トリプルレベル(その2)
ネオキューブ狩りは絶好調だった。
クロと影獣化をしたら近くのネオキューブは直ぐに追いつけるし、離れた場所にいてこれは追いかけるのが面倒だなーってネオキューブはゼンの風魔法で倒す。
キューブキラーについては相手が必中剣を使う前に、クロが一度影から飛び出して咆哮―ー止まった一瞬のうちに俺が先手で殴って倒す。
ルーティンが完成した。
もちろん、ゲームと違ってリアルのため想定外の事態は発生するが、順調に狩りは進んだ。
「宝箱発見!」
ネット情報なのだが、宝箱の中身は5階層ごとにその価値が上がっていく。簡単に言うと、下一桁が1と6の階層に到達するごとにその価値が上がる。
3階層はランク1~3、7階層はランク2~4という感じで。
そして26階層はランク6~8のアイテムが出るのだが、俺はトレジャーアップスキルがあるから、ランク7~9のアイテムが出てくる。
そして、ダンポンに豚まんと引き換えに教えてもらったのだが、聖女の霊薬はこのランクに当てはめると、ランク15の激レアアイテムらしい。
56階層……先はまだ長いな。
と考えながら宝箱を開ける。
中に入っていたのは黄色いヘルメットだった。
【安全メット+7:頭を守ってくれるヘルメット】
比較的よく出てくるアイテムだが、強化値が大きいな。
そこそこの値段で売れるだろう。
「小僧は装備せぬのか?」
「影獣化中は装備できないし、中が蒸れるしなんか苦手なんだよな。姫やミルクも髪が乱れるって言ってたし」
ゼンの質問に答える。
あとは、戦う魔物に応じて属性耐性のある髪飾りを見えないように装備している。頭装備は二個以上装備できない――影獣化しているときに装備しようとしたら弾かれるような感じ――ので、やっぱり安全メットは必要ない。
そういえば、青木は自分のキャラがアニメ化されるようなことがあったら、イラストでキャラの判別が難しくなるから汎用兜は装備しないとかバカなことを言っていた。
「じゃあ、次に行くか」
という感じでネオキューブ狩りを続けた。
何時間くらい経っただろうか?
「主殿がダンジョンから出るようだな」
ゼンが言った。
もうそんな時間か。
「俺たちもそろそろ出るか。トレジャーボックスがインベントリに入りきらなくなったし」
インベントリは同じアイテムにつき99個しか入らない。99個なんて簡単に埋まらないって思っていたが、ドロップ率100%のアイテムとかなら直ぐにいっぱいになる。
アイテムボックススキルも同時に欲しくなってくる。
普通の探索者はアイテムボックスもインベントリも両方持っていないっていうんだから、何日もダンジョンに潜る探索者は一体どうやってドロップアイテムを持ち帰っているんだって思ってしまう。
持ち帰るための荷物だけではなく、水筒や食料、武器の予備なども鞄に入れて運ぶ必要がある。
ゲームとかでよくある、アイテムがいっぱい入る鞄とか開発されないだろうか?
GDCグループが新しい魔道具の開発に成功したって聞いた。
なんでも、畑の土と肥料らしい。
詳しい効果はわからないが、GDCグループは農業にも進出するのだろうかと噂になっている。
GDCグループや水野さんだけではなく、世界中で新たな魔道具が日々開発されている。
俺が欲しい鞄が開発される日もいずれは訪れるかもしれない。
でも、その開発に成功したら、インベントリを持っているという優位性が失われるな。
ダンジョン探索は競争ってわけじゃないけれど、ランキングを意識するのならやっぱり考えてしまう。
25階層に魔法で転移し、魔法陣を使って一階層に戻った。
「タイラ、おかえりなのです」
「ただいま。ミルクとアヤメは?」
「いまはシャワーを浴びてるのですよ。タイラも一緒に入ってきたらどうなのです?」
「うーん、やめておくよ」
一応俺たちは夫婦だから一緒にシャワーを浴びることも許されるだろう。
生駒山上遊園地近くのPDでの修行中は実際に一緒にシャワーを浴びたこともある。あの時は娯楽に飢えていて、三人とイチャイチャすることが一番の楽しみだったっけ。
二人がシャワーから出てくるまでの間、鞄の中からトレジャーボックスNを取り出して開封作業を始めることにした。
「また身代わりの腕輪か」
供給過多だよなぁ、こいつも。
トレジャーボックスからの出現率は1%未満だって聞いた気がするが、結構な割合で出てきている。
さて、他には何が出るかな?
なんだこれ? 義眼?
金属製の目のようなものが入っていた。
【遠視の義眼:目を閉じて使用すると、離れた場所の景色を見ることができる】
望遠鏡とか双眼鏡みたいなものかな?
と目を閉じてみると――
「ぶっ」
シャワーを浴びているミルクとアヤメの姿が見えた。
胸の大きさはミルクが勝るが、アヤメのお尻はぷりっと――っていかんいかん。
一緒にシャワーを浴びる事はたぶん許してもらえるが、覗きは怒られる。
俺は遠視の義眼を目から離した。
「坊主、何が見えていたのだ?」
「何も見えてないよ」
俺はそう言って、遠視の義眼をインベントリに収納。
これは世に出回ってはいけないアイテムだ。
絶対に犯罪に悪用される。
真実の鏡といい、天沼矛、廃世界と世に出せないものばかり増えていくな、俺のインベントリ。
そのうち、俺の存在が特級呪物になるのではないか?
この遠視の義眼はダンジョンの中だと扉の向こうにいる魔物の様子とかがわかるから、使い道があるだけまだマシか。
次だ、次。
黄色の魔石――5万円――いや、今月中旬から買い取り価格が下がって4万円になったっけ?
これでハズレの部類だ。
やっぱり26階層の魔物から取れる宝箱だから良い物が多いな。
「壱野さんも探索終わってたんですね」
「もしかして私たちが上がるの待ってたの? 言ってくれたら一緒に入ってもよかったのに」
「私はまだ少し恥ずかしいです……でも、壱野さんが望むなら」
とミルクが冗談っぽく言って、アヤメが本気で言う。
俺は「また今度頼むよ」と言って苦笑した。
ゼンがアヤメのところに跳んでいく。
「ゼンちゃん、お疲れ様」
ヤツデの葉に戻った。
そして、アヤメはそれをダンポンに預ける。
ミルクも銃や杖をダンポンに預けた。
どうやら今日の探索は終わりのようだ。
「それで、二人のレベルはどうなったんだ?」
俺の問いに、ミルクとアヤメは顔を見合わせ、そして笑顔で言う。
「うん、ちゃんとレベル100に到達したよ」
「これで私たちもトリプルレベルです」
レベル100の到達者はレアスキル、ユニークスキルが生えやすいことからトリプルレベルと呼ばれ、トップランカーとして扱われる。
レベルだけなら四人揃ってトップランカーの仲間入りだ。
「それで、二人はスキルが生えたのか?」
「私は覚えましたが……」
「えっと……一応覚えたよ」
ミルクの歯切れが悪い
一体、何のスキルを覚えたんだ?




