1話
「我が闇の力を望むか、小僧。たとえそれが人の道に違うものであったとしても。」
何かが僕の頭に直接語りかけてくる。
得体の知れない体験であるはずなのに不思議と感情は動かない。
「もう今更そんなものに興味はない。」
「ではなぜ我が力を望む?」
「大事な人を守る力が欲しい。目の前で大事な人がいなくなるのはもう二度と嫌なんだ。そして家族を殺した奴を地獄の果てまで追い詰め殺す力が欲しい。」
「ほう、だが我の力は闇の力。それが貴様が扱えるかはわからんぞ。」
「扱ってみせるさ。」
「ふ、フハハハハッ!面白い。いいだろう気に入った。我が力授けよう。この呪われた力存分に振るうがいい。楽しませてもらうぞ貴様の生き様。その末路を!!!」
ハハハハ...脳に直接響く笑い声。不快な気持ちを表情に出さぬまま少年は目を閉じる。
彼の右手に握られた漆黒の剣、それを手に入れるまでを思い出しながら・・・
少年が9歳の頃であった。少年は2つ下の妹と両親の4人で幸せに暮らしていた。彼らは小国の片田舎で裕福でも貧乏でもない至って平凡な暮らしを送っていた。
あの日も彼と妹の2人はお使いで村の市場にやってきていたのだった。
「お兄ちゃん、りんごとパンと豚のお肉とあと何を買うんだっけ?」
「シエルお前わざと野菜を忘れてないか?いくら野菜が嫌いだからと言ってよくないぞ」
「ちぇ、覚えてたかー。忘れてたら今日のご飯に野菜が出てこなくて幸せな気分で1日を過ごせたというのにー。」
「今のことは母さんに報告しとくからな。」
「え、いや嘘だよお兄ちゃん。可愛い妹の顔に免じてお願い。それだけはご勘弁をー」
シエルが何か言っているが、無視して気持ち歩を速める。
「あ、ちょっとーおいてかないでー」
バカの鳴き声が聞こえる気がするが無視だ無視。それにしても今日はいい天気だ。照りつける太陽が少し歩くだけで大量の汗を噴き出させる。やっぱ嫌いだね夏は。貴族や金持ちの商人たちは持ち前の魔法で夏でも冬でも快適な暮らしをしてるらしいが、魔法なんて学ぶ金もない僕ら平民にとっては存在自体が眉唾物だね。今の暮らしが嫌いだとは口が裂けても言えないが、それでも貴族やらなんやらに生まれて魔法を学んでみたいという気持ちがないと言えば嘘になる。
シエルと他愛のない話をしたりしながら歩いていると市場についた。
「おっ、坊主今日は何を買いに来たんだい?」
気さくに話しかけてきたのはジラルというこの市場で野菜を売ってる男性だ。
彼は180センチはある巨漢で厳つい顔したお兄さんだ。見た目はかなーり怖いが常連にはおまけをくれたりと、いい人である。
「にんじんとじゃがいもそれとりんごをください。」
「はいよっ。全部で260コルね。それとこれおまけね。」
ジラルから商品を受け取り中身を確認する。
中には僕が注文したものと追加でりんごが3こ入っていた。僕1人の時だと、野菜をおまけしてくれるが今日はシエルがいるのでりんごを入れてくれたのだろう。
「いつもありがとう。またくるよ」
ぺこりとお辞儀をするとシエルも僕の真似をするようにお辞儀した。
人前になると急に喋らなくなるからこの妹は面白い。もう少し大きくなったら、シエルにも一人でお使いをして欲しいがこの感じだといつになることやら。
その後もそつなく買い物を済ませ、帰路についた。何にも起こらないとちょっとつまらないと感じるけどまあ物騒よりは平和の方が大事だよね。
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