょうね」


 青木君も月見のバーガーを食べながら言う。


「人が何かを好きでいるのって、結構、力がいるんだと思います。そりゃ力があったらそれもいいかもしれないですけど、俺なんかはきっと、一年に一度、この時にしか食べられないほうがいいと思うんです。その方が、いま出会える幸せを感じるじゃないですか」


 青木くんはそう言って月見のバーガーを食べ終えると、シェークを飲んだ。


「あ、このプリン味のシェークも美味しいですよ。飲んだことあります?」

「いや、まだ飲んでないな」

「なら、よかったらどうぞ。蓋を開けて飲んで下さい。俺、着替えてくるんで」


 と青木くんが飲みさしのシェークを差し出して、奥の更衣室に向かった。

 青木くんが飲んだシェーク……青木くんは蓋を外して飲めって言ったけどこのままストローで飲めば間接キ……って僕は何を考えているんだ。

 思春期真っただ中の中学生じゃあるまいし。

 たかが間接キスごときでなにを動揺しているんだ。

 僕は邪念を振り払うように、ストローに口をつけた。

 うん……甘いな。


 いま出会える幸せか。 

  

 もしも僕が告白し、それに失敗したらどうなるだろう?

 青木君はそれでもこの事務所に来てくれるだろうか?

 だったら、僕のこの気持ちは押し殺したまま、彼と一緒にいた方がいいのではないだろうか。

 うん、そうだ。

 それがいい。

 その方が青木君にとってもいいに決まっている。


「着替え終わりました。それで、響さん。さっき聞き忘れたんですけど、用事ってなんだったんですか?」

「そのことはもうい……ぶっ。あ、青木くん。なんなんだ、その服は?」

「え? バニースーツですよ。前にリスナーとの勝負に負けて罰ゲームです。まったく、ヤローのバニーなんて見て何が楽しいのか俺には理解できません……って、響さんっ!? 響さん、どうしたんですかっ!?」


 もう、ダメだ。

 誰か、僕を殺してほしい。

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― 新着の感想 ―
可哀想な青木w
アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒッ!!!    ∧_∧ o/⌒( >∀<)つ〃 'と_)_つノ ☆バンバン
「僕、伝えてみるよ。相手が男か女かは関係ないよな!」 この一言で全てを察したwww
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