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十八時間目・言い出したら、最後まで責任を

   *


 事情聴取を終えて、哲明が向かう場所はOG組の教室である。

 今回起きた事件で急遽部活は中止、一番の被害を受けた演劇部は部員だけ集まって事情を知らない部員に説明している。

 また厄介な問題事を受け持ってしまった哲明、これをどう生徒に説明しようか考えながら階段を上っていく。今回は自分の中で目立った不可解な現象が起きない、起きても困る能力であるが。

 名簿帳・筆記用具と一緒に持ち歩いている青い厚紙が表紙の手作り本を広げる。

 演劇部の部長から一冊拝借した来週の地区大会で疲労する演劇の台本だ。題名は「悲しき姫君」という、なにやら物騒な内容が描かれてそうな雰囲気の題名だな、実際内容を知るために台本を広げる。

 やや分かりやすく説明すると――。

 敵国に侵略された国の姫は、生まれた時から敵国の三人の女研究員、通称『地獄の魔女』の実験動物として生かされていた。姫君という自分の身分すら知らないで、奴隷のように扱われて生きる希望すらなくなっていた。一人の人間・一人の女性として見られてなく、ただ汚され、傷つけられていく姫君。実験でいずれ死ぬだろう・・・自分の死を待つしか彼女には無かった。

 だが、直後に彼女を閉じ込めていた檻が壊された、魔女に不満を持っていた戦士が彼女を一目で気に入っ連れ去った。姫は初めて見る外の世界や世界に住まう人達、自分を暗く地獄のような城から連れ出した戦士に心を惹かれていく。

 一方。貴重な実験動物を逃げられて、三人の魔女は部下に命じて世界中血眼になって探した。彼女が一国の姫君である事を知る前に、国を再建させる前になんとしても姫君を取り戻したかった。そして、彼女達はとうとう姫君と彼女を連れ出した戦士を発見する。姫君の前で戦士は殺されて、姫君はまた闇の監獄へ戻されてしまった。

 地獄ともいえる実験の最中、彼女は自分の無力さに嘆きながら死んでいった。死んだ途端に彼女は美しいドレスに身を包み、黄泉の国で死んだ戦士と再会する。互いの気持ちを告げて、二人は黄泉の国で一国を築いた・・・。

 ――な、内容。

 こんな複雑な物語を、人前で披露する作品にしてはにはすごく重い、大団円とは到底いえない悲しい終わり方である。

 最後、死の国で再会する姫君と戦士。死んでやっと結ばれた二人、悲しいことこの上ない物語の結末。

「・・・これを学生が演技するのだ、荷が重いだろうな」

 台本を閉じて、哲明は台本を名簿帳に挟み、ゴールデンウィーク明けのOG組教室の扉を開けた。

「起立! 礼!」

 哲明が教室内へ入って教卓の前まで歩み寄る中、学級委員長がクラスメイトに号令をかける。

 教卓から哲明が生徒と向き合うように立つと、「おはようございます」と一斉に挨拶をして、「着席!」の合図で教室の生徒は自分の席に座る。

「出席の前に、朝の事件を知っているか? 学校の窓は壊されて、演劇部の衣装が刃物で切り付けられた。これは住居侵入・建造物等損壊・器物損壊の罪に値する行為である。もしクラス中で演劇部の邪魔したり、怨恨を持つ者がいたら、自分はその人間を警察に突き出さない気が済まない。生徒の一部は自分の犯行と言っているからだ!」

 取り戻しつつある教師の威厳を、今回の事件でまた崩れそうである。

 完全に崩れる前に、犯人割り出しと演劇部の衣装をどうにかしないと・・・。

「先生、俺達演劇部とは無縁です。知っているでしょ? あんたでもそんな度胸ないだろうし・・・こりゃ部外者の可能性もあるだろうし」

 バンダナを頭に巻いた生徒が、腕を組みながらペラペラとしゃべる。

「先生の事だから、衣装代とかどうにかしろって生徒に言われて、困っているから俺達の知恵を貸して欲しいんだろ?」

 ずばり、図星である。

 図星がチクリと心に突き刺さり、哲明の上半身は教卓の上に倒れる形で乗っかった。

「けどよぉ・・・先生にそんな金なさそうだし、お裁縫なんか出来ないクチだろ? 手芸部とか家庭科部の人間に頼めばいいじゃん」

 机に足を置いて、両手を頭の後ろに組ませて座っている暁が気だるそうに言う。

「頼み・・・頼んだが、今学校にある材料が間に合わないとか、こっちも部活でそんな暇は無いと断られてしまった」

 上半身を教卓に押し付けたまま、哲明はボソボソ声で生徒に言う。

「相変わらず文化系の連中は心狭い奴らだなぁ・・・仕方ねぇ。ミクト、お前お裁縫得意中の得意だったな?」

「暇潰し程度だ」

 暁に指名されたミクトは、暁に背中を向けたまま冷淡な口調で呟く。

「暇潰しって・・・暇潰しで十二単作っちまう奴も、そうそういねぇよ。コスプレ衣装とかゴスロリ服とかウエディングドレスとかメイド服とか――あんたに作れない服なんか無いじゃん?」

 猫なで声に声色を変えて、ミクトに話しかける暁。

 今時高校生でそこまで裁縫に没頭する人間なんかいないに等しい、作る服のレパートリーも豊富――過ぎる。資格も持っていないのに和服まで暇潰しで作れるものでしょうか? 

「たまたま本の通りに作ったら出来ただけだ」

「本の通りに簡単に短時間で作れる人間は、この学園・・・いや、世界でお前だけなんだから、ちっとは学園のために才能生かせよ」

 後ろから暁に色々言われて、ミクトはしばらく黙する。

 その時だけ漂う空気は、みのもんたのクイズ番組で正解か不正解か、みのもんた本人が言うのはどちらか言うのを待つ回答者や観客席の緊迫した気持ちがオーラとなって表に出てしまっている。重たくてハラハラさせる空気であった。

 出席とる前に朝のHR終わってしまう、もう一分経過している! 早く返答をくれと哲明が内心叫ぶ。

「・・・――いい、学校側が材料や糸を用意するならば」

 沈黙は長かったが、ミクトは感情の無い淡々とした口調で返答がきた。

 新たに舞台衣装を作ってくれる人間は見つかったが、次は材料と地区大会の開催日である。

 哲明は台本の一番最後のページに開催日が書いてあったことを思い出し、すぐに裏表紙を広げる。今日は五月八日の月曜日、地区大会の開催日は来週五月十六日の火曜日。約八日間で破られた衣装を全てミクト一人で作り直せるのか――以前にどうやって今日中に材料などをかき集めるか。

 学校の経費から衣装の材料代下さいと教頭に言ったら雷霆が降って来る、校長でも簡単には頷かないし、家庭科準備室の布生地を無断で使用できない。自分の知り合いに布の卸し問屋がいれば話は別であるが・・・。

 布の卸し問屋・・・哲明はひとつだけ心当たりがあった。

「ちょっと待ってくれ!」

 哲明はジャケットの中に忍ばせた携帯電話を出して、あてのある場所に一番かかわり易い人物にメールを送ろうと文字を打ち込み始める、気になるのか前の席に座る生徒が身を乗り出してみている。


   宛先 将和伯父さん

   用件 朝早くから至急


 伯父さん、しばらく連絡できなくてすいませんでした。

 実は困った事態に陥りまして、どうしても伯父さんの力を貸して欲しいのです。

 布生地専門店・色彩の継崎さんに、必要の無い布や在庫が余った布が残っていたら譲ってほしいと頼めないですか?

 生地・色は何でもいいですがレース数種類、ピンク系の色を少し多めで。

 模様なしのほうを多めで、糸も十種類近くも同封してくれませんか?

 今日の午後六時までに以下の住所まで送って貰える様にお願いします。

 P.S 今年の御盆あたりに帰省します。


 最後に学校の名前と住所を入力し、誤字・誤植が無い事を確認して携帯電話の送信ボタンを押した。

 送信完了の文字が画面に表示されると、携帯電話を折りたたんで、ポケットの中に入れるとふーっと息を吐く。

 一体どんな内容をどこに送りつけたのか知りたそうに、生徒は見上げるように見つめていた。

「メール・・・どこに送ったのですか?」

 学級委員長・由香里がさり気なく言う。

「実家の伯父さんの所だ、伯父さんは顔が広いし、付き合いの長い大手の業者何人もいて・・・自分でも何人会ったか数えられないほどさ」

 恥ずかしそうに、哲明ははにかんだ笑みを浮かべる。

「先生、実はボンボン?」

「ぼ・・・ボンボン?!」

「よーするに! 実は大金持ちの坊ちゃん!?」

 暁が机から身を乗り出して、哲明に向けて指を指しながら大き目の声で言う。

「さぁ? 両親が世界的資産家とか伯父さんから聞いていないし、そもそも両親なんか知らないし、伯父さんも顔がヤクザっぽいだけで別にどこかの偉い人じゃなかったぞ」

「実は裏で黒い事でも行ってんじゃないのか? 例えば臓器売買とか覚せい剤とか詐欺とか」

「あのな! 人の家族を犯罪者にするなっ――・・・む、返信が来た」

 暁との会話中に携帯のバイブレーションが鳴り、哲明はさっき戻した携帯電話をまた出し、広げて新着メールを開ける。


   送り主 将和伯父さん

   内容  わかりました!


 哲明坊ちゃん元気そうで何より!

 坊ちゃん水臭いではありませんか、困っている事があるなら遠慮なく申してくだされ!

 何が何でも継崎の奴に取り合うから安心してくだされ。

 指定時間までに用意させ、持って来させます!安心して仕事に励んでください。

 にしても今年から先生ですか、影で支えますのでご安心を!

 御盆、お待ちしております!


 ――以上が返信メールの内容である。

 哲明が内容を見て苦笑いを浮かべながら、携帯電話をポケットの中に戻した。

 なぜ哲明が苦笑しているのか、メールの内容を知らない生徒には分かるはずなく。やや不気味そうに見ている。

「さて、材料も午後には来るし・・・問題は、作っている最中に同じ犯人から妨害されないか――だな」

 と哲明は言いながら、トントンと人差し指で教卓の上を叩く。

 犯人は学園の関係者、演劇部に怨恨を抱く生徒の可能性が高い。

 演劇部と深い関わりがある人間の仕業ならば衣装が新たに作られる事を耳に入れて、同じように深夜に学校に忍び込んで同じ犯行を繰り返す・・・少年探偵っぽく推理してみる。

 これが予想通りなら、一番警戒する期間は明日火曜日から来週の月曜日。

 幸い今週一週間、高等部の戸締り当番は自分。張り込みで学校に来週月曜日まで寝泊りできないか、後で校長に聞いてみる事にしよう。哲明はそう予定しながら、トントンと教卓を軽く叩く。

 次に衣装を製作する依頼を引き受けてくれたミクトの安全。衣装を作り直すミクトを闇討ちする計画を、犯人は企てている可能性も捨てきれないからだ。ガラス細工の人形のような繊細で細い少年が、犯人を振り切れるだけの力を持っているように見えない。抵抗空しく、相手に半殺しされそうで・・・。

「昼休み、演劇部の部員が事件現場に集まる・・・先生は第一発見者だから行かなければいけなくなってな、衣装を作り直すのにボロボロでも参考が欲しいだろミクト。一緒に来てくれ」

「了解・・・」

「他は、・・・先生と張り込みしたいならそれで良いし、事件を忘れるなり好きにしていい。関わるなといっても先生が首突っ込んだ事件だ。自由にしていい」

 哲明は名簿を広げながら、教室に集まる生徒たちに言う。

「それからミクト。放課後に材料が届くから自宅に持って帰って、出来た衣装から学校に持ってきて欲しい」

「いえ・・・泊り込みでここで作ります。夜の学校のような静かな場所の方が、もっと早めに作れそうな気がするので」

 と、感情が一切感じられない声でミクトは言う。

「そ、そうか・・・」とやや焦りながら哲明は言った。

 破天荒・自分勝手・唯我独尊の暁とは反対に、冷淡で人間の心があるとは思えない位表情乏しいミクト。人生で沢山の人と出会ったが、ここまで喜怒哀楽が乏しい人間なんか始めてで、どのように接すれば良いのか分からない部分が大きい。

 此間はあちら側から話しかけてきたから会話は成り立てたが、今回は会話らしい会話が成り立たない。こういった相手は慣れが必要だろう。

 声に抑揚がなく感情に乏しい人間ほど、怒り方が尋常じゃないと聞く。怒らせないほうが身の為だな、うん。

「前ぶりが長過ぎたな、今から出席を取る! 遅れた分早めに済ませるぞ」

 時計を見れば午前八時四九分、もうすぐで一時間目と朝のHRとの間に入る休み時間が始まるチャイムが鳴る時間である。長話しすぎた・・・出席名簿を広げながら哲明は感じた。

 哲明の思想とは裏腹に、廊下側一番端・一番前の席に座るミクトは何も考えず、静かに時計を見つめていた。

 その瞳は氷のように冷たく鋭利であった。

 


  *


 ――キーンコーン、カーンコーン・・・。

 昼休み開始のチャイムが校内に鳴り響く。

 問題事を引き受けてしまった教師と、問題事を手伝うことにした男子生徒が二階の演劇部小道具置き場に向かっている途中だ。正確に姿勢を正してミクトが前に歩き、哲明は猫背で彼の後ろを歩いていた。

 二人の間に距離があり、会話が一切無い。

 生徒と馴れ合いはあまり行なうなと、此間恭一か重次郎に言われた。

 それは女子の中で「腐」った「女子」と書いて、「腐女子」と呼ばれるオタク系がこの学校に何人もいるのだ、女子生徒が注目するほど顔立ち整った書かれ方する二次元のアニメ・漫画。ゲームのキャラクターを勝手にBL(ボーイズ・ラブ)カップルに仕立て上げて妄想する人達を指すらしい。最近は二次元だけではなく、三次元・・・現実の顔立ちが良い美形の男子同士の組み合わせで興奮したり、妄想だけで性的快楽を感じる女子もいるらしい。一般人が想像すると気持ち悪い以外に表現出来づらい、男同士・女同士しか愛せない同性愛者を侮辱しているように見える。

 腐女子から見れば、ミクトは容姿はやや幼いがテレビに出てくる美男子なんか曇ってしまう位に美男子だろう、自分は全然三十歳には見えない若い顔立ちした教師しか見えない。

 生徒と教師、男同士の禁断の愛? ――眩暈してきた。

 すれ違う女子生徒を見ると、どれも似たような妄想しているのでは? と、疑っている自分が今歩いている。OG組にもそんな人間がいたら、もうどうしよう・・・。

「無視すればいい」

 ミクトが抑揚が無い声で言う。

 その通りだなと頷きながら、猫背の姿勢を正しながら哲明はうんうんと頷く。

 顔を上げれば、ミクトの右肩に何かが乗っている。細い手足にメタリックブラックの体、蝙蝠のような二枚一対の羽が背から生えており、装甲の繋ぎ目や間接は金で染められている・・・なんというか、ゴールデンウィークの時に行った建造物の電化製品店で見たポータブル・ロボのようだが生物見たいに生きている感じがして不気味。脈打っている感じ。

 第一感想は、悪魔をモチーフにしたロボで、生きているようだ。

「それ、ちゃんと校長先生に許可貰っているのか?」

 哲明が不気味なポータブル・ロボに指を指して言う。

「ある、ゼルプストは俺の体の一部・・・何物にも変えられない」

「それだけ愛着があるのだな、最近の子供は物を大事にしない子が多いらしい」

「そうか・・・」

 だけで、会話はすぐに消えてしまった。

 生徒とコミュニケーションを取るのは難しい、表情と内心が読めない人間は特に。

 そのまま会話が無いまま演劇部小道具置き場に一番近い階段を下りて、目の前の黄色いテープが張ってある演劇部小道具置き場の扉を開けた。

 開ければ、中で哲明を待っていた生徒の頭数に哲明は少し入り辛かった。

 女性率が高い演劇部部員の視線は冷たい、視線がチクリと哲明に刺さる。疑っている! 絶対に自分を疑ってるよ!

「今回は災難だったな」と平気に口に出せない、出したら信頼失う。

 部員の神経逆撫でしないように言葉を選ばないと・・・まずは表情を消すことからだ。

「まず、台本を返す」

 震えた声で言い、部員の一人に披露する劇の台本を手渡した。

 ミクトは床に並べられた無残な舞台衣装を表情ひとつ浮かべる事無く見ていた。

「主役が最後に着る衣装が一番損傷激しいな、主役を演じたかった奴の仕業だな」

 淡々とした口調でミクトが言う。

 彼の手は、刃物でビリビリに破られた舞台衣装に触れていた。

「なんで分かるの?」

 演劇部部長がミクトに聞く。

「他の衣装はまだ原型が残っている・・・なのに、このドレスだけ布屑と化している。演劇部に怨恨もあるが主役になれなかった人間の仕業だ。自分こそが相応しいとな」

「なるほど」

 ミクトの推理に哲明は頷く。

「・・・新入部員、主に一年生は出る幕はないだろう。だとしたら、自分の実力に自惚れた奴か?」

「だからってこれはひどい!! 先生、早く犯人捕まえてよぉ!」

 主役を演じることになった副部長が半泣きになりながら哲明に言う。

「言うのだったら自分じゃなくて顧問の先生に言いなさい!」

「顧問の先生、こんな事件に関わりたくないってさっさと職員室に逃げてっちゃったもん・・・」

「〜〜〜〜っ!!!」

 絶句するしかなかった。

 自分の顧問する部活で起きた事件なのに、肝心の顧問の先生は丸投げ。テレビのワイドショーで見る無責任な教師が、本当にいたとは。しかもこんな近くに。

 職員室で出会ったら一発殴りたい、本気で。

「衣装はそこの彼が作ってくれるから、まずは安心してくれ。また犯人が来る可能性もあるから、先生が顧問の代わりに来週月曜日まで見てやるから」

「先生・・・ありがとうございます」

 お礼の言葉を述べたのは、新入部員の女子生徒。周りの女子生徒に比べたら小柄な方で、やや太り気味の体型、顔は丸くて目が細く、お世辞でも美少女とは言えない。彼女の着ているジャージに付けられた名札に『塩島』と大きく書かれていた。

 どう見ても苗字である、普通下の名前も一緒に書くのが常識なんですが・・・。

 言いたいけど、今の現状で言えるわけない。

「塩島さんと同じ感謝の気持ちでいっぱいです」

「センセ〜〜!」

 塩島に続いて部員が次々と感謝の言葉を哲明に述べる。

 哲明は照れくさそうに笑うが、内心笑える位のゆとりはなくなっていた。校長達に今回のような事件が来週月曜日までに、もう何度か行われる犯行の可能性を訴える言葉を既に考えていた。

 どうしても今回起きた事件に悪い意味で事情がありそうな・・・。

 文章を考えながら哲明は破られた舞台衣装を見つめ、頭の片隅で薄々と感じていた。

 人間が本来持つ野生の部分、俗に言う「勘」が哲明の中で訴えている、その上わずかに自覚できる不可解な感覚が合わさって余計だ。

 自分の命に危機感を覚え、自信げな笑みが薄らいでいった。

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