伝説の杖の伝説級の能力
東さんにあげた杖が大魔術士の杖とかいうなんかチートっぽい武器に変わっていた。
さらに詳細鑑定で調べる。
【大魔術士の杖:持ち主が決まるまで鑑定結果は偽装されている。持ち主が決まると、その人に応じた特性が追加される】
追加特性は以下の通りだった。
連続魔法:魔法を四回まで連続で使ってもペナルティが発生しない。
魔法覚醒:魔法の威力が大幅にパワーアップする。
魔法誘導:魔法の命中率が上がる他、追尾機能を付与することができる。
偽装:鑑定結果を偽装することができる。
帰属:持ち主以外の人間が手にすることはできない。魔力を20消費することで杖を手元に戻すことができる。
不壊:この杖は持ち主が生きている限り決して壊れない。持ち主が死ぬと自壊する。
魔力充填:魔力の回復速度が大幅に上昇する。
大魔術士:持ち主の魔力が五割上昇する。
とんでもねぇな。
「壱野さん、どうしました?」
不安そうな顔で東さんが尋ねる。
「えっと、なんて説明したらいいのか……これ、魔導士の杖の鑑定情報が偽装されてたっぽい。鑑定で調べたら別の杖になってる」
「偽装っ!? って、え? 壱野さん、鑑定スキルも使えるんですか!?」
本当は詳細鑑定だけど。
なんか、東さんにいろいろとバレてしまってるが、ここで鑑定スキルのことを説明せずに杖の説明ができない。
「うん、まぁ、そのことは置いておいて、鑑定してみたところ大魔術士の杖って名前の杖に変わってる」
「聞いたことがない杖です」
「魔法を覚醒へと導く伝説の杖らしい」
「伝説のっ!? すみません、私、知らずに使っちゃって。返します」
「いや、それが東さん専用の武器になっちゃってるっぽいんだよね。たぶん、最初に杖を使った人以外使えなくなる仕様みたい。さっき弾かれたのもそれが原因っぽい」
「そんな……じゃあ、これってダンジョンの受付に預けることもできないんですか?」
「うん、そうなるね……まぁ、杖は剣と違って銃刀法に抵触していないから申請無しに持ち歩くこともできるし……普段はギターケースとかゴルフバッグに入れて持ち歩いたらいいんじゃないかな? とりあえず戦闘を終わらせようか」
俺はそう言って、仲間がズタズタに切り裂かれた結果恐怖で気絶しているもう一体のツボタコを倒した。
そして、俺はさっき調べた効果を説明すると、東さん、まるで捨てられた小犬のように震えていた。
核の発射スイッチを突然渡されたくらいのインパクトだろう。
「まぁ、普段は魔導士の杖って偽装しておけばいいんじゃない? 盗まれても魔力を消費したら手元に戻って来るし」
「そういう問題じゃありませんよ」
「一流の探索家になりたいなら絶対東さんの力になってくれる杖だよ」
「でも……壱野さんに悪いですよ。ただでさえ返しきれない恩がいっぱいあるのに」
「東さんは探索家の仕事まだ続けるんでしょ? だったら、たまに一緒にダンジョン探索して助けてもらうよ。俺、結局物理メインだからさ、この前もゴーストの大群から逃げたところだし」
「一緒に……いいんですか?」
「もちろん。こっちからお願いするよ」
彼女の杖はもはやチート級。
近い将来、彼女が名を馳せるダンジョン探索家になる日も訪れるはずだ。
だったら、いまのうちに唾をつけておくのもいいだろう。
十階層より下はソロでは厳しいって聞いたし。
「私、頑張ります! 壱野さんに相応しい探索家になってみせます!」
「その意気やよし! じゃあお昼にしようか」
落ちているアイテムを回収し、床に座って食事とする。
東さんが鞄からお弁当箱を出した。
「これ、壱野さんの分です」
「大きいね」
東さんの倍くらい量がある。
「男の人はいっぱい食べるので。多すぎました?」
「ううん、お腹空いてたからちょうどいいよ」
お弁当箱の蓋を開ける。
お弁当は二段になっていて、上はおにぎりだった。
梅干し、鮭、のりたまの三種類。
下の段はおかず。
「うわぁ」
からあげ、卵焼き、ハンバーグ、ほうれん草のお浸し、レタス、ミニトマト、タコさんウインナー。
THEお弁当って感じのメニューだが、からあげもハンバーグも冷凍食品って感じがしない。
まさか、全部お弁当用にわざわざ作ったのか?
うわぁ、なんて尊いお弁当だ。
俺は感謝しながら、からあげから食べる。
しっかり咀嚼する。
「どうですか?」
「最高にうまい」
本心からそう言った。
外がサクっと、中がジューシー。
鶏肉の旨味を最大限に引き出している。
これはきっと二度揚げしているな。
そのひと手間が味を変えるのだ。
二個目は横に添えてあったレモンを絞って食べる。
うん、サッパリして美味しい。
「壱野さんはからあげにはレモンをかけるのが好みなんですか?」
「あったらかけるかな? なくても別にいいけど」
「わかりました。今度から絶対レモンを入れるようにします」
話聞いてた?
なくても別にいいって言ったよね?
しかし、美味しいな。
そうだよ。
高級レストランもたしかにおいしいけれど、高校生の食事はこれでいいんだよ。
と俺はケチャップのついているハンバーグを食べる。
うん、これも美味しい。
あぁ、幸せだな。
「壱野さん、口の端にご飯粒がついてますよ」
「え?」
指で拭いてみるが、ご飯粒の感触はない。
「じっとしてください。いま取りますから」
と東さんが手を伸ばす。
なんかドキドキしてきた。
ただご飯粒を取ってもらうだけなのに。
俺が緊張しているからか、東さんも緊張しているように見えた。
その時だった。
「誰か来るっ!?」
気配探知に何かが引っかかり、立ち上がった。
と同時に、ご飯粒が落ちたことに気付いた。
「魔物ですか?」
「いや、人の気配だと思う。魔物を引きつれている様子はない」
俺はそう言う。
せっかくのお弁当の時間を邪魔しやがって。
まだ半分も食べていないのに――おなかいっぱいになりかけてるけど。
気配のした方向に人影が見えた。
ただし、かなり小さい。
小学生くらい――って小学生はダンジョンに入れないよな?
だったら十八歳以上なのか?
と思ったらこっちに向かって走って来る。
そして、俺はその姿に驚いた。
忍者がいたのだ。
しかもその忍者は金髪ツインテールの女の子――くノ一だ。
最初は覚醒者かと思ったが、顔立ちも日本人と少し違う気がする。
もしかして、海外の人?
「はじめまして! あなたが壱野泰良ね?」
「はい。そうですが――」
「会いたかったわっ!」
彼女はそう言うと、俺に抱き着いてきた。
一瞬、自分に何が起きたのかわからない。
鯖折りされている……わけじゃないよな?
「あなた! いきなり壱野さんに何をしているんですかっ!?」
「ただの挨拶よ?」
「日本では挨拶で抱き着いたりしません!」
東さんが俺の代わりに怒って彼女を俺から引き剥がしてくれた。
一瞬の出来事で、女の子の感触とかほとんどわからなかった。
まぁ、原因は彼女の胸が――いや、そういうのは思わないようにしよう。
「えっと、初対面だよね? なんで俺のこと知ってるの?」
「自己紹介がまだだったわね。私は押野姫よ。年齢はあなたと同じ十八歳」
「あなた、日本人なんですか?」
東さんが驚いたように言う。
うん、てっきり向こうの人だと思った。
「ハーフよ。父はアメリカ人で、私も去年まではニューヨークに住んでいたの.」
ふぅん、なるほどね。
……ん? 待て。
彼女の名前、なんといった?
「押野?」
その名前には聞き覚えしかない。
ただの偶然だろうか?
「あなたの想像通りよ。私の母は押野リゾートの社長押野亜里沙。ダディであるキング・キャンベルの愛人の一人ね」
待って? 情報が入ってこない。
押野グループの会長が押野亜里沙って女性なのは知っているが、キング・キャンベルの愛人?
第三のヒロイン登場?