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やばいな、なんか勢いで完全にやってしまったわ。
こんな酷いことする予定なんかなかったのに。
「人殺ししたったのか俺……いや、でもそれもこれも全部あのエセ神様が悪い。異世界やら転生やら訳の分からないことを言うだけ言って放置したあいつの責任だ!」
そうだ、こんな状況誰だって混乱するだろ。
当たり前のことだ。
だから俺は悪くない。そうだ、むしろ俺は被害者だ。俺の方に率先して謝ってくるべきだ。
「おーい! 神様! 聞いてるのか! 聞いてるんだったら俺に早く謝罪しにこい! 天からでもできるだろうそのくらい! 天の声ってやつでさ!」
俺は青空に向かい高らかに叫ぶ。
しかし全く反応はなかった。
「だめだなこりゃ。これはもう目にもの見せてやるしかないな」
仕方がない、もう俺は怒った。
ひとまずこの状況は受け入れよう。
異世界なんて何を馬鹿なという話だが、そんなこと言ってもいられない。
そんなことよりもだ。
「確かあの神は魔王を討伐しろとか言ってたよな?」
なるほど、それに対抗するために俺はこんなやばい感じの力を手に入れているのか。勇者とかも言ってたっけな。まぁともかく俺はかなりの力を手に入れてるというわけだ。
「はは、いいさ、やってやるよ。魔王を討伐するっていうのがあのじじいの望みだよな? ああ、じゃあその逆のことをやってやる。何もかもめちゃくちゃしてやるわ。もう俺の命を掛けてやってもいい。俺が本気を出したらどうなるかってのを見せてやる」
俺は生まれて始めて燃えているような気がした。
なんだ、こんな前向きな気持ち味わったことがない。
今まで何に対しても無気力だった。
自堕落な生活を送ってきた。
でも目的が定まった瞬間、今の自分を正しく認識できたというか、自分が今を生きてるって感覚がすごくする。やればできる、それを証明してやるよ。俺の本気を見せてやるよ。
「よーし、そうと決まれば暴れ回ってやりますよ」
俺はまず何ができるかを考えた。
ひとまずジャンプしてみる。
ばしゅんと跳ね上がり、軽く百メートル以上はジャンプできた。
こりゃすごい!
そして地面に着地する。うん、痛くない。すごく身軽だ。やはり身体能力は最強らしい。
「火炎ボール!」
俺はなにか特殊な力を使える気がして、手を差し出してみる。さっきもビームのようなものを放てたのだ、それ以外のこともできたって不思議じゃない。
俺が発した言葉に呼応するように、手のひらに巨大な炎の塊が生じ、それが一瞬にして前方へとすっとんでいった。かか、やっぱりすごい、すごい威力だ。マグマだなまるで。これはマジでいける。
「要するに何だってできるってことだよね。じゃあもう早速どこかの街に行ってみようかな」
と思ったが、そういえばここがどこかがわからない。
どこなのだろうか、なんか女の子が一人来たってことは、他にも近くに人間がいるのかな。
俺はできるか分からなかったが、近くの気配を探ってみた。
おお、感じる。心臓の音、とくんとくん、息遣いが耳に伝わる。
「こっちにいるな」
確信した俺はそちらの方に移動した。
俺がいた場所から二百メートルくらいの場所に、四、五人のグループを見つけた。
森の中を何やら話しながら歩いている。皮の鎧を着ていて、全員男のようだ。
「おーい、おまえたちー」
俺は話しかけてみた。
「ああん、なんだびっくりしたな」
「なんだ?」
男たちは一斉にこちらをみた。
「申し訳ないんですが、道を聞きたくて。近くに街なんかはありませんか? 探してるんです」
「街? それなら近くにリーコの街があるが……」
「どっちの方面ですか?」
「あっちだ」
指を指して教えてくれた。
ああ、ありがたい。
「すみません、ありがとうございました。あと僕お金とか全然もってないんで、持っているもの全部よこしていただけませんか?」
「ああん? 何いってんだ?」
明らかに怪訝な顔になる男たち。
「いただけないというのなら、こうです」
俺は適当な一人を殴った。
顔面が陥没し、顔から血を撒き散らしながらそいつは倒れた。
「は?」
呆然とする男たち。
はは、まぁそうなるわな。でもすごいだろ、俺のパンチ、めちゃくちゃ早かっただろ?
「さぁ、あるものすべて置いていくんだ」
「な、なんだッ!」
「くそっ!」
事態を察した男たちが、距離をとり武器を構える。
なんだよ、察しが悪いな。意味がわからないよ。
「そんなことしても無駄なのになぁ。ああ、ネタばらしすると、君たちがアイテムを差し出す差し出さないに関わらず君たちは皆殺しになる。俺がそうするって決めてるからね」
俺がそう発言すると、男たちはギッ、とさらに強く力を入れた。
はぁ、もういいや。
「これも演出だからね、本当はお金とかあんまりいらないというか」
俺はサイコキネシスを放った。
ようするに念動力だ。
男たちは全員ふわふわと持ち上がり、俺が操作を加えると、雑巾のようにひねくれ、ぶしゅっと絞られた。
能力を解除すると、人間かどうかわからなくなったものが、ぼとりと地面に落ちた。
「うーわ、ぐっろ、ガチで気持ち悪いもんみせんじゃねぇよ。ガチで吐き気するわ。本当に死んでくれて助かったわ。もうまじで不愉快」
俺は最悪な気分になったが、まぁ俺の力を試すいい機会になったということで一つ満足しておこう。
そして街の場所を掴んだ俺は、舞空術で空を飛び、さきほど指さされた方向へ飛んでいった。




