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ダンジョンシーカーズ

 その日の学校は、ダンジョン学園の話題で盛り上がっていた。

 クラスの三分の二がダンジョン学園のダンジョンに参加し、全員レベル2に上がったらしい。

 青木も6階層まで潜ったんだとか。


「いいよな、世界一安全なダンジョン。ああいうダンジョンができれば探索者の数も増えるんだろうな」

「でも、高校を卒業したら通常のダンジョンに潜らないといけなくなるんだろ? 絶対に死なないってゲーム感覚でダンジョン学園に通っている生徒がいて、そのまま卒業したら危険じゃないか?」

「ああ。だから結構入試面接は厳しいらしいぞ? 今年も編入できたの四人しかいないって噂だし。しかも全員女の子」

「そうなんだ」


 アヤメの妹が編入試験を受けて合格したって聞いていたが、かなり優秀な子なんだろうか?


「そういえば、21階層ってどんなだったんだ? 夜の荒野だったんだろ?」

「あぁ、あれは生駒山上遊園地をクリアした俺たちを試す目的で設定していたみたいで、今度から雪原になるみたいだぞ」

「そうなのか? 雪原か……雪駄――いや、スキー板の持ち込みが必要になるか?」


 さすがにスキー板を使っての戦闘は難しいだろう。

 姫なら天翔のスキルで雪原でも関係なく動き回れそうだが。

 と話していたら、クラスメートの柴田が声を掛けてきた。


「なぁ、壱野。聞いたか? 天下無双ってギルドの話。金の力で公式ギルドになったって今噂になってるんだが、お前もかなり稼いでるんだろ? どうせなら公式ギルドになったらどうだ? お前の方が実力もあるんだし、絶対みんな応援してくれるよ」


 公式ギルドとはEPO法人の俗称だ。

 柴田は俺がベータであることは知っているが、天下無双であることは知らないんだよな。


「考えとくよ」

「いやいや、今がチャンスだって。俺の知り合いにこういうのに詳しいおじさんがいるから、今度紹介を――」

「……柴田くん泰良様に迷惑を掛けないで――」


 と制服姿のトゥーナが文句を言う。


「え? トゥーナちゃん。俺は壱野に迷惑なんて――」

「おーい、柴田! ちょっとこっちこーい! 実はお前もやってるゲームでわからないことがあるんだが――」

「待て、青木! 俺は壱野に話が――」


 と柴田が言うも、青木に引っ張られていく。

 レベルが上がって力が上がったか。

 青木も俺が天下無双に所属していることは知らないはずだが、空気を察してくれたのだろう。


「泰良様、気にしないで」

「ああ、気にしてないよ。ありがとうな」


 俺はトゥーナに礼を言う。


「壱野くん、ちょっといい?」

「あぁ、水野さん。例の噂?」

「うん……私は大丈夫だけど、うちのお父さんも押野グループから仕事を受けてるでしょ? それでいろいろ気になっちゃって」

「根も葉もない噂だから心配しなくていいよ。それと炎上元も特定できたし」

「特定できたの?」

「うん。ダンジョンシーカーズって知ってる? そこの下部組織のダンジョンエクスプローラーズの一部の人間らしい。ダンジョンシーカーズが研修会で学んだことを組織内の全体研修で教えた結果、天下無双について疑問に思ってあんな呟きをしたらしい。今日、うちのオフィスに直接謝罪に来ることになってるんだ」


 確か、貢献値ランキングは第四位で、組織としての人数は日本最多とも言われている。

 元々探索者好きが集まった互助組織で、EPO法人のことをギルドと呼ぶのも彼らが発端だという。


「自分たちは努力してもEPO法人である上の組織に上がれないのに、壱野くんや姫ちゃんたちはお金の力でEPO法人に入っているって思いこんで逆恨みしてるってこと?」

「わからないけど、とりあえず俺は学校を早退して梅田のオフィスに行くつもりだ。閑さんにも許可を貰ってる」


 さすがに姫一人に任せるというのはよくない。

 事務所に戦える人員が一人というのもな。

 どうせなら東京の支部オフィスに行ってくれたら、妃やホワイトキーパーがいるというのに、なんでわざわざ大阪に来るのかって思う。


「私も一緒に――ううん、ダメだよね」

「ああ。水野さんはうちの秘密兵器だからな――たぶん水野さんのことが明るみになったら、俺やミルクたち以上に引き抜きの話が来ると思うよ」

「それは面倒だね」


 と水野さんは苦笑した。


 その後、閑さんが来てホームルームが始まる。

 青木とどんな話があったのかわからないが、柴田はこれ以上変な勧誘はしてこなくなった。


 そして昼休みに早退する(弁当は休み時間に早弁して食べ終えた)。

 迎えのハイヤーが予定通りに学校の前に来たので、それに乗って梅田のオフィス事務所へ。

 来訪予定の一時間前に到着。


 姫もオフィスにいた。

 彼女の夏休みは9月末まで続くので、いまも結構な時間オフィスにいるかPDに潜っているかどちらかだ。

 大学生が少し羨ましいと思った。


「じゃあ、泰良。始めましょうか」

「始めるって、何を? 相手が来るまですることないだろ?」

「月見里閑に頼まれてるのよ。今日早退した分の授業を教えるようにって」


 と姫が高校教材を取り出して言った。

 マジか……やけにあっさり帰らせてくれると思ったら、姫にそんなこと頼んでいたのか。

 梅田のオフィスにて見た目が小学生で大学生の妻に勉強を教わる高校生の夫。

 なんという構図だ。

 一時間みっちり、二時間分の授業を教わった。


 そして、予定時刻の三分前に客が来た。


 相手は五人組。

 二十五歳から三十歳くらいの男女と、そして一番前にいるのはガタイのいい男。


「本日は急な来訪に応じてくれて感謝する。俺はこういうものだ――」


 と大きな体のわりには小さな名刺を俺たちに差し出した。


【EPO法人ダンジョンシーカーズ理事長 鈴原西郷】

 

 鈴原西郷(すずはらさいごう)……? 名字が二つあるみたいだが。


「親が西郷隆盛の大ファンで、そういう名前になった。仲間からは最強鈴原と呼ばれている」


 とこちらから質問する前に、彼はそう答えた。

 それだったら、鈴原隆盛にしたらいいのに。

 ……ってあれ? 最強鈴原ってどこかで聞いたような。


「この度は俺の部下が大変失礼なことをした。すまなかった」


 と彼は深く頭を下げる。


「鈴原さんの謝罪の言葉は受け入れるわ」

「おぉ、本当か! 感謝する。これはつまらないものだが――」


 と鈴原が菓子折りを渡そうとしたところで――



「だけど、後ろの四人は謝罪するって感じじゃないわよね? 頭も下げていないし、なにより納得していない表情をしてるんだけど」


 姫の言う通りだと俺も思った。

 というか、ずっと姫のことを睨んでいる。


「お前ら! しっかり謝らないか!」

「いや、でも納得いかないですよ、最強鈴原さん! 最強鈴原さんはずっと言ってたじゃないですか! ダンジョンの中では強さこそが全て! 外の権力も通用しない神聖な大地!」

「彼女たちは神聖な大地を踏み荒らしているんですよ!」

「馬鹿者! たとえどんな理由があっても、他人に対して暴言を誘導するような行為は許されるものではないだろう! たとえ法の及ばぬ範囲であっても人として間違っている!」


 そうそう、鈴原さんの言う通り……ってん?

 それって、法律的には自分たちはなんの非もないって言っているんじゃないか?


「重ね重ね失礼した。それでどうだろう? 天下無双の誤解を解く機会を与えてくれないだろうか?」

「具体的にどうするの?」

「少数精鋭でやっているギルドだ。実力に自信があるのだろう? その実力をこちらが正しく伝えさせていただく。そうすれば、今のネット上の誤解も解けるだろう」


 と鈴原が不敵な笑みを浮かべた。

 こいつら、謝罪とか言って、ただ挑戦状を叩きつけに来たんじゃないか?

 なんて失礼な奴だ。


 本来ならそんなの無視してもいいのだが、そうはしなかった。

 俺たちはその試合を受けることにした。


 ――本当に姫の言う通りになったな。

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― 新着の感想 ―
半グレ集団でしたか
[良い点] 思うがままに、やっつけろ!(*´ω`*)
[一言] まぁなんでこんなめんどくさいことになってるかというと世間一般に「天下無双=チーム救世主」の図式がまだ明かされてないから、なんだよな。 別に本格的に隠してるわけではないから同業の人がちゃんと調…
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