姫と二人ダンジョン
やっぱり俺の次にレベル100に到達したのは姫だったか。
俺が青木と二人で配信をしたり、アヤメと二人でデートしたりしている間も彼女は時折PDに潜っていた。
分身を使えば常人の五倍の速度でレベルを上げることができるので、こうなるのは必然か。
俺と姫は万博公園ダンジョンのデータから作った24階層に来ていた。
姫は今日も忍装束スタイルだ。
この階層には四種類の魔物がいる。
闇魔法を使う黒い馬のダークホース。空から急襲してくる巨大な鷲のヘルイーグル。草原のあちこちにある水辺付近にいるなんかワニっぽい魔物――名前は知らない。そして草の中に潜んでるマンドラゴラだ。
「あれがヘルイーグルね」
「アヤメがいたら風魔法で楽に倒せたんだが、俺たちだと厳しいな」
見えない天井ギリギリを飛ぶヘルイーグルは警戒心が強い。
俺の遠距離攻撃手段は水魔法、火魔法、そして獄炎魔法。あとは投石か。
一石二鳥って言葉はあっても一石で一鷲は倒せない。
また、俺は魔法の熟練度はまだまだ低く、水魔法と火魔法の威力はいまいち。
倒すには何度も魔法をぶつける必要がある。
獄炎魔法は一度で魔力を全消費してしまうから何度も使えない。
「私が倒すわ!」
「注目の的でおびき寄せて倒すのか?」
「その必要はないわ!」
姫はそう言うと走った。
空を。
「はぁぁぁぁぁぁあっ!?」
まるで見えない床があるかのようにヘルイーグルにむかって一直線に走ると、それに気づいたヘルイーグルも急降下して姫に襲い掛かるが、地の利ならぬ空の利を失ったヘルイーグルは姫の敵ではなかった。
朧突きを使ってあっという間に倒す。
空からDコインが落ちてきた。
少し遅れて、姫も地上に戻って来る。
「どうだった?」
「どうって、重力でも操るスキルか?」
「天翔といって空を走るレアスキルよ。足下に一瞬だけ見えない足場を生成してるって感じかしら。ここまで使いこなすのに時間はかかったけれど、なかなかのものでしょ?」
「見えない足場を一瞬だけ……じゃあさっき敵の攻撃を食らって気絶したら死ぬってことか? かなり危ないスキルだな」
「まさか? 私たちのダンジョン内の体力や防御値を考えると空から落ちた程度で死なないわよ。かなり痛いとは思うけどね」
と姫は言った。
あ、そういえばそうか。
むしろ地上十メートルくらいからの自由落下で地面に衝突するときの到達速度が約秒速15メートルくらいだから、その速度より姫が全力で走った方が速いと思う。
「これで回避タンクとしてさらに強くなれるわね」
「空を飛ぶのと回避タンクは関係ないだろ?」
「大ありよ。たとえば梅田ダンジョンの砂漠のような場所や、足下がぬかるんだ湿原、浅い水辺、つるつる滑る氷の上なんかだとどうしても全力で走れないでしょ? でもこの天翔があれば自由に走れるわ。それに――」
と姫は大きく横に跳ぶと、こんどは垂直に走り始め、さらにひっくり返って走って戻って来る。
「と壁走りと併用したらこんな風に立体的に自由に動けるから敵を翻弄することも可能よ。さらに――」
と姫が少し離れた場所にいるダークホースに向かって走った。
ダークホースが気付いたところで、姫は分身を生み出し、立体的に動く。
突然のことにダークホースは闇魔法をどこに放つか戸惑ったように見えた。
そして放った闇魔法も簡単に躱され、姫が分身と一緒にダークホースを仕留めて戻って来る。
ただでさえ数が増えて一気に襲われたら敵は混乱するだろうに、いまやそれが立体的に襲い掛かってくるのだ。
「ってあれ?」
俺は指差しで姫の数を数える。
「お前、なんか増えてないか?」
「ええ。分身も熟練度が上がって、九人まで作れるようになったわ」
「いまは七人しかいないが?」
「二人には二十一階層でレベル上げしてもらってるわよ」
こういう使い方ができるからズルい。
「ねぇ、泰良。一緒にてんしばダンジョンの26階層に行ってみない?」
「そこになにがあるんだ?」
「ネオキューブっていうキューブの上位種の魔物がいるらしいのよ」
「二人でか? 危なくないか?」
「今の私たちなら大丈夫よ。いざとなったら泰良の空間魔法で。それに、たまには二人で……ね?」
と姫が上目遣いで俺にそう言ってきた。
こいつ、まさか――
いや、まぁそうだな。
「うん、わかった。じゃあ二人で行くか」
ハイヤーを呼び、天王寺に移動。
そしててんしばダンジョンの21階層に転移。さらに空間魔法で一気に24階層の入り口に移動。
ブロンズゴブリンやブロンズリザードマンの軍団を倒さなくていいのは助かる。
24階層のメタルスライムは姫の天敵なので俺が彼女を守って倒しながら進む。
そして25階層に到着。
ここに来るのは初めてだ。
工場ダンジョンが続く。
25階層にいる魔物は21階層や22階層と同じように金属化した魔物だった。
最初にベルトコンベアに乗って現れたのは、七体の空を飛ぶ機械のトビウオ。
「メタルフライフィッシュか」
「羽の形が違うわ。あれはメタルフライフィッシュバージョン2.0ね!」
姫が言うと、メタルフライフィッシュバージョン2、長いのでメタルフライフィッシュ2が俺たちに向かって光魔法を放ってくる。
「魔法反射!」
俺を狙ってきた魔法は全て跳ね返したが、魔法の貯め時間、射出速度、そして威力。そのすべてがパワーアップしている。
さすがバージョン2。
姫は大丈夫だろうか? って思っていたが、普通に高速攻撃を躱してメタルフライフィッシュ2を倒していた。
俊敏値がまた上がってる。
金の草鞋のお陰で俊敏値の成長率が上がってるのも大きいのだろう。
「じゃあ行きましょう?」
「あぁ、そうだな」




