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赤ーREDー  作者: 蒼治
一幕 ROSE RED
11/91

1-11

今では慣れた踵の高い靴でナユタは紅蓮にエスコートされ進んだ。時折微笑みを民衆に投げるのも忘れない。

 と、ナユタは目の端にどきっとするものを捕らえた。

 小さな老女が群集の中にいた。しかし余りにも人が多く、彼女は圧迫されるようにして人の間でもみくちゃになっている。そのままよろける。

「危ない、あれ」

「薔薇瞳?」

 ナユタが呟いた瞬間、老女は転んだ。そのまま群集の中に埋もれそうになる。ざあっと足元に血が引くような気がして、ナユタは立ち止まり、次の瞬間そこに駆け寄った。血相変えて飛んでくる薔薇瞳にその場にいた群衆はむしろぎょっとしたようだった。

「大丈夫?おばあちゃん!」

 ナユタは人々の足元にうずくまってしまった彼女に、綱の境から手を差し出した。自分もしゃがみこんで膝を付き、頭をつっこむようにして覗き込んだ。誰かの足に蹴られた老女が苦悶を浮かべた顔でナユタを見た。そして信じられないものを見てしまった顔に変わる。

一番先頭にいた群集が自分の足元にいた小柄な存在に初めて気がついた。

「おい、ちょっと開けろ!」

 誰かが怒鳴ってようやく隙間が出来る。しかしその場で立ち上がるのは難しそうだ。それなら引っ張り出してしまったほうが早い。

 ナユタの差し出した手に老女は気がついているのに彼女は恐ろしいものでも見るようにそれを見ているだけだ。

「掴まって」

「薔薇瞳様に触れるなんて」

 小さな声で呟いた。

「掴まらなきゃひっぱりだせないよ!」

 枯れた木のように節くれだった手をナユタは無理やりつかんだ。そのままこちら側にひっぱる。

「何をしている」

 どう考えても呆れている声がして横から紅蓮が手を差し出した。そのまま老女の手をつかみようやく引っ張り出せる。

 蹴飛ばされた肩が痛むらしく、老女はへたりこんだ。しかし、次の瞬間はじかれたように地に頭を擦り付ける。

「申し訳ございません。薔薇瞳様のお手を煩わせるなど」

「ええっ。あ、あの別にそんな大した事してないですから、あの立ってください!」

「いいえいいえ」

 立ってください、とナユタは彼女の手をつかむ。しかし彼女は立ち上がろうとはしない。

「薔薇瞳」

 紅蓮が腕を掴んだ。

 薔薇瞳が老女を圧死から助けた。そんな状況が徐々に伝わっていく。それは更なる歓声を呼んだ。

 しかしその声を聞いて、ナユタはふいに怖くなった。ただこの一瞬のためにあるのではないのだ、歓声は。

 もちろんそれはナユタに向けられているものではない。そしてセツナに向けられたものでもなかったのだ。

 歓声は『薔薇瞳』に向けられたものだ。

 三十七代見出され受け継がれてきた救世の女神。夜と戦う暁の薔薇。

 今、この瞬間まで自分が薔薇瞳である意味をわかっていなかった。

 ナユタは微笑がこわばるのを感じた。それを必死で取り繕う。

 薔薇瞳であるということは、民衆の期待を背負うということなのだ。死ぬまで。逃げることは許されない。薔薇の従者や神官が補佐しようとも、この熱狂は自分一人で受け止めなければならない。

 あまりに重い。

 ナユタはよろめくように老女の前から下がった。ナユタの様子が少し変わったことに気がついた紅蓮がさりげなく肩を抱く。赤い絨毯まで戻り、ナユタは彼に押されるままに歩き始めた。

「大丈夫か、薔薇瞳」

「……平気」

 何を持って大丈夫と言うのか。民衆のこの歓声で息が詰まるなど、紅蓮にとってはとても許せる言葉ではないだろうに。

 ナユタは歩いた先にある城の階段に気がついた。早くこの場から立ち去りたい、誰にも見られない場所に行きたい。しかしそんな場所は。

 階段の上に、ナユタはひときわ目立つ人物を見つけた。

 王家の色である燻したような深みの緑と、優しい春の林のような若々しい緑。色調の似たその優美な色合いがセンス良く配置された服を纏った青年。ナユタよりずっと年上だ。二十代半ばぐらいの彼は、優しげな面差しと知性溢れる目を持っていた。その顔は、肖像画を見た若い女性が、十人中八人はため息をついてしまうほどには整っている。

 ナユタなどの付け焼刃では太刀打ちできない完璧な微笑を、その唇は作っていた。

「お久しぶりです、薔薇瞳セツナ様」

 ナユタの前に跪き、手をとるとその甲に実に礼儀正しい口付けを落とす。

 民衆を前にして一筋も崩れない高貴さを持つ彼は。

 現王には全部で七人の子どもがいる。おそらく彼は、その長子。

 カイエン・ニギハヤヒ。正統な第一王位継承者だ。

 柔らかな茶色の髪はまるであつらえたように王家の色に合っていた。細いつる草で編みこんだような金の繊細なサークルが彼の頭部を品良く飾っている。目は深みの在る茶色をしていた。

「お待ちしておりました」

 背後で扉が閉まる。しかし、城の中は中で、多くの城仕えのものがナユタを注視していた。悪意と言うほどではない。しかし好奇心と言うには熱狂が無い。ひやりとしたその空気は、初めて感じるナユタへの圧力であった。

 結局どこにいようとも。

 ナユタは痛切に自覚した。

「歓迎大変嬉しく思います」

 微笑みながら、ナユタは自分の孤独と責務を改めて自覚したのだった。




 そのままナユタと紅蓮は謁見の間控え室に通された。

 控え室と言っても、豪奢極まりない。壁は優美な花を描いているし、かしこにある彫像はところどころ金箔が施されていた。派手なのは間違いない。神殿の設計者はとりあえず紙一重だが、ここの設計者はかなりの派手好きだ。

 紅蓮と感想を言いたくとも、周囲には王宮関係者ばかりだ。

 ふとナユタは気がついた。王の具合が悪い割には、王宮の人々の顔にかげりはない。着ているものも質素ではなく、普通に着飾っていた。

 カイエンは途中で席を外した。その後、やってきたのはまた別の王族関係者だった。王の妹達だという彼女らはナユタを見て、ふっと笑みを溢す。それはカイエンのように育ちの良さが自然に現れたものではなく、どこか悪意のあるものだ。

「神都の方は質素なお暮らしをなさっているのね」

 微笑みながら言われたことにナユタは理解できない。

「それに、薔薇瞳様、とてもお痩せになって。ご病気大変だったのでしょう。ここまで来ていただくなんてなんだか申し訳ないみたいだわ。立場と言うのはつらいものですわね」

 貧乏臭い、ていうか、そもそも貧相だし。まあ薔薇瞳は王家の下だから来てあたりまえだけどね、と遠まわしに言われたことに気がついて、ナユタは唖然とした。

「あ、あの、わたし」

 見舞いだからあまり派手な姿は、といいかけたナユタだがそれを言うことはできなかった。彼女達は畳み掛ける。

「そういえば先ほど、いきなり地面にはいつくばって驚きましたわ」

「お年を召したかたが人垣でつぶされそうだったんですって?でも私にはあんなことはできません。さすが薔薇瞳様は下々にもお優しい。そのためにそういう身軽な格好なんです?」

 自分のとっさの行動を嘲られてナユタはかっと顔に血が上った。

 けれどあの時はそうするしかないと思ったのだ。やはり自分の考え方はどこまでも小さな視点からしか人を助けられないような矮小なものなのか。

「……やられた、かな」

 ぼそっと紅蓮は呟いた。その意味を問う前に、控え室の扉が開いたのだ。

 そこには多くの人々が集まっていた。まぶしく思うほどのきらびやかな部屋。王都の貴族階級を中心とする人々。それはまるで舞踏会のような華やかさだ。

「いくぞ、薔薇瞳」

 紅蓮は怒りを帯びた目で彼女を見た。それが向けられているのはナユタではない。

 おそらく、王都は病気が回復しても通り一遍の感謝の言葉しか投げかけてこない神都にいらだっていたのだ。本当ならば、出向いて感謝するのがスジであろうと。だからこそ、薔薇瞳がさすがに出向かなければならない理由をでっち上げたとういうことか。ついでに少々薔薇瞳に恥でもかいてもらおうかと。

 紅蓮は舌打ちした。そこまでは読める。しかし対応しきれない。

 もともと紅蓮は戦うことにかけては向かうところ敵無しだが、こういった外交だの社交だのはあまり得意ではない。キリエやユージにすべて任せているといっても良い。ユージもキリエもある程度予見していたのだろう。豪奢な衣類は持たせてくれたが、着替えるタイミングが無ければ意味がなかった。そのタイミングを作るのがキリエの腕前であり紅蓮の苦手とするところだ。

 紅蓮が怒りを覚えたのは、王都の連中のやり方だが、それにまんまとはまってしまった自分に対してもだった。

 ナユタは自分がその豪奢な部屋で浮いているのを感じてかすかに青ざめている。紅蓮に押されて歩いているが、ナユタの微笑みは唇がかすかに震えていた。

 まるで幼い子どものようで、弱々しさにいらだつが、それはヤツあたりだと気がついた。

 ナユタをセツナに重ねてしまうからいけないのだ。セツナだって幼い頃は全てに戸惑っていた。

 ナユタは自分をセツナに比べて劣っていると考え、いつもおどおどしている。紅蓮も貧相だとからかうことはある。けれど彼女にはセツナとは別の美点があるはずなのだ。先ほど老女に駆け寄ったのも、セツナだったらそんなことはしない。

 すっと紅蓮に耳打ちし、紅蓮が騎士団に言って老女を助けさせる。そのほうがよほど洗練されているし騒ぎにもならない。いつかナユタだってそのやり方は覚える。そんなものはわかることなのだ。

 だが、目の前で誰かが傷つきそうになった時に駆け寄るそのまっすぐさこそ、薔薇瞳が持っていなければならないものだ。ナユタの行動は間違っていない。

 しかし紅蓮はそれをうまくナユタに伝えられない。

「薔薇瞳殿、ようこそ」

 王座に座った王は、ナユタが礼儀にのっとって頭を下げると明るく声をかけた。確かにその声はかすかにしわがれているが、病気とは言いようが無い。なんとか表現するなら、「鼻風邪」だ。そのがっしりとした体からは病の影など逃げてしまいそうだった。

「どうも使者が大げさに伝えてしまったようで申し訳ない」

「いいえ、御健勝であるのなら、それに勝ることはありません」

「せっかくお越しいただいたのに、薔薇瞳殿の麗しい姿を見られず残念ですよ」

 王はナユタを上から下まで見た。その遠慮の無い視線に紅蓮はいらだつ。

「しかしお痩せになりましたな」

 ナユタは言い返すことが出来ない。もともと何かに反論したりするのは苦手なのだ。しかし紅蓮は所詮『魔犬』、求められもしないのに、この場において王と直接話すだけの力はない。紅蓮が歯噛みしたときだった。

「王よ、せっかくお越しくださったセツナ様に失礼でありましょう」

 横にいたカイエンがやんわりと口を挟んだ。

「それにセツナ様は質素なものを着ていても、お美しい」

 怯えた影を拭いきれないまま、ナユタはカイエンを見た。

「以前お会いしたときは、深い紺に銀糸と水晶で刺繍のある大変麗しいドレスを着て、まるで水面に映ってゆらめく月のようにお美しかった。今は我が王を気遣って控えめなお姿。しかし花壇に咲いて皆をなごませる小さな花のように可憐ですよ。王よ、このように美しい見舞いの品を貰って、お礼もそこそもとはいかがなものでしょう」

 カイエンに言われ、王は一瞬言葉を切る。息子に諭され多少は思うところがあったのだろうか。

「そうだな。貴女自身が変えようも無い見舞いの品だ。遠路はるばるごくろうであった」

 ナユタにつまらない言葉をなげかけるのを止め、あくまでも上位からの言葉であれど礼を言う。

「皆セツナ様をもてなせ」

 先ほどから低く流れていた楽団の音楽が音を増した。さざめくような話し声は徐々に強くなっていった。

 自分に全て集まっていた視線が離れ、ナユタはようやく息をついた。

 紅蓮はカイエンを見る。感じの良い男だ。王族である以上、何か企んでいないわけはないが、少なくとも今はナユタに助け舟を出してくれた。

 しかしそれが途方も無く腹だたしい。

 紅蓮と目が合うとカイエンはにこりと感じよく笑って、こちらに近づいてきた。どこからどう見てもそんなに悪い奴には見えない。むしろ見えて欲しいくらいだというのに。

 セツナのような華々しい美しさを持っているわけではないが、ナユタだってセツナと間違えられるくらいには似通っている。ただ、身についた自信がセツナを比類ないほど美しく見せていたのだ。そんなくだらないこと言わないが、ナユタだって十分可愛らしい。

 ナユタの自信のなさと少し痩せすぎなところ、そして幼さ、それが可愛らしさから脱却できない要因なのだ。可愛い、ということなら十分要件を満たしている。そのぐらい知っている、知ってるが言わないだけだ。

 それがなんだ、可憐な花だと。

 そんなことを言って口がもげないのかお前。

 自分でもよくわからない苛立ちに支配され紅蓮はカイエンを見つめた。しかしカイエンは紅蓮を完全無視だ。

「先ほどは途中で席を外し、大変失礼しました」

「いいえ」

 カイエンは優しくナユタの手をとる。

「最後にお会いしたのは二年前ですね。ずっとまたお目にかかりたいと思っていました。しかし私も外国に留学にだされておりまして。ご病気を知ったときにはどうしても伺いたいと思ったのですが、戻ってきたのは先月なんです」

「そうですか。それでは異国の珍しい話などたくさんご存知なのですね」

 ナユタががちがちに緊張しているのはその背中でわかった。それでも必死に会話を進めようと努力している。

 心配しながらも、紅蓮は二人を見送るしかなかった。




「長かったな」

 王宮は神殿のように高いつくりにはなっていない。基本的には三階までの平面に広い造りだ。

「紅蓮」

 客間に通され、ナユタが夜着に着替えたところで声をかけられた。ようやく一人になれたところだ。紅蓮にとっては二階などものの数ではない。バルコニーにいる紅蓮に気がついてナユタは扉を開けた。いつもは窓の外は屋根だが、今日はバルコニーだ。ナユタは自分が外に出た。

「寒いぞ、部屋に戻れ」

「平気」

「平気ではない」

 紅蓮は薄物一枚のナユタを自分のコートの中に入れた。小柄なナユタはすっぽりとおさまってしまう。へへっと彼女は小さく笑った。

「どうだった」

「疲れた、とても疲れた」

「そうか」

「紅蓮、途中でいなくなっちゃったね」

「つまらないんだ」

「綺麗な人と踊っていたじゃない。紅蓮、見た目はいいものね」

「どうもひっかかる言い方だな」

 そして会話は止まる。ナユタはぼそっと言った。

「もう帰りたい」

「明日は帰るだけだ」

「今帰りたいよ」

 ナユタはこっそりみぞおちを押さえた。やはり気持ちが悪い。

 ずっと王都の社交界の人々と話していた。部屋に帰りたいと思っても、皆逃がしてくれないのだ。彼らの話に政治が出てくることは無いが、芸術方面であまりにも詳しく、ナユタは数度その無知を露呈した。恥ずかしさに息が詰まる。やんわりとあてつけられた皮肉がナユタへのとどめだ。

 自分にはやはり薔薇瞳は無理だ。セツナの代わりはとてもできない。けれどやらなければならない。

 無理だ。

 ナユタは言えない言葉を心の中で呟く。

 どうしても無理。なのに逃れられない。自分が失敗すれば神都の皆が恥をかく。でも止めさせてもらえない。

 それなら。

「頑張れ」

 紅蓮の声が頭の上でした。自分の考えていた別のことがかき消される。

 うん、とは言えなかった。けれど珍しく紅蓮の声は優しい。手がかすめるようにナユタの頭に触れる。子どものように頭を撫ぜられてナユタは大きく息を吐き出した。気持ち悪さが少しだけ和らぐ。

「……セツナならうまく出来たかな」

「……まあな……でも」

 でも、はあまりに小さくナユタの耳には届かない。そして紅蓮も続きは口にしなかった。




 王宮はコの字型をしている。カイエンの部屋から客間のバルコニーが見えた。ようやく舞踏会から去ることが出来、彼は部屋で一人、杯を傾けていた。ああいった会は嫌いでも苦手でもない。面倒だと思うがそれも勤めだと思っている。

 しかし今日は珍しく楽しかった。

 あの人は。

 客間のバルコニーでは、薔薇瞳とその魔犬が仲良さそうに寄り添っていた。不思議なのはあまり甘い雰囲気が感じられないことだ。薔薇瞳の部屋に入ることなく魔犬はやがて自分の部屋へと立ち去った。

 薔薇瞳も部屋に戻り、誰もいないバルコニーを彼は見つめていた。あの温和な微笑は消えていた。彼も王とはまた違うがタダの人の良い青年ではない。王の後継者という自覚は十分すぎるほどある。

 あまりにも印象が違いすぎる。

 カイエンは今日の薔薇瞳を観察した結果を不思議に思っていた。

 最初は彼女が到着したときだ。なぜ彼女は自ら地面に這いつくばって老女を助けたのだ。自分でしなくても助ける方法はいくらでもあるし、それが思いつかないほど愚鈍な女ではなかった。以前会った時の薔薇瞳は、大局的に状況を見ることができたし、君臨、と言う言葉は彼女のためのものかと思うほど、堂々としていた。今の彼女は、まるであれではただの小娘だ。

 それに貴族達のつまらない嫌がらせへの反応。おどおどして本当に頼りない。以前はものともせずより鋭い皮肉を飛ばしやり込めていた。以前会った時の薔薇瞳とあまりに違う。

 けれど、あの老女を助けたときの彼女は悪くなかった。

 カイエンの前に現れたときもまだ頬は紅潮し、髪は乱れていたけれど、遠くから見ていたカイエンが手助けに行きたいとおもうほど懸命だった。恋をしているときでさえ乱れていれば無様とされる王都の社交界では見ることのない姿だ。

 そんなことで恋に落ちるほど単純ではないが、彼女に興味が湧いたのは確かだ。

 以前の女王然としていた薔薇瞳は魅力的だが、初対面のときから、いつか敵対したときに面倒なことになりそうだという危機感の方が強かった。

 今の彼女は。

 王に言ったことは適当なことばかりではない。今の彼女は優しい花のように愛らしい。

 前に会った時そういえば魔犬も一緒だった。あの時の魔犬は、薔薇瞳に対して距離を保っていた。信頼しているが感情が揺らぐことは無さそうな関係。あんなふうに寄り添うことは無いような関係に見えたが。

 魔犬は今日ずっと薔薇瞳が気になってならないようだ。

「人は変わると言うが……不思議だ」

 カイエンは薔薇瞳の部屋の灯りが消えるのを見守ってから、杯を置き立ち上がった。

 明日、やりたいことが出来た。

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