スキル試し
『そう、真衣は仕上げスキルを覚えたのね。でも、それなら外部委託でもいいんじゃないかしら?』
スマホの通話をオープンにして、姫と話をする。
確かに、模造スキルは現物さえあれば同じ形のものを作ることができるんだから、わざわざ同じ職場で働かなくてもいいのか。
水野さんが協力者って言うから、イメージ的に同じ職場で働く人間ってイメージしてしまっていたが、要するに下請けだもんな。
「ごめん、姫ちゃん。できれば一緒に働きたいよ」
『いいの? 外部委託したほうが真衣の負担も減ると思うわよ?』
「うん。細かい指示も出したいし、そこは妥協をしたくない」
『……オッケー、わかったわ。まぁ、どっちにしても貴重な素材を扱うわけだから、海外の安い人材を雇用――ってわけにもいかないしね』
姫は少し呆れたような感心したような、そんな口調で言った。
たぶん電話の向こうでは嬉しくて笑っていることだろう。
あいつはこういう水野さんのような直向きに努力する人が好きだからな。
「それと、導きの水晶玉のことなんだが――」
『導きの水晶玉――あぁ、隠形の衣が入っていたD缶を見つけてくれた魔道具ね? あれがどうしたの?』
「水晶玉が、石切ダンジョンとPDのダンポン、そして祭壇を映し出したんだ」
『石切ダンジョンの祭壇に行けってことかしら……』
「ああ。だから閑さんの都合も聞いて、さっそく行ってみないか? 今の俺たちなら33階層にも行けるだろ?」
『…………』
「どうしたんだ?」
『いつも通りだとダディがそろそろダンジョンから出てくる頃合いなのよ。勇者のロケットについて何か返信が来るかもしれないって思って――』
「あっ……」
勇者のロケット――異世界の勇者の思い出の品だというそれには、キングさんらしき人の肖像画がはめ込まれていた。
そしてもう一つには姫に似ている女性の肖像画も。
それについて、姫がキングに直接メールを送って問い合わせた。
だが、ダンジョンの中に潜っているため、返事は未だ来ていない。
『いいわ。明石にダディから連絡が来たら配信クリスタルを通じて連絡するように頼んでおくから。でも、今日はダメ』
「なんでだ?」
『配信希望のメールがいっぱい来てるのよ。石切ダンジョンでは11階層から配信する予定なの。だから、今日はあっちで新しく覚えたスキルの性能を確かめましょ?』
確かに、配信を見ているリスナーの前でぶっつけ本番の新スキルを使うわけにはいかないか。
特にアヤメの大魔術のスキルにより使えるようになった究極魔法が、どんな魔法かはわからないが簡単に見せていいものではないよな。
じゃあ、明日の放課後だな。
閑さんにもそう伝えて許可を貰った。
ただし、高校の先生は放課後も仕事があるらしく、遅れて21階層で合流することになった。
なお、閑さんは石切ダンジョンの調査も行っていて既に21階層に通じる転移陣を利用できるらしい。
俺たちは途中までは迷宮転移で転移できるが、そこからは自力で潜る必要があるからな。
その間に閑さんが仕事を終えて先回りしてくれているだろう。
※ ※ ※
ということで、今日はPDの31階層ではなく21階層でスキルの実戦を行う。
「じゃあ、まずは私から行くわね」
姫は新スキルがないので、ハズレ神の性能テストか。
姫がそう言って、ブロンズゴブリンの群れの中に突撃した。
姫の気配が段々とブロンズゴブリンの群れの中に呑み込まれるように消えていった。
群れの中に敵が入ってきたのだから、ブロンズゴブリンたちは大慌てで俺たちの方を構っていられないようだ。
そして、姫は何事もなく出てきた。
「凄い、回避行動中の俊敏値がかなり増えている。あれだけの敵に囲まれても敵が全員止まって見えるわね」
「俊敏値が上がると動体視力も上がるのか?」
「脳の処理速度が上がっている感じかしら? もちろん、常に上がっているわけじゃないわよ」
なんか疲れそうだな。
でも、あの速度で動いて脳が通常通りだと、思った通りの行動ができないだろうな。脳の処理速度向上は必須かもしれない。
PDの中だと老化とは無縁なのだが、通常の速度で脳を高速回転させたら老化が早まったりボケが早くなったりしないか少し心配だ。
そのあたりは閑さんが研究していそうだし、相談してみよう。
「では、次は私が行きますね!」
「ああ。でっかいの一発ぶっ放してくれ!」
俺が言うとアヤメが大魔術師の杖を構える。
さて、究極魔法――どんな威力の魔法なのか。
「解放:究極風魔術」
とアヤメがそのままの名前の魔法を放つと、その杖から暴風が……暴風が……え?
出たのは扇風機の強レベルの風。
あぁ、夏場は重宝しそうな風量だ
「えっ!? なんでっ!?」
「アヤメ、敵が来るぞ」
「わ、わかりました。次は雷の――解放:究極雷魔法」
と雷の魔法が……ビリっときたのだろう。
先頭を歩いていたブロンズゴブリンが痛かったのか手を振っている。
「えぇぇぇぇぇぇえっ!?」
「アヤメ、敵が来る! 普通に強い魔法を使ってくれ!」
「解放:雷神竜巻」
以前使った魔法を使う。
雷と風の融合魔法がブロンズゴブリンの一団を呑み込み、後続が来る前に俺たちは撤退した。
究極魔法っていうからどんな魔法かと思ったが、いままでで一番弱い魔法ってどういうことだ?
「なんなのでしょうか、究極魔法って――」
「究極に弱い魔法ってこと……ってことかなー?」
ミルクが言うが、さすがにそんなことはないだろう。
「アヤメ、魔力ってどのくらい消費したの?」
「そう言えば見ていませんでした――もう一度使ってみますね」
アヤメが究極風魔術の魔法を使う。
それでようやく究極魔法の効果がわかった。
「消費する魔力に応じて強くなるのか」
「そうみたいです。さっき消費した魔力は1ですが、魔力を10消費したら風の刃くらいには強くなります」
俺の地獄の業火も消費する魔力に応じて強くなる。
それと同じような感じか。
強さに上限がない。
ただ、欠点があるとすれば――
「魔力を800くらい消費しようとすると魔法の制御ができなくなってしまいます。それでいて、威力はまだ神竜巻程度しか出ません。使いこなすには熟練度を上げる必要がありそうです」
「究極魔法を使えるからって、いきなり最強ってわけにはいかないのか」
さて、次は俺とミルクのスキルを試す番だな。




