15
地下に降りると一人の少女がいた。
割りと厳重そうな扉の向こうで、鎖にガチガチに繋がれていたのだ。
「……あら、お客さんとは珍しいわね」
少女は疲弊しきった顔でこちらを見て言ってきた。
いや疲れているというよりは汚れているだけなのかもしれない。
「……誰だ」
俺はポツリと尋ねた。
少女は藍色の髪に中国っぽい感じの衣服を着ている。顔はキリッとしていてかなり美人だ。
「ふん、知ってて来たわけじゃないの? そうでもなきゃこんな場所見つけられないでしょうに」
「だから誰だって聞いてるんだ」
「答えてやるものですか。悔しかったら殺してごらんなさい。この国の平穏がどうなってもいいのならね」
「誰だって、言ってるだろおおおおおおおおお!!」
俺は放射能光線を放った。
当然鎖に繋がれた少女に逃げるすべはなく、そのまま焼け焦げて消し飛んでしまった。
俺の推察が正しければこれでバリアは解けたはずだ。
俺は再び上空へと戻り、放射能光線を連発してみた。
すでにボロボロとなっていた城がさらに燃えて倒壊し始める。
ああ、やっぱり。バリアが解けてる。さっきまでと違って攻撃が通じる。やはり姫様が言っていたことは正しかったんだ。多分あいつが結界を張っていたのだろう。
「原子爆弾くそしねぇ!」
俺は原爆を投下した。
ものすごい閃光が周囲を包み込む。正直生存者はいないはずなのでオーバーキルだったが、こうでもしないと気がすまなかった。全てを破壊し尽くしたかったのだ。
「はぁ、はぁ」
熱と煙を収縮させ、空の彼方へ吹き飛ばす。
何もない瓦礫だけの世界が広がっていた。
いや、瓦礫もドロドロに解けたようになっていて、もはや何だったのかも分からなくなってしまっている。
きれいに残っていたお城はその片鱗すら保たれていなかった。
「はぁ、はぁ……なんで、なんでだよ」
わけがわからない。なんでこの俺が、俺様が、あんな女ごときに振られないといけないんだ……
「くそ! くそ! 姫様、姫様ああああああああああああああ!! うわーーん!!!」
俺は泣きじゃくった。
もう何もかもどうでもよくなってしまった。
どうせこの場に俺以外誰もいないのだ。どんな醜態を晒したってなんの問題もなかった。
「もうなんで俺はこんななんだよ! というか何なんだよあいつ! 俺が告白してやってるのにあっさり振りやがってよぉ! ふざけんなよ。何考えてんだよ、頭悪すぎだろうが! あんなヤツ人間じゃねぇよ! 顔が可愛くて性格がいいだけのただの生命体だ! そんなやつが、そんなやつがこの俺を振りやがてぇえぇえええええ」
俺は力いっぱい泣いた。
赤ん坊をイメージしながら泣いた。
そうするほうが、普通に大人としてなくより、よっぽど気持ちよく泣くことができたからだ。
なぜ気持ちよかったのかはわかない。泣くというのは思い切りが大事なのかもしれなかった。
「うええええん! うええええん!」
『お主、聞こえるか』
ふと、声が聞こえた気がした。
周りを見てみる。
周囲三百六十度見回してみても、誰もいなかった。
『聞こえておるのか、聞こえておるんじゃろう、返事をせい』
なんなんだこの声はまるで頭に直接響いてくるような声。それにどこかで聞いたこともあるような……
「だ、誰だよ、さっきから俺の頭に話し掛けてくるやつは!」
『儂じゃ、覚えておらんか、お主をその世界に送り込んだ神じゃよ』
か、神だって?
俺は少し考えた。
そして思い出した。
そうだ、俺はこの世界に来る際に神を経由して来たんだった。
何のために来たのかはまるで覚えていないが、確かそういう出来事があったということだけは覚えている。
「神様が今更俺になんの用なんだよ」
『何の用もなにもないじゃろうて。お主、ほんっとうに、やってくれたのう』
「やってくれた?」
『とぼけるでない! 世界をとんでもない地獄に変えておるじゃろうが! まさかそんなことする奴じゃとは思っておらんがったわい! どうしてくれるんじゃ!』
何やら怒っておられるご様子だった。
なんで怒っているのだろう。この世界を滅ぼしにかかっているのはもちろん自覚している。しかしそれは俺の勝手なのであって、誰に注意されることでもないはずだ。そもそも俺がこの異世界に来たのだって何も望んできたわけじゃない。トントン拍子に話を進められてなんとなくの流れでよこされたはずだ。
「そんなこと言うために話しかけてきたのか? ていうかどうやって話しかけてるんだよ、こっちは今忙しいんだ」
『そんなことではないじゃろう! もうお主のせいで世界はめちゃくちゃじゃ! 人間族のみならず全ての種がほとんど絶滅しかかっておる! 管轄する世界をこんなことにされて怒らないやつはおるまいて! まさかこれほどまでの力を有しておるとは儂も見くびっておった……』
「まぁ怒ってるのはいいけど、それを俺にぶつけてくるのはお門違いってやつじゃないか? 別に俺が何をしようと俺の勝手だろう?」
俺は正論を返してみた。
思ったことをそのまま言っただけだ。
俺は神様につっかかられるという事態に陥っていた。




