みんなでD缶を開けてみよう
水野さんが帰ってから暫くしてミルクとアヤメがやってきた。
「また凄い量だね」
D缶がたっぷり入った段ボールを見てミルクが言う。
「C国に出回ってるのをいっぱい買ったの。さすがに送料込みで結構かかったけど予算はたっぷりあったから。前回の探索でわかったでしょ? 私たちは強い。一体一体の敵を倒す力はある。でも、それだけじゃ21階層以降を乗り越えるのはできないの」
そうだよな。
マザーブロンズゴブリンも強さでいえば雑魚だった。犬神や猿神の方が遥かに強い。
だが、あんな苦戦を強いられたのは、俺たちに手数が少なかったからだ。
「ちなみに、姫。もう一度21階層を突破しようと思ったらどんな手を使う?」
「そうね。気配を一定時間消す薬があるから、それを購入してマザーブロンズゴブリンを倒すのが現実的ね」
雑魚は無視してボス狙い。
確かに妥当な方法だ。
ちなみに、気配を消す薬は一本500万円。
とある探索者パーティが独占的に製造し、ダンジョン局を通じて販売している。俺たちが捕獲玉を販売しているのと同じ感じだ。
逆に言えば、俺たちが気配を消すスキルを手に入れたら、そのような買い物をしなくても済むわけか。
「姫、これC国のD缶なんだよな? このD缶の開封条件、桜島ダンジョンの23階層にある祭壇に供えれば開くって書いてあるんだけど、なんでC国のD缶なのに日本のダンジョンの開封条件があるんだ?」
「そんなの私にわかるわけないでしょ」
姫が言う。
詳細鑑定で開封条件がわかるのは俺だけなんだから、開封条件に関する調査が進んでいるはずもなかった。
もしかして、開封条件は複数あって、その中で一番簡単な方法だけ、たとえば日本で詳細鑑定したら日本で可能な条件だけ表示されるのだろうか?
詳細鑑定のランクが上がれば、別の開封条件が見えるかもしれない。
そう思いながら、D缶をざっと見ていく。
「泰良、私たちに開けられそうなD缶ってある?」
「じゃあ、ミルクは――懐中電灯の光を10分間D缶に当ててくれ」
「うん、ちょっと家まで取ってくる!」
ミルクがPDから出ていった。
「姫は……ちょっと根気がいるけれど、暗証番号4桁を当てると開くらしい」
「それって泰良さんがやった方が早くないですか? 適当に言った四桁で一発で開きそうです」
「そんなわけないだろ。1461」
俺が適当に思いついた数字を言う。
これで開いたら――うん、開いたわ。
中から薬が出てきた。
「老化防止薬だってさ。飲むと四年間年をとらないらしい。飲むか?」
「いまの私は成長期だから飲むわけないでしょ。飲むなら15年後くらいだけど、売れば数百億円になるわよ?」
「そりゃ凄いけど、30億貰った時点でもうこれ以上お金があってもなぁ……でも、暗証番号と老化防止薬って何の関係があるんだ?」
「1461がちょうど4年分の日数だからじゃないですかね?」
アヤメが言う。
ん? 365日……2年で730だから4年だと……あれ? 1日多い……って、あぁ、閏年か。
じゃあ……
「あ、これとか姫向きじゃないか? 1時間以内に10階層まで行って戻ってくる」
「確かに私向けね。ちょっと走ってくるわ」
姫はD缶を持って走っていった。
10階層までなら危険はないだろう。
「アヤメは……円周率20桁を暗記ってあるぞ」
「ラーニングの時に100桁まで覚えましたね。3.141592653589793238462643……」
よく覚えてるな。
俺の場合、必要なくなったら直ぐに忘れてしまいそうだが……いや、そもそも最初から覚えられないが。
えっと、中身はこっちも薬か。
ただし、いままでのドリンクタイプと違って、錠剤タイプで、10錠くらい入っている。
……ってこれは――
「あぁ、アヤメ、悪い。これはちょっとまずい薬だ。封印させてもらう」
「そ、そうなんですか?」
「次はこっちを頼む。これを持って魔法を使ってスライムを50匹倒せばいいらしい」
「わかりました、行ってきますね!」
アヤメがD缶を持ってスライム退治に向かった。
危ない危ない……まさかD缶にこんなものが入っていたなんて。
【豊胸剤:1錠飲めば、バストサイズが1カップ大きくなる】
……これは誰にも見せられない。
胸というのは大きさではなくバランスなのだ。
決して大きければいいというものではない。
これは封印しておこう。
さて、俺も何か開けておくか。
【開封条件:コインを20枚投げて全部表を出す】
……これ、俺ならできるんじゃないか?
通常の確率で20枚全て表を出そうと思ったら、2の20乗の分の一だから……えっと、うん、かなり厳しい確率になるのは確かだ。
しかし、さっき一万分の一を一発で決めた俺の幸運を信じてみる。
Dコインは表にだけDの文字がある。
早速Dコインを20枚投げてみた。
……全部裏だった。
惜しい……のか?
逆にめっちゃ運が悪いんじゃないかと思ってしまう。
もう一度全部投げてみる。
全部表が出た。
感動もなにもあったものじゃない。
D缶が開く。
中から出てきたのは――
「水晶玉?」
占い師が使っていそうな水晶玉だ。
【導きの水晶玉:極まれに使用者に必要なものが映し出される】
へぇ、なんか凄そうなアイテムだな。
どれどれ?
水晶を覗き込む。
映っていたのは段ボールだった。
それを頼りにD缶を出す。
もう一度見てみると、どのD缶かはっきりわかった。
「この缶か……開封方法は……D缶を誰にも見つからない場所に隠す?」
ふむ、誰にも見つからない場所か。
えらく抽象的な開封方法だな。
どこかに入れるとか埋めるとか……あ、いや、簡単に隠せる場所があった。
インベントリに収納する。
これなら俺以外誰も見つけることができない。
これでどうだ?
D缶を取り出すと、ちゃんと開封されていた。
ふっ、頭脳の勝利だな。
中身はコートだった。
【隠形の衣:これを纏うと隠形状態になり周囲から気付かれなくなる】
おぉっ!
まさに俺たちが求めていた道具じゃないかっ!
導きの水晶玉、凄いなっ!
「泰良、戻ったわよ!」
と姫が一番に戻ってきた。
早いな。
さすが俊敏の尖端異常者だ。
「姫、聞いてくれ。D缶から凄いものが出たんだ」
「それは凄いわね。私のD缶からもスキル玉が出たわよ。あ、そっちもスキル玉が出たのね」
ん? いや、俺のところは水晶玉は出たけど、スキル玉は出ていないぞ?
と思っていたら、姫の視線の先には、さっきまで開いていなかったD缶が一つ開いていて、中にスキル玉が入っていた。
【開封条件:コインを20枚投げて全部裏を出す】
……あぁ、だから最初に全部裏が出たのか。




