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僕は引きこもりたい。  作者: あきききき
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僕の理想の生活が、さっそく破壊された件について。

突然だが、みんなは引きこもりについてどう思うだろうか?

仕事しろ?外に出て出会いを探せ?

僕はそうは思わない。

引きこもりこそ・・・人類が行き着くべき究極の進化の形だ。

このまま、あらゆるものが効率化されていったら、人間の生活はどうなるだろうか?

おそらく、いや、まちがいなく、自宅の部屋で、すべてが完結するようになるだろう。

あらゆる人間は自宅にいながら、他者と交流し、仕事をし、欲しいものを購入し、そうして社会が回る。

何度も言おう。

引きこもりこそ、人類の究極系。目指すべき、進化の形だ!

・・・そんなしゃかいにならないかなぁ。

そんなことを考えながら、僕は働き続けていた。

一度流れに乗ってしまうと、そこから出るのは勇気がいる。

僕にはその勇気がなかったのだ。

その日も、15分前に出社しようと、(時間ギリギリだと、みんなの視線が痛い。)眠い目をこすりながら家を出た。

・・・覚えているのはそこまで。

気が付いたら、別世界であろう場所に転生していた。

なんで死んでしまったのかは、もはやどうでもいい。

新しい世界に来て、僕が目指すべき生き方はただ一つ。

そう、引きこもりだ!

そう確信した僕は、あらゆる手段を使い、引きこもりを目指した。

結果的に、王城の中にある、禁書庫の司書(身分がないと難しいが、僕はたまたま、第6皇太子という、微妙に偉い立場だった。)になることができた。

禁書庫は基本的に誰も訪れない。

侯爵以上、かつ王直々に許可した者しか入室を許されないし、一般的には禁書は忌避すべきもので、積極的に読もうとするものは存在しないからだ。

そんなわけで、僕は夢にまで見た引きこもり生活を満喫していた。

学校時代の友人や兄たちには変な人を見るような目で見られていたが、気にしない。

僕は今、幸せだ!

今日も心からの幸せを感じつつ、禁書庫で本を読んでいた。

・・・このお話は、その幸せが破られるところから始まる。

なんと、誰も来ないと思っていた禁書庫に、人が訪れたのだ。

しかもその人は、自分の父であり、僕を間違いなく嫌っている、皇帝その人。

その時点で、いやな予感はしていた。

「久しいな。アルス。今日は貴様に命があって来た。来月より、わが帝国が占領したエルフ領、ミドラーシュの領主となり、その地を治めよ。」

はぁ~?ふざけんな!僕はこの生活が気に入っているんだ!そんなめんどくさいこと、死んでもごめんだね!・・・そんなことを言えるはずもなく、「僕は了解しました!」と笑顔で言っていた。

・・・自分のチキンさが恨めしい。

ただ、このままではこの生活に戻ることは不可能になってしまう。何とか糸口を!と考えた僕は、帝に条件を出した。

それは、10年間、その地をしっかり治めたら、また禁書庫の司書に戻るということ。

帝はそれを了承した。「・・・できたらな。」と意味深な言葉を残しつつ。

そんなわけで、僕は今、馬車にゆられている。

はぁ~気が重い。エルフの領をおさめよとか言ってたが、普通に考えて、本当にきちんと治めてほしければ、もっといい人材はいくらでもいた。

そこに禁書庫で引きこもっている人間をほおりこむのだ。

目的は馬鹿でもわかる。

帝は、エルフ領をしっかり治めてほしいなど思ってはいない。

むしろ失敗してほしいのだ。

他国との関係上、こちらが戦争に勝ち、その地を占領したからと言って、すぐに完全に帝国に組み入れることはできない。あくまでも、食糧難に苦しむエルフを救うという体で出兵した以上、そこを破るわけにはいかない。

だが、例えば自分が暗殺されれば、(一方的に占領しているので、帝国に対するエルフたちの印象は最悪だ。)それを口実に完全に占領できる。

10年勤め上げたとしても、今まで領の経営すらしたことのない人間だ。たかが知れている。

徐々に衰退したエルフ領を10年後には完全に属国とできる・・・帝の頭の中はこんなところだろう。

属国にすることを確実にするために、間違いなく統治の妨害をあれこれしてくるだろうな。

しかも自分を嫌っている帝のことだ。しっかり勤め上げられなければ、「結果を残せていなければ、司書に戻すわけにはいかない」とか言って、まためんどくさい地を任せようとしてくるのは目に見えている。

つまり、僕が夢の引きこもり生活に戻るためには、①こちらを恨んでいるエルフたちから身を守りつつ、②忠誠心ゼロ、敵対心100の彼らをきちんと統治しつつ、③帝国からの妨害をかわしつつ、④10年で彼らの国を復興させ、以前よりも発展させなければならない。

・・・ははは、これなんて無理ゲー?敵ばっかじゃん!

そんな感じで、溜息を吐きながら、僕はエルフ領にドナドナされていた。

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