大会の賞品
会場は大騒ぎだった。
なんでも、100年以上歴史のあるクロスラティス大会において、四文字目で一列揃った者は初めてだったらしい。
確率的に約6億4300万分の1――毎年参加者は1万人くらいらしいから、普通に考えれば1万年続けても揃わないだろう。
とアクシデント(?)はあったが俺が揃った後もクロスラティス大会は続いた。
ミレリーはダブルリーチと惜しいところまでいったが、結局最後まで文字は揃わずに終了した。
ちなみに、イリスはリーチにすらならなかった。
入賞者には賞品が贈られるということで、通訳としてミレリーに同行してもらいスタッフエルフの案内の下、コロシアムの舞台に降りた。
ミレリーが何かをスタッフに話すと、さっきまで司会進行していたお姉さんがエルフの言葉で何かを言うと盛り上がる。
『イチ様が別の大陸から来た冒険者様であることをお伝えしたんです。別大陸からの冒険者はとても珍しいので盛り上がってるんです』
『あぁ、なるほど――』
しかし、これだけ多くのエルフが集まっているからもしかしたらと思ったが、ミルクたちはここにはいないようだ。
まだ村に来ていないのだろうか?
村まで結構距離があったから、道に迷っているのかもしれないな。
と会場に続々と賞品が運ばれてくる。
優勝の俺はこの中から三つ、好きな物を貰えるらしい。
さて、どれを貰おうかな?
たとえば、この本とかはどうだろう?
閑さんが喜びそうな気がするが、何が書かれてるのか。
鑑定でわかればいいのだけれど。
【自動自伝:一ページ目に自分の名前を書くと、その人が生まれてからの人生が物語風に自動的に書き込まれ続ける】
え? 鑑定できた?
『これってもしかしてダンジョン産のアイテムなの?』
『あ、説明していませんでしたね。はい、賞品は全てダンジョン産のアイテムなのです。今日は世界でダンジョンが初めて生まれた日を記念したダンジョン祭りなので』
『そうだったのか――』
だったら――と俺は詳細鑑定で何がいいか調べていく。
スキル玉はなかったが、面白い魔道具とレシピを見つけた。
【リセットハンマー:鍛冶師用ハンマー。武器のプラスマイナス補正を全てゼロに戻す】
これは俺の強化に繋がる。
俺が姫から貰った愛剣の布都御魂は「-2」の補正が入っているせいで解毒の力や攻撃値が失われているが、これを使えばそのマイナス補正を消し去ることができると思う。
【薬石:薬を中に入れることができる石。相手にぶつけると薬の効果を与えることができる】
これはレシピだ。つまり、これを使えばポーションや毒液などが入った銃弾を作る事ができる。
ミルクの回復役としての力がアップするレシピだ。
最後に――
【アイテムバッグ大:亜空間にアイテムを収納することができる。容量はかなり多い】
四次元ポ〇ット。
インベントリやアイテムボックスがあるくらいだから、もしかしたらそういう物があるかもしれないって思っていたが、本当にあったなんて。
俺がアイテムバッグを選んだ途端、他のエルフたちから落胆の声が上がった。
どうやらアイテムバッグ狙いの人間がかなりいたらしい。
悪いな、これは俺のものだ。
他にも貴重なアイテムはあるんだけど、無理やり奪うつもりはない。
たとえ記憶の世界であっても、盗み等はしたくない。
倫理の問題もあるけど、この世界で悪さをするのは、世界の記憶を汚す――トゥーナの想いを踏みにじるような気がする。
特にこの記憶の世界は夜の民の時と違って、普通の人と話をしているみたいだもんな。
『イチ様! 皆さんが是非、これから行われる大会にも参加してくださいって言ってます。他の大陸の冒険者の実力、是非見せてください!』
『はい、わかりました』
俺も女王様に会って話をしたいから――と思ったが、二時間以内に終わるだろうか?
それが問題だ。
このままだと調査をする前に大会に参加するだけで終わるかもしれない。
他のみんなはもう村に入っただろうか?
※ side 牧野 ミルク ※
「どういうことっ! ダンポン! 泰良はどこにいったのっ!」
姫が怒鳴った。
場所は石切ダンジョンの33階層。
私たちはこの祭壇で、Dエネルギー缶の力を使い、エルフの世界の記憶を再現させるはずだった。
なのに――
いざ、ダンポンが記憶を再現しようとしたら、Dエネルギー缶が消滅したのに、エルフの世界の記憶は再生されず、泰良の姿が消えた。
最初は何があったのかわからなかったけれど、どこかに転移したのかと思った。
直ぐに念話を使って泰良と連絡を取ろうとしたが、泰良からの返事はなかった。
閑さんは語った。
念話についてはある程度、研究が進んでいるらしい。珍しいスキルではないから。
念話が通じない場所というのは今のところ発見されていない。
地球上のどこにいても、たとえダンジョンの中からダンジョンの外であっても念話は通じる。
念話を送っても返事がないというのは、泰良が念話を届いても返事できない状況にあるか、もしくは気絶している等の理由で念話を受け取れない状態が考えられる。
最悪――ううん、それは考えたくもない。
「ダンポンさん、壱野さんは大丈夫なのですか?」
「わ、わからないのです。何があったのか……僕はただ、マニュアル通りにやっただけなのですよ――」
アヤメの問いにダンポンはわけが分からないと答えた。
だったら――
「…………妙だな」
突然そう言ったのは閑さんだった。
妙なのは最初からわかっていることだけど、閑さんが意味のないことを言うとは思いません。
短い付き合いだけど、たぶんこういう時は、閑さんは聞き返してもらうことを願っているのだと思う。
「何がですか?」
「この廃世界の様子だよ。さっきと少し違う気がする。具体的に言うと、この大陸のこの位置に島はなかったはずだし、ここにあった湖が消滅している」
と閑さんは言ったが、私が見てもその違いがわからない。
記憶力に自信のあるアヤメもわからないそうだ。
「トゥーナくん、わかるかね?」
「……ん? 先生の言う通り。トゥーナの知ってる地形と少し違う。先生の言っていた湖は、トゥーナが女王になって治水工事を命じたことによって生み出された世界最大のダム湖。そしてこの島はリヴァイアサンの侵攻により崩壊し海に沈んだはず」
「つまり、世界が過去の状態に変化しているってこと?」
世界の若返り?
そんなことがありえるの?




