エルフの世界再生に必要な手順
「つまり、さっきまで壱野くんはエルフの過去の世界にいて、こっちの世界に戻る時にクロちゃんとシロちゃんの繋がりが必要になったの?」
「うん。クロが言うには、シロはクロの眷属として魔力的な繋がりがあるらしく、その繋がりをパスとして利用して戻って来られたみたい――正直、クロがいなかったらヤバかったよ。ありがとうな」
と俺はクロにチュールを食べさせながら頭を撫でる。
ちなみに、眷属といっても強大な力が得られるわけではなく、少し健康になって病気になりにくく、そしてシロが危ないと思ったときクロにわかるようになっているだけらしい。
「これ水野さんにお土産。リセットハンマーって言って、武器防具のマイナス値とプラス値をゼロにする鍛冶師用のハンマー。エルフの世界のビンゴ大会で貰った。あと、これは念話のスキル玉。これを噛まずに最後まで舐めると、念話スキルを覚えられる。いっぱいあるから一粒どうぞ」
「うん、私だって大阪人だからツッコミは修得しているはずだけど、どこからツッコミを入れたらいいかわからないよ。本当に何やってたの、壱野くんは。あと、お土産じゃなくて仕事道具だから」
確かにお土産じゃなくて仕事道具だな。
なので、エルフの世界のブローチを渡したら喜んでもらえた。
「それ。ところで、エルフの国ってどんなところだった?」
「そうだなぁ」
と俺はエルフの世界について語った。
平和な場所で、特に世界樹が美味しかったと語ったら驚かれた。
やっぱり、世界樹を食べるって不思議な光景だよな。
「あと、ワインを作るグッズを手に入れたよ。魔石から葡萄ジュースを作れて、簡単にワインにできるセット」
「壱野くん、それ、酒税法違反だからやめた方がいいよ。密造酒になっちゃう」
「あっ……ええと、ダンジョン産のお酒って酒税免除とかなかったっけ? スライム酒とか……」
「ダンジョン産のお酒はそうだけど、これってダンジョン産じゃないよね? ダンジョン産のアイテムで地上でお酒を造るんでしょ? アウトだよ」
しまった……まさかの法律NG。
考えてみればわかることだった……グヌヌ。
いや、しかし罪を犯す前に気付いてよかったと思おう。
「国から許可を取ればいいのか」
「それも結構難しいかなぁ。確か、生産量とか決まりがあって……えっと、あ、あった。年間6キロリットルだって」
水野さんがスマホで調べて教えてくれた。
6キロリットルって1リットルの瓶で6千本!?
個人で作るにはさすがに無理だ。
一応、『構造改革特区制度』というものもあるらしいが、それでも個人で酒を造る厳しさはわかった。
その後、水野さんのお母さんにお呼ばれして水野宅で夕食をご馳走になり、リセットハンマーを使って布都御魂を改良してもらった。
【布都御魂(-2):日本の初代天皇の国作りに用いられたという神剣のレプリカ。劣化品のため解毒の力はない】
だった鑑定の説明文が、
【布都御魂:日本の初代天皇の国作りに用いられたという神剣のレプリカ。天に掲げると軽度の毒を浄化することができる】
に変わっていた。
これで少しは俺も戦えるようになっただろう。
「なんか、初めて鍛冶師らしい仕事をした気がするよ」
というのは水野さんの談。
そして、アヤメから念話でダンジョンから出たと報告を受け、水野さんと別れ、一度閑さんの家に合流する。
エルフの世界であったことを詳しく説明した。
水野さんにも一度話して二度目のため、説明も滑らかだ。
「つまり、泰良はエルフの世界で女の子を口説いてビンゴ大会して帰ってきたってこと?」
ミルクが言う。
別に口説いてねぇよ。
ミレリーはただの優しいエルフだ。
ちなみに、俺のビンゴ大会の記録がエルフの歴史書に残っていたらしく、俺がビンゴ大会に参加していたことはバレバレだったらしい。
なんでそんな記録が残ってるんだよ。
「気になるのは勇者の存在ね。ダンプルの言っていることが本当なら、勇者には世界を渡って世界を救うことが可能ってこと?」
「……ん、やっぱり泰良様は救世主」
姫が改めて言って、トゥーナが頷いて言った。
「でも、問題は山積みですよね? Dエネルギー缶一つで約2時間。世界を救うには二度、終末の獣と戦う必要があって、最低でも100年必要となると、40万本以上のDエネルギー缶が必要ってことになりますよ」
「寿命は若返り薬か、トゥーナちゃんがこの世界に来たときのようなシェルターを使えばなんとかなるかもしれないけど、世界を救って地球に戻ってきたら100年経過していました――って浦島太郎みたいになるのも困りものよね。それに、世界を渡ることができるのが泰良だけっていうのも……」
アヤメとミルクが言う。
Dエネルギー缶の問題。
時間の問題。
そもそも、なんで俺が勇者に選ばれたのかも問題だし、俺一人がエルフの世界に行って、エルフたちも倒せなかった終末の獣を倒せるのかという問題も拭えない。
問題は山積みだな。
「どっちにしても、勇者についてダディに話を聞く必要があるよね? 一カ月後、面会の約束ができたわ。時間を作るって言っていたから、約束を守ってくれたみたい」
「直ぐに会えないのか?」
姫は嬉しそうに言っているが、一か月も先なのか。
いま、どこにいるのだろう?
「もう既に東京に行ってるみたい。そっちのダンジョンに少し用事があるって聞いたわ。今日は妃の方の実家に行って、明日からダンジョンに潜るみたい」
東京か。
こちらから会いに行ってもいいと思ったが、東京は東京でも、東京のダンジョンの奥深くに潜っているのなら行っても会えないか。
キングさんはダンジョンに入ったら一か月くらい潜り続けるそうだし。
俺たちには俺たちのできることをしよう。
つまり、ダンジョンに潜ってさらに強くなること。
さて、レベルを上げる以外にできることはあるかな?
6章はこれで終わりです
7章開始まで閑話が続きますがご了承ください




