第二回、激レア缶&レア缶開封の儀
天下無双のオフィスも大きく変わった。
これまでは一室のみの契約だったが、つい先日、空きフロアが出たことでお引越し。
同じビルの上の階、ワンフロア丸ごと天下無双のオフィスになった。
会議室も広くなった。
そのホワイトボードの前に姫が立ち、
「第二回! 激レア缶&レア缶開封の儀」
黒板アートならぬホワイトボードアート(何故か猫の大群)とともにそう書かれた文字を読み上げる。
姫の画力は大したことがなかったはずなので、このホワイトボードアートを描いたのはアヤメだろうか?
ミルクも画力はそこそこなのだが、彼女を除外したのは今のミルクが絵を描ける状態ではないからだ。
半分寝ている。
いや、もう寝てるだろ、これ。
昨日は牛蔵さんの快気祝いということで、多くの人が家に押し寄せてどんちゃん騒ぎだったらしい。
それだけ彼が多くの人に慕われているのだろう。
だが、徹夜で行われた酒宴はミルクの睡眠を妨害するのに効果的だったらしい。
それでも学校にはしっかり出席し、一睡もせずに授業に挑んでいたとアヤメから聞いているので、そのツケがようやく回ってきたというところか。
しんどかったら仮眠室で寝てきてもいいんだぞって言いたいが、きっと断られるので黙っていよう。
「で、泰良。魔法の缶切りは何本あるの?」
「ええと……十五本だな」
インベントリから取り出す。
お宝ダンジョンでアヤメが手に入れた一本。
西条虎から追加で貰った三本。
閑さんから〇×クイズの正解で貰った一本。
牛蔵さんから貰った十本。
「ここに追加で三本あるから合計十八本ね」
と姫が追加で出した。
「押野さん、どこで手に入れたんですか?」
アヤメが完全に寝落ちを決めているミルクにブランケットを掛けながら尋ねる。
「まず、ダンジョンシーカーズの連中が持っていたのが一本ね。あっちも鈴原が行方不明になって体制が大きく変わっていたのよね。それで私たちとは是が非でも和解したかったみたい。いろいろと条件を出してきて、そのうちの一つがこれってわけ。残り二本はダンジョン局からの正規購入品よ」
貢献値の高い天下無双はダンジョン局が保有するアイテムを優先的に購入する権利が与えられる。
とはいえ、魔法の缶切りを集めているEPO法人はこれまでホワイトシーカーしかなかった。解体されたいま、ダンジョン局からしても不良在庫になってしまうため、俺たちが買ってくれるのは渡りに船らしい。
とにかく全部で十八本か。
前回は三つ開けただけであの大騒ぎだったのに、その六倍と考えると……
「この数……世界が変わるかもな」
「大袈裟とは思えませんね」
俺の冗談半分の発言に、アヤメは深く頷いてそう言う。
前回開けた三つの激レア缶の中身は、お宝ダンジョンの地図、八尺瓊勾玉、そして影獣化のスキル玉だった。
「泰良、激レア缶とレア缶の数は?」
「激レア缶七本、レア缶二十五本ある。一応全部持ってきたぞ」
と俺は三十二のD缶を置く。
「激レア缶は全部開けて、レア缶は一本様子見で開けて、中身がいいものだったら追加で開ける。いまいちだったら残りは開けずにナイフを保管しておく。それでどうかしら?」
「異論はない。ただ、最後にショボいのだったらイヤだから、最初にレア缶を開けてみたいがどうだろう?」
俺の案に姫とアヤメも頷いた。
ミルクが寝言で「いいよぉー」と言っている。寝ていても雰囲気だけはわかっているのだろう。
ということで、早速レア缶に魔法の缶切りを突き刺す。
魔法の缶切りが消えて、D缶が開いた。
中から出てきたのは――
「増えたな」
「増えたわね」
「増えましたね」
二本のナイフ――二本の魔法の缶切りだった。
ガチャチケット1枚消費してガチャを引いたらガチャチケット2枚出てきたような気分だ。
まぁ、実際はレア缶を一個消費しているので、レア缶と魔法の缶切りを交換したような感じになっているのだが。
二本に増えたので、レア缶を二個開封してみた。
これで魔法の缶切りが四つになった――なんてことはなく、ちゃんと別のものが入っていた。
一個目。
これは魔法の水筒か?
これまで、魔法の水筒(牛乳)、魔法の水筒(カレー)とD缶の中から出てきたので、特に驚かない。
レアという感じではないが、まぁ、ハズレではないよな――と思って鑑定してみたら――
【魔法の水筒(回復薬):魔石を入れると回復薬が出るようになる。魔石の品質により効果が代わる】
レアアイテムだった。
へ? 回復薬を生み出す水筒!?
「凄いもんが出たな」
「ポーションはまだまだ高いものね。これが魔石と交換で手に入るってなったら……本当に世界が変わるわね」
「これでレア缶ですか……」
これは個人で所有していいものではないが、しかし使えば便利なものだ。
ダンジョン局行きでいいな。
そして、もう一個のレア缶は一枚の紙と安全祈願のお守り袋が入っていて、紙にはこう書かれていた。
『ハズレ』
その言葉の意味を俺は一瞬理解できなかった。
ハズレって、こんなの通常からも出たことがないぞ。
「で、でも、お守りとか何か特別な効果がありそうですよね」
アヤメが鑑別のモノクルを使ってお守りを見てみる。
だが、俺も鑑定してみたが、普通のなんてことはないお守り袋だった。
レア缶にハズレってあるのか?
さっき魔法の缶切りが増えた分が丸々損した気分になる。
一応念のために、ハズレと書かれた紙も鑑定してみるか。
……は?
「アヤメ、これを鑑定してみてくれ」
「え? ……ってこれっ!?」
「私にも見せて!」
姫がアヤメから選別のモノクルを借りて鑑定してみる。
そして彼女も驚いた。
【ハズレ神:この紙を付属のお守り袋に入れて装着すると、敵の攻撃をとても躱しやすくなる】
詳細鑑定をしてみた結果、敵の攻撃を回避するときの俊敏値が1.5倍になり、さらに一定確率で状態異常を付与する――などの攻撃を受けた場合、効果の回避成功率を2倍にする。
例えば、80%でクリティカルダメージを与える攻撃を食らった場合、回避確率が20%✕2倍で40%となり、実際のクリティカル発動率は60%に。
50%未満でクリティカルが発生する攻撃だったら、クリティカル発動率は0%になってしまう。
ハズレ神、凄いな。
紙じゃなくて神なのも納得の効果だ。
「姫向きだな――」
「ええ……回避しながら攻撃した場合、巧遅拙速の効果でさらに強くなりそうね。確率命中攻撃の確率が減るのも嬉しいわね。泰良には必要なさそうだけど」
確率命中の攻撃は俺の幸運値だったら通用しないと思っているのだろうか?
あと欠点があるとすれば、姫の分身には効果がないということか。分身では装備の特殊効果は再現できない。
「これ、何も知らない人が見たらお守りだけ鑑定に出して、紙は捨ててしまいそうですね」
「下手したらお守りも鑑定に出さないかもな」
俺たちはこの缶がレア缶だってわかっているから何か秘密があるのかもしれないと思って見てしまうが、レア缶だとわからずに開けた人だったら鑑定料払ってまでハズレと書かれているアイテムを鑑定したりしないかもしれない。
結論――レア缶からでも凄いアイテムは出てくる。
とはいえ、個人的には激レア缶の方が良い物が多い気がする。
激レア缶を七個開けてしまおう。
「激レア缶1個目……」
出てきたのは一節の白銀色の竹だった。
【プラチナの竹:ランダムで三つのスキルのランクを一段階上げることができる】
と説明をする。
「スキルのランクアップ……聞いたことあるわね。でも私が知っているのは黄金の竹で、それもものすごく珍しいアイテムだったはずよ」
「それは俺も一度入手したことがある。PD生成をランクアップさせたんだよな」
「ランクアップさせてどうなったんですか?」
「本来は俺しか入る事ができなかったのに、結婚相手も入る事ができるようになったのと、魔物の発生率が10倍まで設定が可能に。あと、ロビーの設備が増えて、五階層ごとに転移できるようになった」
と説明した。
「んー、これは泰良が使う方がいいわね」
「いいのか?」
「ランダムですからね。それに、泰良さんならきっと必要なスキルがランクアップしますよ」
「じゃあ……使わせてもらうよ」
俺はプラチナの竹を剣で斬った。
竹が割れたのでステータスのスキル欄を確認する。
「どうだった?」
「詳細鑑定が詳細鑑定Ⅱに、インベントリがインベントリⅡに、簡易調合が瞬間調合になった」
「元の詳細鑑定とインベントリはどちらも元がユニークスキルだからわからないけれど、瞬間調合は知ってるわ。瞬間って名前だけど、簡易調合の十倍の速度で調合ができるようになるスキルよ」
「十倍か、でも十分だよ。水野さんに飲んでもらう経験値薬作りが楽になるな」
詳細鑑定ⅡとインベントリⅡについてはおいおい調べていくか。
「さて、次を開けるぞ」
激レア缶2個目はスキル玉だった。
やっぱり来たか。
「俺は前、激レア缶からのスキル玉を貰ったから今回はパス」
「じゃあ、三人のうちの誰かね……ジャンケンで決める?」
「そうなるとミルクちゃんが不利ですね。なんのスキルを覚えられるかわかれば割り振りも楽なんですけど」
「そうよね……」
うん。
例えば前衛系のスキルをアヤメが覚えても利用価値は薄いし、魔法スキルはやっぱり姫よりもミルクやアヤメが覚えるべきだ。
だが、実際に使ってみるまでどんなスキルを覚えるかわからないんだよな。
詳細鑑定をしてみる。
【スキル玉:舐めると※スキルを覚える。決して噛んではいけない。偽装されていて、鑑定してもダンジョンドロップとしか表示されない】
ランクアップ前と変わらない……ってあれ?
スキルの前に※印がある。
これはいったい――
【エナジードレイン:触れた相手から体力を吸収することができる】