質問箱
俺と青木は3階層で戦っていた。
青木は剣を使って、ゴブリンリーダーを倒した。
「どうだ? 強いだろ、この剣。レーヴァテインモデルの最新型だぞ?」
「あぁ、強い強い。ところで、レーヴァテインってどういう剣なんだ?」
「知らないけど、なんか有名な剣だろ」
青木が笑って言う。
自分の使ってる武器の由来くらい調べておけよ。
俺でも、一応調べてるぞ。
[あおきゅんの笑顔かわいい]
[レーヴァテインは北欧神話に登場する伝説の剣。巨人スルトが使ってたって伝承がある]
[まぁ、レーヴァテインをイメージしてるってだけで、ただの剣だから意味はないよ]
[青木くんの配信アーカイブ見てきた。女装した青木くんめっちゃかわいい]
[俺も見てきた。これで付いていなかったらな……]
[男の娘に付いてなかったらただのかわいいだけの女の子じゃないか]
なんかいつもと層が違うな。
あと、青木のファンが結構配信を見に来ている。
「よし、壱野、そっちに行ったぞ」
「あいよ。ほいっと」
俺は布都斯魂剣でゴブリンリーダーを一刀両断にする。
ゴブリンリーダーって、全部単体で出てくるんだよな。
リーダーばっかりで従える部下がいないから、纏まりが全然取れていないのか。
ゴブリンリーダーが落とした赤いバンダナを拾う。
「なんか地味だな。もっとリスナーの期待に応えるのはどうだ? ほら、配信見てたけど壱野、影を纏ったりできるんだろ? あれカッコいいなって思ってたんだ。やらないのか?」
「いや、ここら辺雑魚ばっかりだしやる必要ないだろ。あれやると、素手で敵を倒すことになるから、ゴブリンみたいな敵を倒すときの感触が少し嫌なんだよ」
「そういや前に椅子に座った時に――」
「あぁ、それを言うな! それ言ったらアウトだかんなっ!」
「わかったって。言わないって。お前が尻で椅子の上のデカイ蜘蛛を潰してガチ泣きしたことなんて」
「言うなって言っただろ! 小学生の時の話だろうが!」
と俺が青木のほっぺをひっぱると、
〔何見せられてるんだ?〕
〔青きゅんめっちゃ活き活きしてて、喜ぶべきか悲しむべきか〕
〔もう結婚しろよ〕
なんか夫婦漫才扱いされていた。
「いや、俺たちノンケだから! なぁ、壱野」
「ああ。青木は男だしな。もう、さっさと行くぞ」
なんかやりにくいな。
配信にするんじゃなかった。
そんなこんなでやってきた5階層。
ここに薬仙人って魔物がいるらしいのだが――
「あれが薬仙人か? 俺にはただのカエルにしか見えないんだが」
二本足で立っているカエルが大きな壺を持っている。
〔薬仙人は通称。正式名称はドラッグトード。通常ドロップのガマの油はポーションの素材として買い取られる〕
〔でも、狙いはレアの方だろ。ドラッグトードは極まれにいろんな薬の素材になる丸薬を落とす〕
〔といっても、最低幸運値80で確率0.1%くらいだから滅多にお目にかかることはできないけれど――〕
「って逃げるなっ!」
薬仙人が逃げ出した。
二本足で必死な様子で。
〔ドラッグトードはサポート型の魔物だから、一匹だと逃げ出す。逃げ出した先に魔物がいるから注意……は必要ないか。ベータさんだし〕
コメントの通り、逃げた先には巨大なカエルが。
「ガマ親分だな。一応伸びて来る舌に気を付けろよ」
「うん……じゃあ、火の矢」
舌を伸ばされる前にガマ親分を撃破。
回復薬を使う間もなく即死して、魔石とDコインを落とした。
ドラッグトードは逃げ出したが、直ぐに追いつき、
「悪いな」
と剣で叩き斬った。
落ちたのは、ガマの油の入った小さい壺と、そして――
【カエル経験薬:カエル印の丸薬。飲むと経験値を入手できる】
おぉ、あったあった。
いきなり狙ってた丸薬が出たな。
これを元に経験値薬ができるわけか。
と俺が喜んでいると、青木がジト目でこちらを見て、
〔知ってた〕
とリスナーが彼の気持ちを代弁するのだった。
その後はインベントリの自動収納機能を使って、幸運値を適当に誤魔化しながら戦う。
一応、ビギナーズラックってことで片付けてくれるだろう。
「壱野。そろそろリスナーも飽きてくるだろうし、質問箱やっとこうぜ」
「質問箱?」
「要するにマシュマロだな」
Q&Aコーナーはたまにやってたが、質問箱は初めてだな。
ていうか、できるのか?
「サポーターがいるならできるだろ? できますよね?」
〔サポーター:可能です。いま設置しました〕
おぉ、明石さん優秀。
なるほど、匿名の質問箱なら、本来やりにくい質問とかもぶつけられるのか。
てことは、かなりヤバめの質問がくるんじゃないか?
明石さん、頼むぞ。
ちゃんとギリギリ答えられる質問にしてくれ。
ミルク、アヤメ、姫のうち誰を一番愛しているのか? なんて今後の関係に亀裂が走る質問は御免だぞ。
〔サポーター:二人の今期の深夜アニメでお勧めはなんですか?〕
……なんというか、普通の質問だった。
「今期って7月からのアニメか? 4月からダンジョンに潜る日課で深夜アニメは観てないんだよな。青木は?」
「俺は一通り見てるぞ。一番のお勧めは、鹿だな」
「鹿?」
奈良公園だから?
答えになっていないと思う。
何の冗談だって思ったら、
〔さすが青きゅん。流行を抑えてる〕
〔鹿は神アニメ〕
なんかめっちゃ共感されてた。
本当に鹿ってアニメがあるのだろうか?
「どんなアニメなんだ?」
「そうだな。PVだと、音楽に合わせて女の子が踊ってて、それを鹿がじっと見ているだけの映像が一時間くらい流れてた」
「マジか……どんなアニメか全然想像できない」
マジかよ、そんなアニメ流行ってるの?
今度見てみよう。
「だが、本編とは全く関係ない」
「関係ないのかよ!」
もしかして、全員で俺を嵌めようとしているんじゃないだろうか?
〔サポーター:ベータさんと青きゅんがとても仲良さそうに見えるんですけど、どういう関係なんですか?〕
ん? あぁ、そういえば言ってなかったっけ。
「俺と青木、それとミルクは幼稚園からの幼馴染だよ」
「それ、言ってよかったのか?」
「ミルクには許可貰ってる」
青木に話したことを伝えたところ、
〔デルタちゃんも幼馴染だったのか〕
〔両手に花とはうらやまけしからん〕
〔てことは、デルタちゃんと青きゅんもこんな感じで仲いいの? それは百合なの? それとも通常なの?〕
リスナーはとても楽しそうだった。
〔サポート:ベータさんは青木くんを女の子として見たことはありますか? 正直、私がベータさんの立場だったら性癖が崩壊して、「あれ? もしかして青木くんって、青木ちゃんじゃないの? 性別ってなに? ただ××××がついてるかついていないかだけの話じゃないの?」って考えてしまうと思います。というか、もう××××がついてる女の子ってことでいいですよね?〕
との質問だ。
ていうか、これは質問なのか?
匿名であることを利用――いや、悪用した性癖の暴露だと思う。
「あぁ、後半は無視するとして、俺を女の子と扱ったことがあるかどうかって質問だな。いや、前半も酷い質問だな」
青木が悪態をつく。
まぁ、酷い質問だけど、ちゃんと答えよう。
「青木を女の子として思ったことは一度もないな。だって、青木だし」
女の子みたいな見た目をしているとか、女装が似合いそうだとか思ったことは星の数ほどあるけれど、女の子として見たことは一度もない。
仮に性転換の薬なんてものがこの世にあって、青木の体が女の子になったとしても、俺の中で青木は男の青木で変わらない。
「こいつは行動力が神がかってて、思い立ったらすぐ行動ができる凄い奴だしな。カッコいいところもあるし、困ってる奴がいたら絶対手を差し伸べてくれるし、もしも青木が女だったら、俺の男としての立場がないって思うよ」
「壱野……お前……」
「あと、子どもの頃からダンボールの中に入って『俺がガ〇ダムだ』とか言って学校に登校してきたのを知ってるからな。そんな奴女として見れないよ」
「それを暴露するなよ! 視聴者何人いると思ってるんだよっ!」
青木が怒ってぽかぽか殴るフリをしてくるが、さっきの仕返しだ。
全国民の前で恥を晒すがいい。
と横目でリスナーの反応を見ると、
〔……尊い〕
〔こんなBLも世の中にはあったのか〕
〔もう結婚しろよ〕
何故かまたもこんな風に反応が。
いや、話聞いてた?
普通の男友達の姿だろ、これって?
全然尊くねぇよな?




