壱野泰良レベル100
結論から言うと、式神は強かった。
そもそも、式神というのは術者の手足のようなもの。アヤメと一緒にPDの中に入ることもできるし、そのステータスはアヤメのレベルに依存するらしい。
現在、ブロンズリザードマンを風魔法で軽く倒していた。
「身体能力は前世には劣るが、妖術の方は問題なかろう」
式神はそう言う。
欠点があるとすれば、こいつが怪我をした場合、ポーション等で治せないということだが、死んでしまったとしても、その時は壊れたヤツデの葉に戻ってしまうだけで、Dコインを使ってダンポンの修理サービスを利用すれば再度召喚できるらしい。
「この調子なら使えそうだが、配信に出してもいいと思うか?」
「どうなんでしょう? 式神の姿とか声って、カメラとかスマホで録画とか録音とかできないんですが……配信クリスタルでは可能なんでしょうか?」
へぇ、式神って撮影できないのか。
まぁ、撮影できるっていうのなら、どっかのバイトテロ陰陽師が「式神と記念撮影」とか言ってSNSに写真をアップしているだろう。
そういう写真が出回っていないってことはつまり撮影できないってことだ。っていうのは流石に決めつけ過ぎか。
「うむ。あのダンジョンにもあった配信用の水晶じゃな。あれならば式神である拙者の姿を映すことも可能であるぞ」
「ユニークスキルだって誤魔化せばいいんじゃない? 私の分身みたいなものよ」
そっか、深く考えなくてもいいんだった。
確かにユニークスキルだって言えばなんでもありだもんな。
「じゃあ、レベル上げに戻るか。俺は24階層に行って来るよ。アヤメはどうする?」
24階層にいるのはメタルスライムだ。
俺はラッキーパンチのお陰で毎回クリティカルが出るから余裕で倒せるのだが、姫とミルクは倒せない。
ただし、アヤメはスライムデスを使うことで倒すことができる。
「いえ、スライムデスは魔力の消費が少しきついですし、式神の力を試したいのでここで戦います」
「そっか。じゃあ、3時間後」
PDの中だと時間の感覚が狂うから、ちゃんと予定を決めて行動をする。
3時間後、22階層の入り口で合流する約束をして、ひとまず22階層から23階層に。
PDの23階層はただの小部屋。祭壇もなにもない。
ここを通過し、さらに24階層に。
早速ベルトコンベアからメタルスライムが運ばれてきた。
「影獣化!」
影を身体に纏う。
メタルスライム相手なら、剣を使うよりこっちの方が効率がいい。
影獣化中は全てのアイテムの恩恵、たとえば成長の指輪による経験値アップの恩恵が受けられなくなるが、それは予めアヤメに渡しているので問題ない。
むしろ、走る速度が数割増しになるので、倒せる数が2割以上増えるからこっちの方が得だ。
一人で、こうしてメタルスライムだけをひたすら狩っていると、最初にPDを手に入れた時を思い出す。
あの時も、こうやって一人でスライムばっかり狩っていたな。
一日の目標は宝箱一個出るまで! とか言って。
あの時は俊敏値も低く、500匹狩るのに結構な時間が必要だったが、いまなら3時間あれば1000匹は余裕か?
よし、じゃあ宝箱が2個出るまで頑張って見るか。
ということで宝箱2個出してみた。
中身は蛇の模様の金属製のコップと経験値薬。
この経験値薬は俺が現在作っている経験値薬の100倍。約10万の経験値が手に入る。売れば大金が手に入るだろうが、水野さん行きでいいだろ。
それよりも、蛇の模様の杯だ。
影獣化を解除した状態で手に取って詳細鑑定してみる。
蛇神に呪われているアヤメのことを考えると心証が悪いが、
【アスクレピオスのゴブレット:このゴブレットに薬を入れて飲むと、その効果を二倍に高めることができる】
おぉっ!
なんか凄い激レアアイテムだった。
うん、思ったより重いな。
ただ、ミルクの薬魔法での治療は飲むというよりかけるって感じだし、これも水野さんに渡して効率よく経験値薬を摂取してもらうのがいいだろう。
時計を見ると、そろそろ合流の時間だ。
PDの場合、25階層に行って転移陣で戻った方が早いんだけど、まだ25階層は解放されていないから約束通り22階層の階層入り口に向かう。
レベルは99のままだ。
もう少しって感じだな。
そう思っていたら、24階層の入り口付近でメタルスライムに襲われて返り討ちにする。
そして――
「ん? レベル上がった」
なんとなくそんな気がしてステータスを確認し、確信する。
俺はとうとうレベル100に到達したのだった。
そして――
「おぉっ!」
新しいスキルを見て、思わず驚愕の声を上げた。
それはユニークスキルではない。
むしろ、かなり有名なスキルである。
誰もが名前を知れども、実際に使える者は少ない――そういうスキルだ。
もしかしたら、PD生成の次くらいに嬉しいスキルかもしれない。
俺はそう思って、早速そのスキルを使ったのだった。
22階層に入り口で皆を待つ。
「泰良、いつの間に追い抜いてたの?」
姫が驚いた。
まぁ、普通なら24階層にいた俺が22階層の入り口にいたら、22階層で戦っているみんなとどこかですれ違っているだろうからな。
ちなみにアヤメの式神の姿はなかった。
戦いが終わったので、一度ヤツデの葉に戻したらしい。
てっきり、ペットみたいにずっと出しっぱなしにしていると思ったが、式神っていうのはそういうものらしい。
「んー、私たちも戦いに夢中になってたからね。でも、声くらい掛けてくれてもよかったのに」
とミルクが少しむくれたように言う。
「いや、まぁまぁ。それより、宝箱の中から面白いアイテムが出たんだ」
と俺はアスクレピオスのゴブレットについて説明をする。
この魔道具については、既に何度か発見報告があるので姫は知っていたようだ。
売れば数億円かになるそうだが、水野さんが使うという点においても納得してくれた。
彼女、最近レベルが上がりにくくなってるからな。
「で、泰良。さっきからなにニヤニヤしてるの?」
「ああ。レベル100になったんだ」
俺は笑いながら報告する。
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「おめでとう。ようやく三桁ね。どんなスキルを覚えたの?」
レベル100になると高確率でスキルが、しかも通常より珍しいスキルが生えることがある。
スキルを覚えていなかったら、こんなニヤニヤしていないだろうから、バレバレか。
「じゃあ使ってみる。アヤメ、ミルク」
俺はアヤメとミルクに手を差し出した。
彼女たちは何のことかわからないが、俺の手を握ってくれる。
「姫は俺の背中に触って」
「こうかしら?」
「うん。じゃあ――解放:迷宮転移」
魔法を唱えると、一瞬にして21階層の入り口に転移した。
「これは、転移魔法っ!?」
「ああ。ダンジョン内の好きな階層の入り口に転移できる魔法らしい。前に姫の親父さんが使っていた空間転移の下位互換だと思う」
魔法を発動させると、好きな階層の入り口に転移できる。
ただし、入ったことのある階層に限る。
消費する魔力は、(階層の差+1)×10。
例えば、1階層から5階層に転移するなら50、同じ階層の入り口に転移するなら10の魔力を消費する。
現在の最大魔力は370しかないので、決して乱発はできないのだが、ダンジョン内の移動が大幅に楽になる。
空間転移は階層の入り口ではなく、行ったことのある場所ならどこにでも転移ができるって話だし、なんならダンジョンの中から外に転移することもできるって聞いたので、俺も熟練度を上げて修得したい。
空間転移を使えば、他のダンジョンとPDを繋げた時に他のダンジョンからPD内に転移することもできるのだろうか?
そのあたりも気になる。
「私たちも泰良に遅れていられないわね。ミルク、アヤメ! まだ夏休みでしょ? 女だけのPD合宿をしない? 目指せ、三人そろってレベル100!」
「いいですね! やりましょう!」
「うん。泰良に負けてられないもんね」
え? 俺だけ仲間外れ?
それは少し寂しいんだが。




