女子校生の返事は即が基本
「いやぁ、PDってマジで便利だな」
ミルクの親父さんから送られてきたダンボールは全部PDの中に運んだ。
お陰で広々としていた一階層の玄関口がダンボールでいっぱいになっていた。
「PDは倉庫じゃないのです」
ダンポンが文句を言うけれど、他に置き場所が無いから仕方ない。
レンタルガレージを利用するって案もあったんだけど、さすがに勿体ない。
「どうせなら、タイラのインベントリに入れたらいいのです」
「無理だ。Dコインと魔石以外、インベントリには同じものが99個までしか入らないからな。ダンポンだって知ってるだろ?」
石舞台ダンジョンに行く前に、50キログラム以上のドロップ品を持って地上に戻るというミッションを達成して開いたD缶の中に入っていたのはスキル玉だった。
そして、それを舐めて覚えたのがインベントリ――所謂無限収納とかアイテムボックスとかいうやつだ。
これが便利なのは、周囲5メートル以内の落ちているものを触れなくても収納できるという点にある。
しかも、設定したら意識しなくても収納可能。
なので、落ちているドロップ品は自動収納することも可能。
わざわざ一個一個拾わなくてもよくなった。
欠点があるとすれば、初めて拾うものについては、自分で拾わないといけないとこ。
インベントリは目録という意味である。
既に項目があるアイテムを拾うときは数字を変えるだけでいいが、初めてのアイテムは目録を追加する作業が必要だからだとダンポンが説明してくれた。
また、ダンジョンで作られたもの以外は収納できない。
水や食料を含めて。
そのため、荷物を入れるリュックサックはやっぱり必要になっている。
「さて、仕分け始めるか」
ダンボール300箱のD缶。1箱には約50個の缶が入っている。
つまり、全部で約15000個。
これの仕分けは一日がかりの作業になるな。
ってことで仕分けを開始する。
以前は今すぐ開けられるもの、時間をかければ開けられるもの、暫く開けられないものの三種類に分類した。
今回は開ける難易度を四段階に分けて、難易度では分別できないその他の五種類に分類しようと思う。
具体的な例を出そう。
レベル1
【三回擦って床に置く】
【この缶を持っている状態で10万D換金する】
【虫眼鏡で光を集めて浴びせる】
【詳細鑑定で調べる】(開封済み)
【ダンポンに開けてもらう】
レベル2
【この缶を腰に下げて、フルマラソンを完走する】
【100年経過(残り98年11ヵ月15日21時間19分32秒)】
【誕生日にこの缶をプレゼントしてもらう】
【48時間起きた状態でこのD缶を持ち続けている】
【高度4000メートル以上の場所に持っていく】
レベル3
【100カ所以上のダンジョンに入る(現在68カ所)】
【西表島ダンジョン33階層の祭壇に供える】
【複数の女性に結婚を迫られる】
【ポ〇モン緑、赤で150匹を自力で揃える】
【ダンジョンの50階層に持っていく】
レベル4
【換金ランキング世界10位以内になる】
【スキルを1000個覚える】
【レア缶のため開封条件無し】
【激レア缶のため開封条件無し】
その他
【ダンジョンを一つ破壊する】
【愚者の石を缶の上に置く】
【クエスト:エルフの賄い飯をクリア】
【魔物をテイムする】
【ダンジョン神となる】
てな感じだ。
レベル3は面倒過ぎるもの。
レベル4は実質不可能。
その他は、そもそも意味がわからない。
ダンジョンの破壊が可能なのかもわからないし、愚者の石ってアイテムも知らない。
それにクエストってなんだ? エルフって本当にいるのか?
モンスターのテイムは不可能だって言われているし、ダンジョン神って本当にわからん。
100年経経過ってのも実質不可能かと思ったけれど、よく考えればPDに置いておけば俺がPDに入っていない間に勝手に時間が経過して、数カ月で開きそうだ。
何度か仮眠をとりつつ、何とか仕分けを終わらせる。
今すぐ開けられそうな缶は全部で3215缶。(うち7缶は仕分け中にふとした拍子に開いてしまった)。
それでも時間がかかりそうだ。
ただ、レア缶と激レア缶ってなんなのだろう?
開封条件無しって出てるんだが。
「それは魔法の缶切りを使うのですよ。どんなD缶でも開けることができる使い捨ての缶切りなのです。ダンジョンの中で極まれに見つかるのです」
「そういうことか」
あとでわかったことだが、この魔法の缶切り、非常に値段が高い。
なんと一個1000万円以上する上に、滅多に出回らない。
それだけ珍しいアイテムなのだろう。
お金に余裕ができて、その時、ネットに出回っていたら買うとしよう。
そして、今すぐ開けられるD缶。
全部開けてしまおうと思ったが、全部開けるには時間がかかるし、なにより楽しみが無くなってしまう。
なので今日は仕分け中に勝手に開いたものだけで我慢しておこう。
それでも面白いものが色々入っていた。
【変身ヒーローの仮面:仮面をつけていると正体がバレなくなる魔道具】
目の部分だけを隠す仮面で他はバレバレなんだが、魔道具というから効果はあるのだろう。
価格は不明。
ネットに出回っていないからだ。いろいろと悪用できそうだし。
【魔導士の杖:魔力を向上させる杖】
D缶より小さなものしか出ないって書いてあったのに、なんかそれより大きいものが出た。
地獄の業火の威力がさらに上昇するってなると、ますます近くで魔法が使えなくなる。
使い処は結構悩むな。
販売価格は10万円らしい。
【英雄の霊薬:どのような大怪我でもたちどころに治療してしまう薬。死人には効果がない】
これが一番の当たりだと思う。
売値を調べたところ、時価としか書かれていない。
そして、スキル玉が一つ。
それを舐めたところ覚えたスキルが、“怪力”という攻撃が一割上昇するパッシブスキルだ。
普通のスキルも覚えるんだなと少し安心した。
半分以上当たりなのも、幸運値のお陰だろうか?
ちなみに、ハズレの缶の中にはマシュマロと乾パンと水筒が入っていた。
水筒は普段使いできそうだ。
水筒と魔導士の杖は缶よりも大きなサイズなんだけど、缶が開くと同時に外に飛び出していた。
「ダンポン、気分転換にダンジョンに潜るけど、三階層まで石舞台ダンジョン、四階層と五階層は万博公園ダンジョンってできる?」
「可能なのですよ。あと、石舞台ダンジョンは七階層まで入れるのです」
「え?」
「タイラさんは余裕でバイトウルフを倒していたので、七階層までならいいだろうって石舞台ダンジョンを管理してくれている仲間から許可を貰ったのです」
「本当にっ!? だったら万博公園ダンジョンはイビルオーガのいる階層までいけるのか!?」
「それは無理なのです。あの時のタイラさんは獄炎魔法の一芸でイビルオーガを倒してましたけど、あの魔法は一度使ったら暫く使えなくなる大技。複数のイビルオーガを相手にするにはまだ弱いってことで五階層までしか追加できないのです」
「そっか。まぁそうだよな。だったら、七階層まで石舞台ダンジョンで頼む」
ということで、石舞台ダンジョンをコピーした階層に。
一階層はやっぱりスライム。
面白くないので素通り。
二階層は歩きキノコとハニワ人形。
このハニワ人形、これまでと違って結構面白い魔物だ。
何が面白いかっていうと、形がバラバラなんだ。
馬だったり兵士だったり、ムンクの叫びみたいなのだったり。
頭を目掛けて飛び掛かってくるのでもしも当たったら痛そうなんだけど、それを受け止めて壁に放り投げるのがストレス解消になって気持ちいい。
パリーンっ! ていう音が爽快だ。
ちなみに、ハニワ人形のドロップ品は翡翠の勾玉。
だいたい2体に1個くらいの確率で落ちる。
魔除けの効果があるらしい。
とりあえず100匹のハニワ人形を投げて割ってちょうど50個の勾玉を手に入れた。
もちろん歩き茸からは毎回キノコが出た。
キノコがインベントリに入りきらなくなったので、三階層に移動する。
三階層はコボルトと黒スライム、そして張り付きリザード。
リザードマンと違って大きなトカゲなのだが、怖いのは壁や天井に張り付いているところ。
そして飛び掛かって来る。
気配探知があって気付いていても怖い。
面白味のない階層なので、さっさと四階層に行く。
そういや、ここの四階層って何が出るんだっけ?
三階層までしか入れないと思ったから、三階層までの情報しか調べてこなかったんだよな。
そう思って歩いていると――半透明の幽霊のようなものがこっちに近付いてきた。
「よりによってゴーストかよっ!」
俺は逃げた。
ゴーストには物理攻撃が効かないからだ。
逃げた先にまたゴーストが。
なんだこれ、ゴーストってこんなたくさん出るものじゃないだろ――安全マージン的にも……って、このダンジョン、魔物の出現量を五倍に設定してるんだった!
逃げ続けるうちに、さらにゴーストの数は増えていく。
ゴーストは触れた相手の生気を奪い取るドレインタッチというスキルを使う。
あの数のゴースト全員にドレインタッチされたらヤバイぞ。
俺は三階層に続く階段まで逃げて、そして――
「地獄の業火!」
追ってきていたゴーストを一網打尽にした。
落ちたのは霊珠という石で、勾玉と同じようにアクセサリーなどに加工して使うらしい。
魔力が尽きたので同じ手は使えない。
魔法の武器とか低コストの魔法とかがないと突破は難しいだろうな。
PDから出て、そのまま風呂に行く。
すっきりした所でスマホを確認すると不在着信とメッセージが一通ずつ。
不在着信はミルクから、メッセージは東さんからだった。
まずはミルクに電話する。
ワンコールの途中でミルクが出た。
まさかスマホの前で待機してたなんてことはないよな?
『夜遅くにごめんね』
「夜遅く? ああ、いま夜の十時か」
『もしかして寝てた?』
「いや。ちょっと作業に没頭してて時間の感覚がなかっただけだ。それより、大丈夫か?」
『全然平気だよ。カウンセリングでも問題なかったし。パパは大袈裟なんだから』
「それだけミルクのことが心配なんだよ」
『わかってるんだけどね……あ、それで約束してた焼肉だけど、今度の日曜日どうかな?』
「あぁ、今度の日曜日……友だちとダンジョンに行く約束してるんだよなぁ」
『そうなんだ。じゃあ……』
「ミルクも一緒に来るか? そのダンジョンの帰りにでも焼肉を奢ってくれよ」
『え?』
「その友だちも、俺みたいな男と二人きりより、同じ年くらいの女の子と一緒の方が気が楽かなって思ってさ」
俺がそう言う。
するとミルクが急に黙った。
あれ?
電波の調子が悪いのか?
『…………泰良。その友達って女の子なの?』
「そうだぞ」
『だったら私も行く』
なるほど、知らない男と一緒に行くのは嫌だけど、女の子だったら友だちになれるかもって思ったわけか。
「じゃあ、一応相手にも許可取っておく。でもその友だちもレベル高いから中では一緒に行動できないかも」
『大丈夫。バイトウルフを倒したときにレベル10まで上がって、パパのギルドの正会員になったから。泰良、昨日聞いたんでしょ? まだ法律は決まってないけれど、安全マージンの緩和は受けられるから、五階層までなら入れる』
「そ、そうか」
なんかいつにもなくやる気だな。
詳しい待ち合わせの時刻を決めて一度電話を切った。
そして、東さんからのメッセージを確認する。
日曜日の待ち合わせ場所の確認と、手作りのお弁当を俺の分まで作ったっていう連絡だった。
この前お昼ご飯を奢ったお礼だろうか?
気を使わせてわるいな。
お礼のメッセージを送ると、即座に「どういたしまして。楽しみにしています」と返事が来た。
ミルクといい、東さんといい、女子校生って即着信、即返信が基本なのか?
そして、「一緒にダンジョンに行きたいって友だちもいるんだけど誘っていいか?」って質問をしたら、返事が来なかった。
さっきは一瞬で返事が来たのに。
そして――十五分後に「壱野さんのお友達なら大歓迎です」とようやく返信が。
もしかして、お風呂に入っていたのだろうか?
その後、石舞台ダンジョンの情報を確認する。
ゴーストの対処法が書いてあった。
ゴーストは勾玉を投げたら倒すことができる。
一度投げると勾玉は割れてしまうので、複数の勾玉を用意しようって書いてあった。
そんな簡単な攻略法があったとは。
やっぱり情報は大事だな。
日曜日に行くダンジョンの情報も調べておこう。
次回、修羅場?
ローファンタジー週間第一位まであとわずか!
「面白かった」「次回も楽しみ」「鈍感主人公に天誅を」という方がいらっしゃいましたら、
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(第四話のD缶の設定、少し変更しています)




