十一時間目・終わりのようで、実は始まり
哲明の怒声が廊下中に響いた。
掲示板前に集まっていた生徒達は、騒ぎと聞けばすぐにそちらへと視線を向ける。
右頬を叩かれて、美里は目を丸くして叩いた相手を見る。
ほんの数秒間動かなかった相手になぜ自分が叩かれたのか、本人はぜんぜん理解していない。
「一番成績がいいからって・・・努力している人間を貶す事だけは絶対に許さないぞ!」
息を少々切らしているが、哲明は喋るのを止めない。もう免職覚悟で生徒を叱る。
「成績を落とした自分が悪いのに他人に擦り付けて、『自殺まで追い込んでやる』だと?! 人の命を何だと思っている! おかげで本当に自殺を図ろうとしたんだぞ、眠木は!! ・・・いや、彼女だけではない。この写真に写っている被害を受けた人も同じように死を考えていたかもしれない」
本当に現実になろうとした夢幻。
相手を自殺に追いやるためなら、邪魔する教員すら追い詰める。卑劣な行いに哲明の怒りは頂点に達していた。これ以上悪化させない、ここで食い止める想いで叱るのをやめない。
(な・・・なんで?)
学校へ来て一ヶ月も経過していない教師が写真を見て、放送を聴いただけでここまでのことが言えるのか。美里は吃驚して言い返す言葉など無かった。
長い間学園に勤務している教師ですら自分の思惑に気付かれなかったのに、新任教師に完璧なまでに見破られた事がよほどのショックだったのか、叩かれた右頬を押さえながら廊下に跪いた。
短期間で自分の全てを調べ上げたとでも言うのか。
ありえない、生徒のプライバシーは厳重に護られていて新任教師の身分である哲明が細かい詳細を知るわけが無い。それに昨日の昼休みに同志との会話を記録できるわけが無い、哲明は相対したのだから。
そこで挙がる団体、OG組。
掲示板に張られてある百枚以上の写真も今流れた放送も、みなOG組の仕業としか考えられない。
一人じゃない、複数。もしくはクラス全員も考えられる。
「机、落としたのも君か?」
哲明が聞くと美里は小さく頷く。
「先生は別に自分に落としたから怒ってるわけじゃない。自分の机が凶器に使われた事を悲しんでいる人の気持ち、考えずにおこなった行為に怒っている・・・同級生や後輩などの弱い相手を脅したり威張ったりして自分の地位を高めたところで、それは強くも何もない、ただの強がりだ」
「何も、知らないくせに・・・」
「いいや、今知った。負けたのがそんなに悔しいなら、復讐ではなくて、自分の非を認めてもう一度勝てるように努力をすればいい。それに、一回負けないと見えないものもあるしな」
荒ぶった感情はどこへやら、いつもの通り静かに物事語る哲明。
美里な何も言わなかった、静かに哲明の言葉を聞く。
掲示板前に集まっていた生徒達も、あれだけ騒いでいたのに今はしんと静まっている。
「何の騒ぎだ、どいたどいた!!」
「意味わからない放送の次は・・・ひぃぃぃぃぃぃい!」
直後に周囲に集まっていた生徒たちに割って入ってきたのは、放送を聞いて大急ぎでやってきた重次郎と教頭。
教頭は掲示板に貼り巡らされた写真を見てきいきい声で悲鳴を上げ、重次郎は座り込んでしまっている美里の隣にしゃがみこんだ。
「音光寺先生、これはいったいなんですか!!」
しゃべる声がきいきい声のまま、教頭は哲明にギリギリまで近づく。
「教頭先生、自分の半分理解不能の部分があって、どもまで説明できるかわかりません」
「わかりません・・・ではないのだよ!! 生徒の会話が放送された後に音光寺先生の声が放送されたの、この耳で聞いてるんですよ、私は!!」
「何ぃ?! ・・・――あーあー、ただいまマイクのテスト中〜」
教頭が怒りながら言ってきたので、哲明は半信半疑でマイクテストの時に聴かれる言葉を言った。自分の声が二年の廊下中に響く、自分が今しゃべった言葉と同じ言葉が近くのスピーカーから流れてくる。
掴まれて形崩れた襟首を見れば黒くてとても小さな物がくっついていた、とって見ると高性能で超小型の盗聴器。
哲明の知らないうちに盗聴器が取り付けられていた、盗聴器を取り付けた犯人は放送室を占拠している人間であるのに間違いはない。
しかし、いつ取り付けられたというのか。
まったく見当がつかない。
『以上を持ちまして、いじめ特別放送はこれにて終了しま〜した』
歯切れの悪い締め、なにげにやる気のない低い声。
哲明が誰だか言い当てる前に、ブツンッと電源が切れる音を最後に放送が流れることはなかった。
*
場所は変わって職員室、時間は放課後。
職員室に戻ってから知った、昼休みの放送と掲示板に貼られた写真の話。話してくれたのは、今回の騒ぎの実行を許した菊谷崎 清次郎から。
他のクラスが昼食をとっている間にOG組の男子三名が掲示板に貼ってあったプリントや学級新聞を全てはがして、昨日から今日の朝まで撮影したデジカメ写真を現像して一斉に貼り付けたらしい。どうして掲示板か、「一番人の目に止まる場所といえば、学校では掲示板と決まっている」と言っていたとか。
写真も角度別に四・六人に分けて撮影し、先ほどの放送で流れた会話は昨日の昼休みに技術部所属のOG組生徒が、実行者(たぶん暁)に言われてD組に盗聴器仕掛けて録音したらしい。
昼休み直前になり、OG組の放送委員生徒の手引きで放送室を瞬く間に占拠。後は学園のスピーカーが設置してある箇所全部に繋げ、外で待機している仲間の合図を待っていたらしい。
合図役も高等部二年生の階を歩き回っていたのがミクト。
あの時携帯をいじくっていたのは、放送室で待機していたクラスメイトにメールで合図を送っていたのだろう。ちなみに、哲明の襟首に目立たないように取り付けたのもミクトだとか。接触もしていないのに一体どうやって?
それはとにかく、プライバシー侵害で個人情報保護法に違反スレスレの危険な領域まで踏み込んでまで、恨みと怒りを晴らしたかったのか彼らは。
哲明は清次郎に「なぜ止めなかったんですか?」と聞くと、「時にはここまで派手な騒ぎが見たかっただけ、気にしないで頂きたいものですな」と答えた。
今回の騒ぎで教頭はカンカンに怒っていたが、他の教師が哲明に今回の騒ぎを責める人間はいない。案外騒ぎ好きな人が多いんだなと思った。
今、哲明は自分の席に座っている。
哲明は免職覚悟で生徒を叱った、自分では正しい事だと思っても世間からの風当たりは非常に冷たい。それでも叱った、顔を思いっきり叩いた、殴ったのではなくて叩いた。
昼休み終了時に教頭が言っていた言葉を思い出す。「処分は授業終了後に下す」と・・・。
絶対に免職だ、遠回りになったが教師になって一ヶ月も経過する事無く教師免許剥奪。覚悟していたのに、思い改めるとこんなに不安なことなんだ。不安で仕事に手が付かない、包帯と絆創膏に包まれた両手が震えて、隣の人に聞こえてしまう程心臓の鼓動音が大きく響く。
「音光寺先生、教頭先生が至急校長室へ来て欲しいと申していました」
アンナが哲明の隣にある自分の席に座ろうとしたとき、囁くように言った。
処分が決まった! 行きたくないし聞きたくもない、しかし行かないと自分の処分内容が聞けない。諦めモードの哲明。見えないものに憑かれた人間みたいに猫背の姿勢で、職員室の左奥に目立たないように取り付けてある扉まで歩き出す。
校長室と職員室を繋ぐ鉄製の扉、扉の奥から会話が聞こえる。
奥から聞こえる会話が気になりつつも哲明は固い扉を叩く、ノックもしないで入ってくるなど言語道断である。
「音光寺です、入ってよろしいでしょうか?」
「入ってきなさい」会話に混ざって、校長の声が聞こえた。
哲明はドアノブにてをかけ、重い扉をあけた。校長室へ入ってく哲明の背中を見送る教師達、ただ一人結果を知っているかのように笑っている清次郎はお茶をたしなんでいたが。
で、校長室。
木製の大きな机に社長が座りそうなフカフカ椅子、窓の横には「幸福の木」と紙のプレートがかけられている観賞用植物が飾られている。壁には部屋の中を囲むかのように学園歴代の校長先生の写真が飾ってある。平たく言えば、学校だったらどこにでもある一般的な校長室といえばお分かりになるだろう。
校長が仕事に座る席の前には、高さが低いテーブルを挟む二つの長いソファー。
入ってきた哲明は校長のディスクの横に立っている。哲明の立ち位置からみたら校長・教頭・重次郎の三人の順に、前のソファーで哲明に背中を向ける形座っている。
三人の教師が座るソファーの前には成金風情の格好をした中年男性と、セレブを思わせるノーマルスーツを着込んだ中年女性が、高等部の制服を着た少女を挟み込む形でソファーに座っていた。
大人二人に挟まれて座っている女子生徒、二年D組の杉崎 美里だ。だとすると、ここにいる見られない大人は彼女のご両親?!
今回の騒ぎでとうとう保護者まできちゃったよ・・・。
きっと免職以上の処罰が自分に待っている、哲明は今でも泣きそうになっていた。
「来たかね、音光寺先生」
穏やかな口調で校長は出迎える。
「き、君かね! 新人の教師というのは!?」
哲明の姿見るなり大きな声で里美の父が言ってきた、哲明は慌てて「そうです、自分が音光寺 哲明です!」と正直に答えた。
入ってきた人物が哲明本人だと知るならいなや、美里の父親がソファーから立ち上がってこちらにズカズカと歩み寄ってきたではないか。ああ、絶対に襟首掴まれてなっがーい苦情を言うに違いない。
それとも、あの握りこぶしで鼻血が出るまで殴られるのか?
どちらにしろ、自分の処分はそのあとだろうな・・・。
とか考えているうちにもう目の前まで来た、あの鬼のような形相・・・絶対に殴る気だ。
普通なら危険を感じた時逃げるのが人間の正しい反応だと思うが、恐怖に身がすくんで動くことも出来ないのも人間の反応である。
「・・・あれ?」
あれだけすくんでいて動かなかった身体が動く、目の前まで迫っていた美里の父親がいない、足元に視線を向けると父親は両手と額を床に押し付ける形で正座していた。
殴られなかっただけましであるが、これはこれで声がかけづらい。
「あの・・・保護者の方?」
「申し訳ございません! 娘が学校で他の子供を恐喝したり暴力を行っていた事を、担任や校長先生に聞かされるまで知りませんでしたっ! すべては親である私や妻の責任、どこで娘の教育を間違えたのやら・・・。真しやかに申し訳ございません!!」
迫力ある声で必死に謝る父親、美里の母親は嫌がる娘の手を引っ張って哲明の前まで連れて来させた。
「美里っ! ちゃんと謝りなさい!!」
母親は叱りながら娘を床に座らせる、それでも美里は何も言わない。
予想外の展開に哲明は目が点になって、どうやって話を切り出せばいいのか分からなくてただ立っていた。
オロオロと頭を左右に動かす哲明、視線はソファーに隠れていた低いテーブルへ。テーブルの上にはカセットテープとラジカセ、掲示板に貼られてあった写真や落書きなどが並べられている。
あれを最初に見たとき、両親はきっと信じられなかったに違いない。けど、これが真実であると信じた瞬間、周りに申し訳ない気持ちと子供の行いに怒りを感じていただろう。
モンスターペアレントと呼ばれるモラルの無い親が増加する一方、今のように子供の非を認めて家族で謝ってくる親もまだいたんだと感じさせた。
謝ってくれるのは嬉しい・・・だけど保護者の方、謝る相手が全然違います。
「自分はただ、一人の生徒を勝手に庇っていただけです。自分に謝っても無意味だと、思います」
頭を下げる両親に、そう語りかけた。
ブレザーの内ポケットから出したのは、襟首に取り付けられた盗聴器。
「あーあー・・・この声が聞こえるなら、校長室まで眠木 優香子を連れてきてくれ。本人が帰宅された場合、後日互いのご両親に会わせる機会をこちらで作っておく。以上!」
「先生、いったい何を・・・?!」
哲明の奇怪な行動を、教頭が不審そうに見ていた。
「まあ、しばらく様子を見てみましょう教頭先生」
イライラしている教頭に比べて落ち着きのある校長。
校長の言葉には逆らえないのか、「はい・・・」と返事をして教頭は哲明の行動を見る。
奇妙な発言をして一分が経過、まだ来ない。
二分経過、三分経過、四分、五分・・・跪く杉崎一家も不安げに哲明を見上げる。
六分が経過した、廊下を走る足音が近づいてくる。校長室と廊下を繋げる扉の小さな曇りガラスには人影が写った。
一人ではない、三・四人はいる。
「失礼します。音光寺先生に言われて連れてきました」
扉を開けながら、最初に由香里が入ってきた。後ろから一人の女子に背中を押され、前から由香里に手を引っ張られて、校長室に眠木が入ってきた。
これから帰宅しようとしていたらしく、彼女の手に落書きされたカバンが持ってあった。哲明は「早いな」とだけ言って手招きする。
どうやって生徒をここへ呼んだのか、方法を知っているのは校長室へ来たOG組の生徒と呼んだ哲明以外知らないのは当たり前。これは保護者も仰天、美里本人は虫唾が走ったような顔を浮かべている。
状況を理解で来ていない眠木を、由香里が哲明の隣まで来させた。
「彼女が一番の被害者です・・・他にも被害を受けた生徒もいます。謝るべき人物は自分ではなくて、彼女達であり、親からではなく本人から謝らせるべきだとおもうのです」
「だ・・そうだ、杉崎。両親ばかり謝って、肝心のお前が全然謝っていないぞ? それともまだ自分が悪くないと思っているのか?」
今までの流れで唖然となって喋るタイミングを逃していた重次郎が、ここでやっとタイミングを見つけて喋ることが出来た。
「また繰り返そうと思っても無駄だと思うぞ? 次回に備えて今回以上の仕返しをOG組が用意しているからな」
重次郎の言った事は嘘であるが、これが真実にならないわけじゃない。
本気になった奴らなら本当にやりかねない、騒ぎひとつ立てるのにあれだけの準備と手間をかけている、いつ起爆するかも分からない騒ぎの爆弾は威力次第では人を精神病院に入院させてしまう。
子供ながら恐ろしい・・・!
「そうよ美里、今回ので分かったでしょ? 自分が嫌がる事を貴方は人にやったのよ、今回の件で懲りたなら素直に降参しなさい。懲りてなかったら、今度は何が用意されているか私だって分かったものじゃないわ」
十七そこらの子供なのに、発言が大人っぽい。
「北村先生、学級委員長。脅すと余計謝りにくいかと・・・」
「俺は脅しているわけじゃないぞ!」
「私もです!!」
哲明の何気ない発言に、脅迫を否定する二人。脅してるようにしか見えません、お二人とも。
では、美里本人は? 口を堅く閉じたまま何も喋りません。
やっぱり、簡単には口を割ってくれないか・・・諦めモードに再突入の哲明、どうすればいいのか考えます。
「杉崎さん・・・」
一向に喋らない美里に眠木が口を開いた。
「昨日まで、死のうと思ったの。誰も助けれくれない、誰も信じてくれない、苦しい思いするならいっそ・・・ね。転任しちゃった先生は見て見ぬフリ、皆見て見ぬフリ。けど、この先生は違った、ちゃんと見て、聞いて、向き合って、私みたいになって――私、『教師なんかあてにならない』って言った時があるの。ひどいよね? 私に手を差し伸べてくれた人に冷たく言っちゃった」
涙ぐみながら、眠木は美里に語る。
「先生が蹴られたり嫌がらせされたのを知って、自分のせいで先生まで巻き込んでしまって、すぐにでも死にたかった。なのにどうして生きるのって聞くよね? あれだけの言葉と身体の暴力や嫌がらせ受けていたのに、先生は「死のう」なんて言わなかった、最後向き合ってくれたから・・・その姿勢に勇気感じて・・・私も、生なきゃって」
「・・・優香子」
「私、もう痛いの嫌・・・誰かが巻き込まれるの嫌、孤立するの嫌。もうやめて、いじめるの、もうやめて」
眠木は涙を流しながら出せるだけの声を出して、何も言わない美里相手に精一杯の言葉を吐いた。
周りは何も言わなかった。
眠木の言葉に耳を傾け、黙って聞いていた。
美里は何も言わない、何もいえないのか顔は俯いたままである。
「ごめん・・・ごめんなさい」
小さい声であるが、美里は口を動かした。
美里の小さな謝罪の言葉は、校長室にいる人間にちゃんと聞こえた。
眠木の耳にもちゃんと届き、涙は流れたままであるが哲明も見たことが無い、穏やかな笑みを浮かべていた。
娘が自分が悪いと認めたとき、彼女の両親も改めて学校関係者に向かって「申し訳ございません!」と頭を下げて謝った。
哲明は「よかったな」と言ってさりげなく眠木の肩を触れた、もう彼女が自ら命を絶つ映像が哲明の中に流れることは無い。見えるのは苦しみから開放された喜びと、美里と仲良く街中を歩く姿。
心傷は深い、けどもう終わった事。そして繰り返されることはない。
哲明は初めて人の運命を覆したのだ。
*
後日。
四月二十八日、金曜日。
あれから嫌がらせや暴力がうそのように消えた。
今日まで哲明に謝りに職員室へ来た生徒の数は、足の指を入れてもぜんぜん足りないぐらい多く、まともに数えてなんかいられなかった。
靴箱の中に剃刀の刃や画鋲も入っていない、自転車に悪戯もされていない、みんな元通りであった。おまけに免職などの処罰も免れ、OG組の生徒達への処分も校長のお陰でお咎めなし。
美里は一ヶ月の停学を下されて今学校に来ていない、眠木は一週間に一度、カウンセリングを受けながら学校へ登校しているとの事。
昼休み、哲明は屋上でコーヒーをゆっくりと飲んでいた。
日常はここまで穏やかなんだなと改めて感じさせる風、哲明の顔面に貼ってある絆創膏は自然にはがれ、風に流れてどこかへ飛んでいった。
手に巻いてあった包帯も綺麗に取れて、痣も目立たない位に消えていた。
屋上から校庭で遊んでいたり昼寝している生徒の姿を見て思う、今日も平和だ。
(――また、繰り返されたらどうする?)
どこからともなく聞こえた少年の声に、哲明は驚く様子もなく穏やかな表情を保ったままコーヒーを飲み干す。
そういえば考えていなかったな、深く考えなくても、もう哲明の中に答えは出ている。
空っぽになったコーヒー缶をゴミ箱に捨てて、大きく背伸びをする。相手を焦らせているかどうか、意図は捕らえにくいが。
「簡単だ、また自分が止めるきっかけを作るさ」
伸ばした腕を下ろし、この場にはいない人物に堂々と答えた。
声の主は何も返さなかった、納得してくれたのか?
相手が何も言わないまま昼休み終了のチャイムが鳴り、哲明は声の主を探す素振りも見せないで屋上を去っていく。
もうすぐ五月、夏へ向けて太陽の輝きが一層強くなる。
いじめ編、とりあえず終了です。
次はゴールデンウィーク編です。
その次は演劇部騒動編の予定です。