三つの手がかり
そもそも終末の獣とは、生物ではないと西条は語った。
生物の目的が子孫を残すことにあるとすれば、終末の獣の目的は世界の終焉のみ。
一体、どこから生まれ、何のために世界を終わらせるのかは終末の獣たち本人にすらわかっていないのだろうと西条さんは語った。
「どうやって世界を滅ぼすんですか?」
「世界のエネルギーを食べるんだ。力の元をね」
「それってマントルのエネルギーとかですか? マグマの熱とかマントルとか?」
「いいや、そういう物理的な話じゃないよ。むしろ魔力的なものかな? それも少し違う気がする。ホワイトは力の根源って呼んでいた」
「力の根源……」
俺はそう言われて、Dコインを思い出した。
Dコイン――これはミコトが言うには、このDコインはDimension Coinの略で、別の次元の力の元らしい。
別次元――これって一体、どこの次元の力なんだ?
もしかして、エルフの世界の力なんじゃ。
ミコトは知っているのだろうか?
と俺は周囲を見る。
監視カメラがあるな。
ここでミコトに出てきてもらうのは無理か。
「終末の獣はその力の根源を食べて体内に溜め込む。力を失った世界は徐々にその活動が遅くなり、やがて世界の時が止まってしまう。それが世界の滅びらしい」
「……ん。だからトゥーナたちエルフは終末の獣と戦った。倒せば体内のエネルギーを解放できる」
「そうなのか。だったら、俺たちがホワイトを倒したことで少しは進展があったのか?」
「いや、ホワイトはただの終末の獣の端末に過ぎない。終末の獣を人間に例えるなら、髪の毛一本切った程度だから、本体には影響はないよ」
あれで髪の毛一本なのか。
なんとも恐ろしい話だな。
「……質問。終末の獣はトゥーナを殺したらどうするって言ってた?」
「君を殺したら僕を解放するつもりだったみたいだね」
「その後は?」
「――あぁ、そうか。トゥーナさんの言いたいことがわかったよ。」
西条はトゥーナの言いたいことがわかったようだが、俺には全然わからない。
何を言いたいんだ?
二人だけでわかりあわないでほしい。
「壱野くん。要するに、ほうれんそうだよ」
「ほうれんそう? おひたしにでもするんですか?」
「そうじゃなくて、報告、連絡、相談だ」
はぁ……そっちのほうれんそうですか。
うん、そのくらいは知っている。
でも、この場合どういう意味かはわからない。
「ホワイトはいわば終末の獣の末端だ。本体から指示を受けてトゥーナを殺すためにこの世界に来た。それはわかるね?」
「はい。世界が滅んだときの力の奔流に乗ってこの世界に来たトゥーナと同じ方法で――ですかね?」
「そうだろうね。ここで、君が終末の獣の本体だったら、それで全て解決したと手放しで喜ぶと思うかい? いや、終末の獣に喜ぶという概念はないのかもしれないが――本来だったら必要になるはずだ。仕事の完了の報告が――」
「――っ!?」
そうだよな。
終末の獣の目的がトゥーナを確実に殺すことであれば、末端を派遣して終わりってわけはないよな。
待っているはずだ。
派遣した末端からの報告を。
トゥーナを殺したという報告を。
「ホワイトは元の世界に戻る方法を知っていた?」
「その可能性が高い。今にして思えば妙だった。彼は執拗にある場所に行っていた」
「ある場所?」
「23階層にある祭壇だよ。日本中の祭壇をまわったね」
祭壇か。
そういえば、ホワイトはなんでわざわざトゥーナを祭壇に連れて行って殺そうとしたんだ?
殺すだけなら道中の砂漠で、戦闘のどさくさに紛れて殺すことだってできたはずだし、それ以前にダンジョンの外で殺すこともできたはずだ。
移動中の車の中で石化ブレスを使われたらミコトであっても割って入ることが難しかったかもしれない。
わざわざ祭壇に移動した理由は?
「もしかして、祭壇に異世界に行く手がかりがあるのか?」
祭壇に納めたD缶の中から、異世界の勇者の品が出てきた。
ダンポンが死んだときに現れた卵は、祭壇に納めることで力の流れへと還っていった。
そして、もう一つ。
「西条さんはホワイトに操られている間、D缶と魔法の缶切りを集めていましたよね? あれは何で集めていたんですか?」
「すまない。それはわからないんだ。ただ、家にはまだ何本か魔法の缶切りがあったはずだ」
あの三本が全てじゃなかったのか。
D缶、祭壇、魔法の缶切り。
もしかしたらこの三つが世界を移動する手がかりになるのかもしれない。
確か、祭壇に供えれば開くD缶がいくつかあったはずだ。
それを開けるか。
ただ、日本中にあるし、中には西表島とか小笠原諸島あたりのダンジョンの祭壇に供えろってD缶もあるからなぁ。
さすがにそこまで行くのは無理だぞ。
夏休みももうすぐ終わるし。
手伝ってくれる人で、さらに事情を知ってる人がいればなぁ。
西条さんとかどうだろう?
「西条さんはこれからどうなるんですか?」
「暫くはこの生活だね。ずっとホワイトに操られていたんだ。その後遺症がないか検査をしてくれるのはありがたいが、一日に十五回も採血をされるのはさすがに嫌だね」
彼は苦笑して言った。
その両腕には注射針の痕が残っている。
「あぁ……ポーションとかいります?」
「気持ちだけ貰っておくよ。薬の効果が血液に影響を及ぼして検査が長引くのは困るからね」
「そうですか……」
「申し訳ないと思うのは、僕が殺してしまった岩倉さんと、裏切ってしまったホワイトキーパーの皆だよ」
「それは西条さんが悪いわけじゃ……」
そうは言うが、心では納得できないだろうな。
「だからこそ、押野さんには感謝しているんだ」
「姫に?」
「聞いていないのかい? EPO法人ホワイトキーパーは解散することになって、君たち天下無双が職員の受け皿になってくれたんだよ?」
なにそれ、聞いてない。




