史上最高額の激レアアイテム
「……っ! ごめん、寝てたみたい」
机に何かがぶつかる音が聞こえたので振り返ると、ミルクが頭を撫でながらそう言った。
どうやら目が覚めたみたいだ。
「もしかして、もう開けてるの? 楽しみにしてたのに」
「寝てるお前が悪い。って言ってもまだ中盤だからな」
とこれまでの結果を伝える。
ミルクは最初はうんうんと聞いていたが、途中から笑っていた。
「うわぁ……さすがだね。そうだ、レア缶全部開けるのが無理なら、レア缶を並べてから番号を割り振って、泰良がくじ引きで選んだら? くじ引きを作るアプリならインストールしてるから」
ミルクの提案に、姫とアヤメも同意したが、俺はそれに忌避感を覚えた。
確かに、俺の幸運値でその方法で開けるD缶を選んだら一番いいものが選べるかもしれない。
いや、それどころか、レア缶、激レア缶を含めて全てのD缶からくじ引きで選んだD缶を魔法の缶切りで開ければいいんじゃないかって。
でも――
「履歴書の時もサイコロを振って、その結果、勇者のロケットを見つけることができたんだけど、それって本当に運がいいって言えるのかなって考えてたんだ」
「どういうことです?」
「閑さんが言ってたんだ。俺の異常な幸運値は必ずしもいい方に働くものじゃない。事件に巻き込まれやすい体質も兼ね備えている可能性があるって。だから、切羽詰まった時とか生か死かの二者択一の時にサイコロを利用するのはアリかもしれないけど、こういう日常でサイコロとかくじ引き頼りは避けたいなって思うんだ。無駄かもしれないけど」
俺がそう言うと、三人とも理解してくれたようで、くじ引きで開ける缶を選ぶ方法は無しとなった。
ということで、激レア缶開けを再び始める。
「激レア缶は残り二個か……中盤っていうよりもう終盤だよね」
「魔法の缶切りはまだ12本残ってるから中盤だろ」
ということで、残り二個を続けて開けていく。
一個目。
中身は錠剤だった。100粒くらい入っている。
俺は詳細鑑定を、アヤメたちは順番に鑑別のモノクルを使ってその効果を確かめ、全員が絶句した。
暫くして、ミルクが言う。
「存在そのものは知っていたけど、本当にダンジョンで見つかるものなんだ」
「これが世に出たのって、確か10年前の一度切りだよな」
「ええ……オークションに10回出て、1粒の平均落札額は日本円で約500億円。あと10粒纏めて7000億円でとある富豪が購入したっていう不確かな記録も残ってる」
それが目の前にある。
【若返りの薬:1粒飲むと1歳若返る】
かつて、ダンポンがこの世界に来たとき、Dコインを買い取る費用を稼ぐために様々なダンジョン産のアイテムを売った。そのうちの一つがこれだった。
その後、若返りの薬には懸賞金が掛けられた。
10年前は1粒につき500億円。それがいまでは高騰に高騰を重ね、天文学的な数字での取引が約束されている。
この若返りの薬は俺たちにとって史上最高額で取引されるアイテムとなった。
もしもこの100粒をその価格で売れば、俺たち四人揃って長者番付にランクイン可能だ。
だが、そう簡単に売る事はできない。
これを売ったら、入手した経緯などが徹底的に調べられるのは間違いないし、下手をしたら俺たちの身柄が狙われかねない。
若返りの薬というのはそれだけ人々の欲を刺激する。
この薬の使い道について、四人で話し合い、
「これの使い方は、とりあえず保留でいいか」
という結論を出した。
「ええ、そうね。お金には不自由していないし、リスクの方が多そうよ」
「いまあるお金だけでも使いきれるかどうかわからないもんね」
「自分たちで使う必要もまだありませんし」
みんなも同じ意見のようだ。
ミルクが「アスクレピオスのゴブレットに入れて飲んだら2歳若返るのかな?」と気になることを言ったが、保留だ。
18歳の俺たちは使う必要がない。
自分たちで使うとすれば、40歳とか50歳になってからだろうか?
とりあえず、若返りの薬はインベントリに保管する。
「インベントリに保管したら若返りの薬×120ってなってたんだ。99個以上入るようになったのは確定だな」
ついでに、薬瓶も1個追加されている。
どうやら若返りの薬は120粒入りだったらしい。
「いやぁ、驚いた。もうこれ以上のものはさすがに出ないだろう」
俺は笑って言った。
それを前フリだとみんな思ったらしい。
だが、実際に最後の激レア缶の中身は、またしても缶詰だった。
【Dエネルギー缶:高密度のエネルギーの入った缶。ダンジョンの管理人のみ使用可能】
ダンジョンの管理人のみ使用可能ってダンポンとダンプルだけが使えるアイテムか。
その後、レア缶を2個開けた。
一つはスキル玉で、
【時短テク:生産系スキルの消費時間を減少させることができる】
と水野さん向けのスキルが入手できた。
減少幅はスキルの熟練度によって変わって来るらしい。
そういえば、水野さんにスキル玉を渡すのって何気に初めてな気がする。
ちゃんと説明して覚えてもらおう。
これで水野さんの仕事も楽になるな。
そう思った矢先――
「魔道具のレシピ……覚えられるのは鑑別のモノクルの作り方だってさ……」
水野さん、労働基準監督署に駆け込むのだけは勘弁してください。
次回、ギルド局大阪支部長の憂鬱