それぞれの旅立ち
これは、「小さな友達」の数年後の物語。ノエルは高校3年生になっていました。今は夏休み、よく「夏を制する者は受験を制する。」と言いますが、周りの同級生が進路を決める中、ノエルはまだ卒業後の進路を考えているところでした。
ある日、ノエルはサクラに電話をしました。ノエルが高校1年生の頃に携帯電話を買ってもらってからサクラとは携帯で月に一回電話をするようになっていました。「もしもしサクラ!サクラは卒業した後どうするの?」「あっ、ノエル?私はね子供が好きだから小児科の先生になりたいの。大学はね、持ち上がりで桜花大学に行くつもり。でも、大学は共学だから6年間女子校通ってた私が大学の空気に慣れるか少し心配。」ノエルはサクラが桜花高校で理系科目を専攻していたのは知っていましたが、小児科医を目指しているところまでは知りませんでした。子供が好きなことは知っていたので、てっきり保育園の先生になるのかと思っていました。そして、ノエルはサクラと色々な話をした後電話を切りました。
その数日後、イギリスにいるレミから手紙が届きました。こんな事は初めてです。レミと関わるのは、中学2年生の時にレミが日本に来て以来のことでした。その時に、ノエルはレミに住所を教えていたのです。何事かと思い手紙を読んでみるとこんな事が書かれていました。[ハーイ、ノエル!元気にしてる?私ね、来年の4月から日本の大学に通うことにしたの。まぁ、秋の受験に合格したらね。大学を卒業したら、このバイリンガルを活かしてパピーと同じ貿易会社に勤めるつもりでいるわ。日本でノエルやサクラに会えるの楽しみ。ではまた、日本で会いましょう。 レミリア・ゴードン]ノエルは手紙を読み終えて思いました。「サクラもレミも大学や将来の夢とか決めているのに私は何をしているのだろう。」ノエルはレミから手紙が来て嬉しい半面、自分の情けなさに落ち込んでしまいました。
秋、サクラは学校推薦で桜花大学に合格しました。レミも外国人学生入試で大和経済大学に合格しました。ノエルは相変わらず何も決まっていません。担任の成宮先生とも三者面談や二者面談を何回もやりましたが自分が一体何をやりたいのかまだわからないでいました。
ある日、ノエルはサクラと電話をしていると、サクラがこんな話をしてきました。「そういえば、小学生の頃はごめんね。ノエルがいじめられていたの知っていたのに助けてあげられなくて。」「そんな昔のこと急にどうしたの?」「いや、この前押入れから小学校の頃のアルバム出てきて色々思い出しちゃった。勉強を理由にノエルのこと見て見ぬふりをしてた。私もあの時、吉川さん達に教科書や参考書汚されたりしていたから悪化するのが怖かったの。」ノエルはビックリしました。まさかサクラもあの時いじめられていたなんて。ノエルはいじめられていたのは自分だけだと思っていました。「私、サクラがいじめられていたこと知らなかった。ごめん。」「いいよ。ノエルの方が私なんかよりずっとひどかったんだから。」でも、ノエルはサクラと話をしていて少し安心しました。小学生の頃、てっきりノエルはいじめられている自分が嫌でサクラが距離を置いているのかと思っていました。でも、サクラはサクラ自身いじめられている中でノエルのことを助けたかったというのを聞いて、ノエルは少し嬉しい気持ちになりました。
冬、ノエルは成宮先生のススメでセンター試験を受けました。でも、結果はイマイチでした。大学に行くにも何をしたいか決まってないし、就職活動するにも人の顔が覚えられないノエルには何の仕事に就けるかわからないし、ノエルは凄く悩んでいました。そんな時でした。ノエルは不思議な夢を見ました。
ノエルの目の前には水毬の花がキラキラと輝いていました。水毬の花は青白い光を放ちノエルを包み込みました。そして、気がつくとノエルはあおぞらの土地のアロエの森にいました。すると、どこからかりりが現れました。「やぁ、ノエル久しぶり!りりだよ!!元気だった?」「りり!!」ノエルは思わず叫びました。その後ノエルはりりに悩みを打合けました。「サクラもレミも周りの同級生達も進路を決めているのに私だけ何も決まっていない。りりはどうすればいいと思う?」りりが言いました。「私はしんろとかよくわからないけど、ノエルが好きなことをやればいいと思う。ノエルは何が好きなんだい?」ノエルは言いました。「絵を描くのが好き。でも、美大に行けるような画力は無いし、人の絵となると上手く描けない。」ノエルは中学生の時にりり達に会ってから動物に例えて表情や感情を描けるようにはなりましたが相変わらず人間で表情や感情を描くのは苦手でした。ノエルがそんなことを考えているとりりが口を開きました。「びだいもよくわからないけど、周りの常識にとらわれないで絵が好きだっていう気持ちは大切にした方がいいと思う。サクラもレミもそうやって決めたんじゃないかな?」りりの話を聞いてノエルは思いました。サクラは子供が好きだから小児科医を目指す、レミは日本が好きだから日本で働けるように勉強をする、ノエルは「周りの子が大学に通う、もしくは就職する。」そんなことばかり考えて焦っていました。でも、大切なのは「どこに行くかではなく、どう生きるか。」ノエルは障害やいじめがあって辛い人生を送ってきました。でも、好きなことをしている時や好きな人といる時は楽しい。それは中学生の頃にりり達に教えてもらいました。それだけのはずだったのに、ノエルは今までどうして気づかなかったのでしょう。ノエルはりりに「ありがとう!りりのお陰で元気が出た!!」と言いました。りりは「そう言ってもらえてなんだか嬉しい。」と答えました。
というところでノエルは目を覚ましました。ノエルは起きてすぐに絵を描きました。それは、ノエルとサクラとレミが水毬の花を囲んで笑っている絵でした。端っこにはりりも描きました。人の絵を描くのが苦手なノエルでしたが、この時は自分でも上手く描けたような気がしました。
そんなある日、ノエルはある貼り紙を見つけました。そこには、[花園出版主催 ゴールデンフラワー賞 新人絵本作家発掘オーディション これで君も絵本作家だよ!]と書いてありました。ノエルは「これだ!!」と思いました。ノエルは絵本をかいてゴールデンフラワー賞に応募することにしました。この貼り紙が貼ってあったのは、何のご縁か、かつて『あおぞらの土地』と繋がる森があった老人ホームの所にたっている電柱でした。
ノエルは画用紙に絵と物語をかいて「くまくんのかんじょう」という題名で提出しました。結果は大賞がほりぐちたつひこさんというサラリーマンをしながら絵本作家として活動している人で、ノエルはなんと特別賞を受賞しました。ノエルのもとにはその日から『天才18歳絵本作家』としてテレビや雑誌の取材が来るようになりました。「くまくんのかんじょう」は花園出版で書籍化され全国の書店で売られるようになりました。
3月下旬、レミがイギリスから日本にやってきました。そして、4月になりレミとサクラは大学に通いはじめました。一方、ノエルはゴールデンフラワー賞で審査員を務めていたあきやまはるお先生のもとで弟子として働くようになりました。あきやま先生はノエルの障害のことも理解してくれました。
バラバラな道を歩んだ3人でしたが、心の中ではいつも一つです。それは、あおぞらの土地でりり達と過ごした思い出があるから。それぞれの決めた道を今日も進んでいく3人なのでした。