エリアボスとエルフの面会
エリアボスか。
とりあえずマザーブロンズゴブリンがいるはずの場所に行く。
そこに見たことのないマザーブロンズゴブリンとともに見知らぬ魔物がいた。
でっかい金色のゴブリンだ。
俺は魔物博士ではないので魔物の名前は詳しくない。
みんなも知らなかったそうだ。
名前をつけるとしたら、キングゴールドゴブリンだろうか?
いや、ゴールドゴブリンキングの方がいいかもしれない。
21階層では散々苦労させられたが、最後の最後にこれか。
「どうする? 琴瑟相和使う?」
ミルクが提案する。
「そうだな。エリアボスっていうくらいだし、タダの雑魚じゃないかもしれない。安全第一に使ってみるか」
「いつになく慎重で、いつになく無鉄砲ね」
姫がニヒルな笑みを浮かべる。
未知の敵に対して最初から琴瑟相和を使って戦う。
これは確かに慎重とも言える。
琴瑟相和は俺たちにとって切り札だ。これを使ってしまえば、その切り札を失う。
そう考えると確かに無鉄砲だ。
きっと、俺はあの時姫の分身を見殺しにしてしまったことを後悔しているのだろう。
「いいだろ。ボスを倒したら1階層に戻ればいいわけだし、琴瑟相和を使いきっても」
「そうね。ブロンズゴブリン湧きが止まったのなら、今日はこれまでにしてもいいわね」
ということで、琴瑟相和を使う。
姫が分身とともに突撃した。
通路の壁を、天井を伝っての三次元からの同時攻撃。
俺もそれに続いた。
「解放:雷撃っ!」
「解放:火薬精製、解放:熱石弾」
アヤメの魔法がマザーブロンズゴブリンを一撃で沈め、ミルクの銃弾がゴールドゴブリンキングの右腕を弾き飛ばした。
はっ!?
あれで腕が無くなるのか?
「疾風突き」
「朧突き」
「御頭突き」
「急所突き」
「乱れ突き」
五人の姫がそれぞれ短剣術の突きを加える。
そして、俺も剣術を使って攻撃しようとしたら――
「もう終わり……なのか?」
ゴールドゴブリンキングは俺の攻撃の前に死んでしまっていた。
「こんなものか? ボスって聞いたが呆気ないだろ」
「そりゃ、ステータス二倍よ? 余裕に決まってるわ。琴瑟相和を使えばブロンズゴブリン軍団相手にも苦労しなかったわよ」
そういえば、天狗相手にも琴瑟相和を使えば一方的な戦いになっていたしな。
落ちている魔金を拾って俺は頷いた。
やっぱり琴瑟相和は俺たちの切り札だわ。
※ ※ ※
次の日。
俺はてんしばダンジョンに向かった。
ミルクとアヤメも一緒だ。
今日は月曜日で、二人が通っている高校は進学校のため、2週間しか夏休みがないと聞いていたんだが、相変わらず特例を使って普通に合流している。
本来は登校日であるはずの土曜日も毎週休んでいるので今更という気がするが、今日は公休扱いになっているらしい。上松防衛大臣が手を回したのだろうか?
「泰良、エルフの女の子のことだけど……感謝されるとか思わない方がいいと思うよ」
移動中、ミルクが俺にそう注意をする。
「……ああ、それは俺も理解している」
ミルクの言うことは重々承知している。
彼女を勝手に引き渡したことは問題だが、あれだけ大勢に配信されていたのだから酷い扱いは受けないと思っていた。
上松大臣のことを信用していたというのもある。
それよりも彼女の封印を解いたことが一番の問題だ。
もしも現代の地球のどこかで絶滅しているはずの恐竜が一頭だけ生き返ったとき、その恐竜は幸せかどうか?
どれだけ地上を彷徨っても、大陸を渡っても、仲間の恐竜は絶対に見つからない。
永遠の孤独を味わうことになる。
彼女も同じだ。
エルフのいた世界は既に滅んでいる。
そんな孤独な現実を知ったとき、封印を解いた俺を恨んだとしてもおかしくはない。
「壱野さんが悪いわけじゃありません。そもそも、いつ封印が解けたとしても結果は同じだったわけですし、エルフの世界が滅んだのも壱野さんのせいじゃありません。壱野さんが怒られるのはお門違いです」
「ありがとう、アヤメ。ただ、もしもエルフの子が怒ったとしても受け入れようと思うんだ」
たとえ俺が封印を解かない結果が永遠の時間の封印だったとしても、現実を知るより遥かに楽だったのかもしれないのだから。
待ち合わせ場所はてんしばダンジョンだった。
周囲の立ち入りは禁止されている。
ただ、日下遊園地跡、生駒山上遊園地とこのような情報を遮断する目的のシートで覆われた現場を見てきた俺にとって、もはや日常の一部になりつつあるのがなんか悲しい。
表側にはマスコミたちが陣取っている。一昨日、昨日と何度もニュースで報道されているから驚いたりはしない――と思ったが、なんか海外のマスコミも大勢いる。
エルフが実在したなんてなったらそりゃ世界中のニュースになるだろう。
ネス湖でネッシーの捕獲に成功した以上の衝撃になったんだろう。
こんな状態だと裏側から入ってもすぐに見つかってしまうということで、合流予定の駐車場に向かい、そこから車で移動する。ちなみに姫は既に中に入っているらしい。
ロッカーにスマホ等ダンジョン内に持って入れない物を預けて、てんしばダンジョンの中に。
そこにいたのは、姫と上松大臣と数名の自衛官(生駒山上遊園地で見た覚えがある)、そしてエルフの少女だった。
彼女は何かを言うでもなく、じっとこちらを見ている。
その表情は怒っているのか喜んでいるのか全くわからない。無表情だ。
「お待たせしました」
俺は上松大臣の方を見る。
すると、大臣はエルフの少女の方を見て――
「先ほどお話した壱野泰良、牧野ミルク、東アヤメの三名です」
「……ん」
返事はそれだけだった。
無口系エルフなのか。
「彼女はエルフのルシャトゥーナ・ラミロア・マクル・ノ・ハンデルマス様――エルフの女王陛下だ。無礼のないように頼む」
覚えられません。
最初のルシャトゥーナのあたりから少し危ない。
せめて名札を付けてください。
って、エルフの女王!?
こんな小さな子なのに王女じゃなくて女王?
いや、王女だったとしたら、既に全てのエルフが死んだ以上彼女に王位が継承されているのか。
民無き王になるのだけれども。
「……話、いい?」
「はい。奥の部屋をご用意しました」
上松大臣が言って、俺たちをダンジョン奥のプライベートルームに案内する。
普段は職員の休憩室に使っている場所で、ダンポンがいるのはさらに奥らしいが、ここにはいない。
「ここなら盗聴の心配もないわよ、トゥーナ」
「……ん。一応、また盗聴防止魔法は掛けさせてもらう」
と彼女が言うと、なんか半透明の膜が広がって、俺たちを通過し、部屋全体を包み込んだ。
ここは既にダンジョン内なので盗聴器の持ち込みはできなくても、地獄耳のような聴覚強化スキルを持ってる人がいたら丸聞こえだもんな。
それよりも――
「姫、トゥーナって、エルフの女王様に失礼だろう」
俺が姫に耳打ちをする。
すると、姫は俺を見て、その心配はないと言った。
「それが大丈夫そうなの。彼女とはさっきも話をしたんだけどね」
「……ん。トゥーナ、本当は家族以外は呼んではいけない名前。でも、四人は特別」
「特別?」
「……そう。あなた様たちは救世主だから特別」
トゥーナはそう言って少し屈むと、俺の腹に顔をうずめるようにして抱き着いてきたのだった。
取材から帰ってきました。通常通り1日2回の更新に戻ります(次に忙しくなるまでの間)




