淡路島ダンジョン(その3)
青木は一人の名前を告げた。
「ベータ――」
バレたかと思った。
だが――
「――さん以上に探索者の素質があるんじゃないか?」
バレてなかった。
「ベータさんの幸運値は80くらいらしいんだけど、黄金の玉ねぎをドロップする最低幸運値は100以上なんだ。それがこうも簡単にドロップするって運がいいってレベルじゃないだろ? いや、運がいいんだけどさ」
「……まぁ、幸運値100超えてる」
俺はそう言った。
そういえば、ベータの幸運値は80くらいって設定になっていた。
架空設定のベータでも黄金の玉ねぎは簡単に手に入らないのか。
この黄金の玉ねぎを納品したら俺の幸運値が100以上だってバレてしまうが、まぁ、そっちは世間に公表しなかったら別に問題ないか。
「マジか! レベル10とか20で幸運値100ってすげぇな! 壱野は昔から運だけは良かったもんな。あ、このことは内緒にしておくから安心しろ! ていうか俺以外に言わない方がいいぞ。絶対悪用しようって奴が近付いてくるから」
青木が注意をする。
「じゃあ、次に行こうぜ」
「あ、あぁ」
青木はそれ以上は何も言わなかった。
ただ、純粋に玉ねぎ坊主を倒し続ける。そのたびにバカみたいなリアクションを取る。
俺が二個目の黄金の玉ねぎを手に入れたときは少し羨み、三個目の黄金の玉ねぎを手に入れたときは少し呆れていた。
「一個持って帰るか? 二人で戦ってるわけだし」
「いや、いらない。ネットで見たけど、黄金の玉ねぎって痩せ薬だろ? 俺はむしろ筋肉付けたいって思ってるから食べれない」
売れば結構な値段になるんだが。
そうだったな、こいつはこういう奴だ。
俺が運のいいことを知っていながら、その俺の運の良さにあやかろうとはしない。
あのダンポンですら、俺の運を利用してポ〇モンを捕まえたのに。
そっか、青木はそう言う奴だった。
「なぁ……」
俺は自然に口を開いた。
「もしも俺がチーム救世主のベータだって言ったらお前は信じるか?」
「まぁ、冗談だって思うだろうな」
青木は言った。
そりゃそうだよな。
自分で言うのもなんだが、チーム救世主と言ったら、今は日本中が注目している超有名人だ。
隣にいる普通の男子生徒がそのメンバーの一人だなんて思わない。
だが、青木はこう続ける。
「でも、今なら信じると思うよ。そんな真剣な顔で言われたらな」
「表情だけで信じるのか?」
「そりゃ信じるさ。ダチだから」
と青木はそう言った。
少し沈黙した後青木はあっけらかんとした口調で言った。
「まぁ、なんだ。先生の様子もおかしかったしな」
「確かに露骨だったよな。『壱野は無理して宿題しなくていいぞ』って」
「それに、京都ダンジョンに一緒にいた女性陣の髪の色とかそのまんまだし、今にして思えば疑わしいな。あれ? ってことは、あの時の合法ロリっ子がアルファちゃんだったのか。サインもらっておけばよか…………あっ」
青木が突然、頭を抱えて絶望の表情を浮かべる。
冷や汗もダラダラ流れ始めた。
一体どうしたんだ?
もしかして、何か問題でも――
「ということは、牧野がデルタちゃんなのかっ!?」
「あ……あぁ、そうだけど」
「俺、ネットでデルタちゃんの魔改造フィギュア購入したんだよ! あんなの購入してることがバレたら牧野に殺される」
魔改造フィギュアってなんだよ! 一体何を改造したんだっ!?
ていうか、このセリフ、配信用クリスタルからパソコンに送られて録画されてるはずなんだけど、大丈夫か?
「ていうか、俺に言ってよかったのか? 内緒だったんだろ?」
「いいよ。どうせ今度褒章とかもらう時にはテレビに顔出しするんだし」
「褒章貰うのか?」
「紫綬褒章らしいぞ」
「褒章って年金とかもらえるんだっけ? いくらくらいもらえるんだ?」
「いや、紫綬褒章は名誉だけらしい」
まぁ、顔出しするのは11月だから3カ月も先の話だ。
本当は青木もいろいろと聞いておきたいことがあったと思うが、それ以上は何も聞いてこなかった。
でも、どうせなら今度、家に呼ぶか。
トゥーナのことも紹介しよう。
こいつの驚く顔が見てみたい。
青木に俺の正体を打ち明けても、俺が思っている以上に俺たちの関係はそのまんまだった。
その後、青木と別れてヘリで大阪に戻った。
今回のダンジョンの内容は配信クリスタルを通じて姫のパソコンに送られているはずだから、青木に全部話したことバレバレだろうな。
そう思っていたら案の定――
「泰良、おつかれさま。黄金の玉ねぎ三個も手に入れたのね。さすがだわ」
と姫が俺を褒める。
「あぁ、それと今日、一緒にダンジョンに潜った奴がいてな」
「ええ、見てたわ。いいんじゃない?」
てっきり怒られる可能性も考えていたが、姫はあっけらかんとした口調で言った。
「ダディだって愛人が100人いるんだし、私たちのことを変わらずに愛してくれるのなら全然問題ないわよ」
「え? 何の話をしてるんだ?」
「この子も妻にするんでしょ? 泰良ってこういうボーイッシュな女の子も好みなのね」
と姫が見せたパソコンには、ベータのアバターと一緒に超絶美少女アバターが映っていた。
AIの自動画像生成システムが青木を女の子だと認識していた。
それを見て、俺は思わず腹の底から声を上げた。
「ち、違うんだ! 誤解だっ! そいつは男だ! 前に会った青木なんだよっ!」




