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剣聖、白髪少女になる  作者: みー
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老人、少女となる

分厚い雲が空を覆い、雷鳴が鳴り響く荒野に一人の老人が立っていた。

青い袴を身に着け、刀を腰に携えている。

髪は老化のせいで白くなり、碌な手入れもされなかったのかボサボサで頭の後ろでひとまとまりにされた髪は腰まで伸びている。

片方の目は病気により白く濁り、光を失っているがもう一つの黒い目は睨みつけるように鋭く、目の前の大きな塊を見ていた。


「やっと、やっとじゃ。わしはここ数十年、お前さんを屠る事だけを考えてきた。故郷が滅ぼされたあの日からずっとじゃ」


しわがれた声を出しながら刀を抜き放つ。

一人で抜くのが困難な大太刀を難なく引き抜くと、紅い刀身を頭の上からお腹の前まで振り下ろす。

凄まじい風が老人の周りで吹き荒れ、砂を巻き上げる。

するとそれに反応するように老人3人分の高さをもつ塊が動き出す。

畳まれていた翼を広げ、ゆっくりと開かれた目は赤く爛々としている。

天まで届きそうなほど伸びた角は片方が発達しており、弯曲しながら伸びている。

身体は鱗で覆われており、長く伸びた首とそれ以上に長い尻尾を合わせれば相当な大きさになることだろう巨体を翼を一回はためかせただけで浮かび上がらせ、息を吸い込んだ瞬間、雷よりも大きな声で咆哮。

雷が照らすそのさまはお伽噺に出てくるようなドラゴンであった。

ドラゴンの咆哮により嵐のような風と轟音が老人へと襲いかかる。

轟音により鼓膜が破れたのか、老人は耳から血を流す。


「ああ、終わりにしよう。わしももう疲れたのじゃ。お前さんを殺すためだけに剣を振るう日々にな」


刀を横に構え直すと左足を引き腰を落とす。


「剣聖と謳われたのも全てはこのため」


翼をはためかせながら凄まじい熱を口元に溜める。


「魔法等という奇怪な物を覚えたのもその鱗を貫くため」


『我が脚に戦馬の如く力を、我が腕に鬼神の如く力を』


「いざ、参る!!」


老人の身体が赤い光に包まれると、カッと目を見開いた瞬間にドラゴンへと接近する。

ドラゴンから放たれた火球を右に飛びよける。

着弾地点で爆発が起き、あまりの熱により老人の左半身は火に包まれる。

それに構わわず跳躍、ドラゴンの首へ吸い込まれるように向かっていく。

そのまま刀を振るうと、ドラゴンを過ぎて地面へと向かっていく。

受け身を取ることも出来ず、グシャリと地面へと落下した老人は目線をドラゴンへと向ける。

飛んでいたドラゴンは首がズルリと滑り落ちると同時に真っ逆さまに落下、地面へと叩きつけられた。

老人は血を吐きながら「くはは」と笑い、目を閉じる。


「生物最強と言われるドラゴンも、大した事無かったのう・・・」


復讐を遂げた老人は身体をゆっくりと仰向けにすると、空を見上げる。

空を覆っていた雲は何かで斬られたかの様に一直線上に晴れていた。

光芒が差し、ドラゴンに殺された伴侶を頭に浮かべる。


(ああ・・・ルーミア、今そちらへ行くぞ・・・)


老人の意識は暗い暗い真っ黒な世界へと沈んでいく。

今まであった年による痛みも、火傷による痛みも全てが消え、音も光も、何もない世界へと。


(これが死か・・・存外、心地よいものだな・・・)












しかし、それも長くは続かず、人々の悲鳴や何かが壊れる音などによって意識が浮上していく。

そして眩しい光が瞼を貫通して目に届き、気怠げに身体を起こす。


「うう・・・何じゃ?人が心地よく死のうとしてるときに・・・あん?」


目を擦りながら開くと、目に入ったのはいたるところで四角く長い塔が天まで伸び、それらが太陽の光を反射している光景だった。

次に周りを見れば一直線に伸びる黒い地面。その上を大きな音を立てながら進む、四角い箱のような物。時折後ろを見ながら一生懸命走る人たちが目に入った。

次の瞬間、何かが割れるような大きな音が響き、上を見上げると何かが落下してくる。

地面に当たり、弾けた物がこちらへ飛んできたため、破片を手で掴む。

それに反射して写っていたのは赤色の目をしていて、白い髪を頭の後ろで纏めた10歳くらいの少女の姿だった。

首を傾げると少女も同じタイミングで首を傾げる。

顎に手を当てようとして手を見ると、皺だらけだった皮膚はハリのある若々しいものに変わっていて、身体を見下ろすと華奢で、鍛錬により身につけた筋肉が失われているように思える。

身に付けているものも着慣れた袴ではなく、股の割れてない巫女服になっている。

しばらく考え込んだ後、もう一度破片を見てみると、中の少女もこちらを見てくる。


「この少女は・・・わしか?」


訳が分からないといったふうに天を仰ぐと、黒い物が急接近してくる。

慌てて飛び退き今まで居た場所を見ると、地面に大鎌を突き立てる人の頭蓋骨に上半身の骨のみで、コウモリの翼の骨の生えた、所々に黒い膜とモヤを纏っている今までに見たことのないモノが居た。

心臓部には赤い水晶体があり、ほんのり光っている。

上を見ると、いつの間にか同じような個体が空を埋めていた。


「何じゃ?こやつらは・・・」


まるで笑うかの様に顎の骨をカタカタと鳴らし、鎌を振り回しながら十体程が円を描く様に周り始め、一斉にこちらへと向かってくる。


「来い、紅桜」


手を前に構えそう唱え引き抜くような動作をすると、紅い刀身の刀が姿を表し、両手で掴み一回転。

全ての骨の化け物の赤い水晶体が切断され、黒い靄となって消えていくその光景を少女は不思議そうに眺めている。


「何じゃ、あっけないのう。しかし紅桜よ、少し短くなったか?まあ、元のままだと抜けないから良かったが・・・」


まだ空を埋めている化け物を無視して、まるで我が子を愛でるが如く刀を撫でる。

その隙を逃さないように化け物たちは一斉に襲いかかる。


「まだ感を取り戻してないのじゃが・・・仕方ない、行くぞ紅桜」 


少女は雪崩のように襲いかかる化け物を次々と切り捨てていく。

しかし対応が間に合わずやがて一体、また一体とドーム状に化け物たちが折り重なっていく。


「ぬぅ!流石にきついのぅ・・・」


ドームの内側で何とか耐えている少女であったが段々と押されていき、所々に傷が出来始めていた。

一度周囲を薙ぎ払い、刀を頭の上へ振り上げて構えると目を瞑る。


『桜吹雪』


そのまま勢い良く振り下ろすと桜の花びらが舞い上がり、周囲の化け物を切り刻む。

少女を囲っていた全ての化け物が靄となり消え、辺りはしんと静まりかえる。


「ふぅ、これで終わりかの?」


その問いかけに答えは返ってこなかったが、少女は満足したかのように頬を綻ぼせて大の字に寝転がる。

すると、両刃剣を持った一人の青年が物凄い速さで少女に接近する。

傷だらけの彼女を見ると顔を青くし、少女の肩を揺らす。


「お、おい!大丈夫か!?」


「何じゃ?今更助けが来たのか?恐らくわしが居なかったらここら一帯は血の海になっておったぞ?」


心配して声をかけたのにいきなり叱られた青年はポカンと呆けている間にも少女はずっと話している。

青年は小さく頭を振ると少女の肩を掴む。


「そ、それより!アビスワンダー達はどこへ!?」


「うん?あびすわんだーとはなんじゃ?」


「・・・え?」


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