エナドリよりエナドレ
20階層までなら危ないことはない。
既に石切ダンジョンに出てくる魔物については調査も進んでいて、危ない能力を持っている魔物もいない。
現在は姫の分身たちが道を切り開き、地図通りの道を進んでいくのだが、リスナーを飽きさせないためにも質問コーナーを設けていた。
〔既に素顔も公開されてるのにアバターで活動を続けるのは何故ですか? 素顔もかわいかった&カッコよかったです〕
素顔を出すかどうかについては既に話し合っているが――
「それについては今のままで行こうと思っています。やっぱりまだ少し恥ずかしいので――実は私がチーム救世主の一員だってことは両親には伝えていますが、妹にはまだ伝えていなくて――」
14階層に続く階段を降りながら、アヤメが少し困ったように言う。
アヤメの妹は九月からダンジョン学園に通っているんだよな?
ダンジョン学園なら、探索者について知る機会も多そうだし、そろそろ伝えておかないといけないんじゃないかって思うんだが。
「あとはアバターキャラ風の方が子どもの食いつきがいいからグッズ展開しやすいのよね」
姫、それぶっちゃけすぎ――と言っても、まぁ子どもの人気が高いのは確かなんだよな。影獣化フィギュアとか結構売れてるし、中学生や高校生からのサインも求められることがある。
「これを見ている視聴者に伝えておきますが、この動画は暴力描写を含む動画のため、十五歳未満の子どもの視聴は禁止されています。いらっしゃっているリスナー様の中に、小学生、中学生の皆さんがいらっしゃったら、直ぐに視聴を終了してください」
とミルクが一応補足で伝えておく。
ダンジョン局からも、「15歳未満の生徒及び児童のダンジョン配信視聴について」という注意事項が回ってきているので、EPO法人に所属する探索者は伝えておかなければいけないのだ。
〔そういや、ダンジョン配信は全部R-15だったっけ?〕
〔投げ銭導入していないダンジョン配信だから、むしろ安心して見せてる親もいるって聞くけど〕
〔小学生のなりたい職業第一位が探索者な時点で、有名無実な規則だってバレバレだよな〕
〔注意は聞いた。これで見ている小学生、中学生がいたとしてもそれはその子の責任でチーム救世主は悪くない〕
いろいろと物分かりのいいリスナーたちのコメントを見ながら、十字路に差し掛かったところで――
「泰良。前方からアイアンゴーレムが来たから倒してくれない? クナイで倒せないことないけど面倒なのよ」
「オッケー、わかった」
俺はそう言うと、アイアンゴーレムのところに歩いていく。
アイアンゴーレムが殴りかかって来る。
俺はその攻撃を正面から受け止めた
それで、終わりだ。
攻撃を受けたはずの俺は無傷で、攻撃したはずのアイアンゴーレムが倒れて消えた。
〔攻撃したはずのアイアンゴーレムが倒れた?〕
〔何今の!? 攻撃のダメージを反射か!?〕
〔あれが世に聞く守護者の右手《ガーディアンズハンド》か――〕
〔知ってるのか、ライデン〕
〔紀元前2000年、今では歴史の闇に埋もれ名前すら残っていない亡国の王を守る騎士が使ったと言われる業だ。敵の攻撃を受けとめ、その衝撃を完全に敵の身体へと受け流すことで発する完全防御特化の業だと聞く。まさかこの目でみることができるとは――〕
〔って民明書房に書いてあったのか?〕
〔ベータさん、今のスキルなんなの?〕
リスナーから質問が来たので、答えておく。
「エナジードレインを使って体力を吸収させてもらっただけだ。守護者の右手ってスキルじゃないぞ」
と影獣化を解除して説明をする。
そんなスキル、実際にあるのだろうか?
あるとしたら結構厄介そうだな。
〔また普通にレアスキル増えてる――なんなん、このパーティ〕
〔エナドレって、人間でも使えるんだ。吸血鬼用スキルだと思ってた〕
〔エナドレって略すと、なんかエナドリみたいだよな。とモ〇スター(緑)を飲みながら呟く〕
〔エナドリのモ〇スターより、モンスターからエナドレしたほうが効果高そう〕
へぇ、エナジードレインって吸血鬼のスキルなのか。
やっぱり霧になったり蝙蝠になったりするのだろうか?
戦うときは注意しないといけないな。
「そういえば、ここの20階層と30階層のボスもゴーレムなんだよな?」
「ええ。20階層のボスは石神ね。ものすごく硬い石のゴーレムで、魔法が弱点よ。逆に30階層のミスリルゴーレムは魔法があんまり効かないから泰良のラッキーパンチに期待ね」
「オッケー、運だけは自信があるから任せてくれ」
俺は軽口を叩いてそう言った。
まさか、そのミスリルゴーレムとの戦いがあんなことになるとは思ってもいなかった。




