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ダンジョン学園(その1)

 蝉の声がアブラゼミからツクツクボウシへと変わってきて、そろそろ夏も終わりだなぁ――なんて思うはずもない残暑の中。

 俺はダンジョン学園に向かっていた。

 最寄り駅から歩いて十分だって聞いていたから直ぐだと思ったが、夏の暑さを舐めていた。

 喉が渇いた。

 自動販売機を発見する。

 大阪名物の激安自動販売機だ。

 一番安いのは何が出るかわからないミステリードリンク――10円。

 だいたい消費期限が残りわずかなものを纏め買いして入れているらしい。

 だが、俺は金がある。

 ここは有名メーカー品の爽〇美茶を……


「……金がない」


 正確には一万円札と五円玉しかない。

 最近、スマホ決済でばかり買い物しているから財布の中を見ていなかった。

 仕方がない、水を飲むか――と思ったとき。

 誰かがぶっ倒れていた。


「大丈夫ですかっ!?」


 と駆け寄り、それを見下ろす。

 閑さんだった。


「ち、ちの太くん……すまない……水を……」

「はい!」


 俺は魔法のミニ水筒を取り出して彼女に渡した。

 彼女はそれを手に取り――


「閑さん!」

「(ゴクっ、ゴクっ)言いたいことはわかる。脱水症状下での水の過剰摂取は低ナトリウム血症の危険があるのだろう? ちゃんと塩飴は持ってきている」

「いや、そんなこと考えてない――俺も飲みたかったのでコップを使ってほしかっただけです」


 インベントリから取り出したコップが無駄になってしまった。


「ああ、間接キスになってしまうのか。それは失礼」

「いえ、構いませんよ」


 と俺は水筒を返してもらい、自分の分はコップに入れて飲む。


「で、閑さんは何をしていたんですか?」

「ダンジョン学園の下見だよ。駅から歩いて十分と聞いて、歩いて行こうと思ったのだが、まさかこの暑さとは……そして自動販売機で飲み物を買おうとしたら一万円札しかなくて倒れてしまった。三徹明けは辛かったようだな」


 不健康な生活しているなぁ。

 これでダンジョンの中では戦えるのだろうか?


「今日ダンジョン学園に行くのは俺たちだけじゃなかったんですね」


 水を飲みながら尋ねた。


「ああ。他にも招待されている他校の生徒が来ているはずだ。何しろ高校の数は多いからな。一度に全員を招待することはできなかったようだ。飴ちゃん食べるかい?」

「ありがとうございます。もらいます」


 塩飴(レモン味)を舐めながら、ダンジョン学園に向かった。

 ダンジョン学園の正門前には、マスコミのものと思われるカメラが待機していたが、現在はリハーサル中って感じだ。

 撮影はしていない感じだな。

 お昼のニュースの時間に生放送でもするのだろうか?

 ダンジョン学園は今や注目の的だからな。


「学校っていうから駅前とか住宅地の中だと思ってたけど、周辺は工場が多いんですね」

「急なことで土地の用意が難しかったのもあるが、住宅地だと周囲の反対があるだろうからな。ダンプルの作ったダンジョンといえば危険なイメージが拭えない」

「でも、安全なダンジョンなんですよね?」

「トゥーナ嬢が異世界で出会ったダンプルの話、ダンポンから聞いたダンプルの人柄を見ても、彼らが嘘を吐いているとは思わない。ダンプルがルール無用で人々を殺したいのであれば、そんな手間を掛けずに好きな場所にダンジョンを作ればいい。彼らにはそれが可能だ。それをしないということは、彼らは自分の決めたルールを守るということだ。ただ、感情は時に正論を破綻に追い込む」


 その気持ちはわからなくもない。

 特に大半の人間はダンジョンなんて関係なく生活をしている。

 自分の家の隣にダンジョンが出来ても利がない。

 なんとなく薄気味悪い上に利益に繋がらないものが隣に出来るって言われたら、それは反対するだろう。

 それに、探索者である俺からしたらいい迷惑なのだが、探索者になる人間は勉強が苦手で学校にも行かない落伍者が多いっていう世間の認識が結構根強く残っている。

 俺に言わせてみれば、本当の落伍者は、長時間行列に並んでひたすらスライムを狩る苦行に耐えられないと思う。

 あれをするくらいなら、学校に行って勉強している方が遥かにマシだと思うよ。

 俺たちは裏口で職員に招待状を見せて学園の中に入る。

 学校は綺麗で、今すぐ俺の高校の校舎と交換してほしいくらいだ。

 ただし、新しい建物特有の少しすっぱい臭いがした。

 あんまり好きじゃないんだよな、この臭い。


「しかし、ダンプルが総理と会ったのってつい最近だよな。よくもまぁこの短期間に学校ができたな」


 俺が独り言のように言う。


「ダンプルと会談したのは最近だが、この工事は君たちが生駒山上遊園地ダンジョンの攻略を終えて直ぐに始まっていた。恐らく、直接対談する前から裏で話は進んでいたのだろう」


 閑さんが説明をした。

 それでも2ヵ月くらいだろ? 

 よくこんな立派な学校ができたものだ。

 ダンジョンは学校の中心ではなく、その隅にある。

 一応、学校の内側と外側の両方に更衣室と入口があるのだが、

 外側の入口は現在は封鎖されているので、内側に向かう。

 ダンジョンの横には駐車場があって、大型のバスが三台停まっていた。

 招待された高校生たちが乗っていたバスだろうか?

 ダンジョン前の更衣室の入口で改めて招待状を見せ、俺と閑さんはそれぞれの更衣室に入っていった。

 貴重品をそれ用のロッカーに預け、火鼠の外套に着替えてダンジョン内に移動。

 ロビーには他の高校の生徒はいなかったが、扉の向こうから多くの人の気配がする。

 たぶん、既にスライム狩りを始めているのだろう。


 と思っていたら、ロビーにもう一つの気配が。

 そいつは俺を見て笑顔で挨拶をする。


「やぁ」


 だが、俺は挨拶を返す気にはならない。

 ダンプルだったから。


「そんなところで何をしてるんだ?」

「なにって、僕はこのダンジョンの管理人だろ? ここにいて当然じゃないか。ここでダンジョンの説明をするのが僕の役目さ。君たちの仲間も来たようだし、早速説明を始めようかな?」


 仲間?

 と思っていたら、ミルクたち女子メンバーと閑さんがやってきた。

 閑さんを除いた女子メンバーもダンプルを見て警戒する。

 姫は鞄の中から普段から持ち歩いているらしいクナイを取り出す。

 アヤメの手に大魔術師の杖が現れた。魔力を使って呼び寄せたのだろう。


「そう警戒することもないだろう。ダンプルくん。武器の引き出しを頼めるか?」

「もちろんだよ。それも今日の僕の仕事だからね」

 

 とダンプルはどこからともなく薙刀を取り出して閑さんに渡した。

 彼女はそれを器用に振り回す。

 さっきまで熱中症で倒れていた人と同一人物とは思えない。


「私も杖と銃を」


 とミルクも武器を引き出した。

 

「さて、説明を頼めるかな? このダンジョンがどのように世界一安全か、この目で、この耳で確かめたいのだが」

「もちろんだよ。君たちにはこれを渡す」


 それは腕輪だった。


【身代わりの腕輪∞:ダメージと状態異常を肩代わりしてくれる腕輪※学園ダンジョン専用】


 ……ん? 本来ならどれだけダメージを受けたら壊れるとか表示されているが、それがない。

 ∞……無限!?

 無限にダメージを肩代わりしてくれるのか。

 一応詳細鑑定をしてみる。


【一定条件を満たすと転移魔法が発動しダンジョンの外に放り出され、レベルが1になってしまう】


 レベル1になるっ!?


「この身代わりの腕輪は君たちのダメージを代わりに引き受けてくれる。誰か装備して、チェックと言ってみてくれ。装備している人の体力が表示されるはずだ。」


 閑さんが真っ先に腕輪を装着してチェックと言う。


【体力2080/2080】


 おぉ、俺よりは体力が低いが、ミルクやアヤメの倍以上ある。

 やっぱり閑さんの体力は高いのか。


「特定の場所を除き、この体力がゼロになると、ゲームオーバーだ。更衣室に転移で送られ、レベルも1になる他、ダンジョン産のアイテムは全てその場にドロップ。さらにダンジョンに1週間入れなくなってしまう。しかし、死ぬことはない。怪我をすることも状態異常になることもない。安全だろ?」

「死ななくてもレベル1になるのは御免ね……」


 姫が苦笑して言う。

 確かにここまでレベルを上げてきた苦労を考えるとレベル1になるのは御免だ。

 とはいえ、安全なダンジョンと言われる理由はよくわかった。


「なお、あちらには闘技場がある。闘技場の中では体力が0になっても死ぬことはない。安全に全力で模擬戦を利用できる。ダンジョン配信で盛り上がる事間違いなしだろう?」

「合法的にPVPが可能ってことか。そりゃ確かに面白そうだな」

「君たちEPO法人の人間はレンタル料を支払えば利用ができるからね。詳しくはメールで後日送付するから目を通してほしい。なお、今日はプレオープンのため、17時までの利用になっている。17時になっても退出しないと強制的にこのロビーに転移されてしまうから気を付けてくれ」


 と言ってダンプルは身代わりの腕輪∞を俺たちに渡した。


「なぁ、学園ダンジョンとは関係のないことでいろいろと聞きたいことがあるんだが、質問に答えてくれるか?」

「それはできないね。僕にはその権限が与えられていないんだ。本当は君たちともっと会話を楽しみたいんだけどね」


 とダンプルは少し残念そうに言った。

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プルポンにはレベルという概念は何かしらリソースとして回収できる資源なのかな 単純に最低限のペナルティというだけなのか
デスペナがレベル1になるのは確かにキツいが、本来だったら死そのものなんだから死なないだけマシなんだよなぁ、しかもリトライできるわけだし
[一言] 今年はツクツクホーシの鳴き声しか聴いていないわ クマゼミ、アブラゼミの鳴き声は無かったよ 悪い事が起きなければ良いが・・・・。
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