一時間目・人を騙す内容も、読者を惹きつける要素だ
ルビはふっていません、申し訳ないです。
今から二百年以上も先の未来、西暦二千二百十八年。
人類が住む場所は地球だけではなくなりました。
既に宇宙空間には移住・軍基地・工場・研究施設など合わせて三十基のスペースコロニーが星と一緒に浮いています。
月にも大きな大都市や工場なども建設されております、底尽きそうになっていたエネルギーは、宇宙から供給される太陽光エネルギーや地球に存在する自然エネルギーでなんとか今日まで持ち堪えております。更なる技術を求めて、地球と言う狭い星から宇宙に旅立った人間もそう少なくありません。むしろ多いほうです。
地球も今以上に暮らしが良くなりました、道路標識や案内、掲示板は電子へと変わり。新聞も紙ではなくてネットワークや紙のように薄い電子ペーパーが一般的になりました。空港も空だけではなく、コロニーや月都市へ向かう宇宙船も当たり前のように停泊しています。
しかし、人間に一番近いアンドロイドや空飛ぶ車の姿はまだありません。アンドロイドはとにかく、なぜ空飛ぶ車が無いのかは聞かないでください。
もちろん、ドラ○もんとかいった便利なロボットも存在しません。巨大ロボットも開発途中で軍に配備されておりません。
これだけ歴史や技術は進みましたがこれは時代が動いただけで、地球内の大きな戦争や異星人の侵略を退けるために宇宙で戦争しているとかいった、二次元的話の展開はありません。あくまでも現実的に時代が進んでいるだけに過ぎません。
では、異星人(宇宙人)は発見されているのかといえば答えは「NO」です。
今も異星人にメッセージを月から送っておりますが、まだ相手がメッセージを受け取っていない。存在しないとも言い切れませんが、存在するとも言い切れない・・・異星人は地球人からみたらとても曖昧な存在なのでしょう。
では、内政が変わったのかといえば、実はぜんぜん変わっておりません。
失業者は今よりも増え、社会の厳しい荒波に乗れず脱落していく社会人が後を絶たず、少子化問題もまだ解決出来ずに放置されている。日本を除いた世界は宗教問題・人種差別・領土問題・政権争いでまだ知らないところで内戦やテロが行われているのですから。この時代の人間には早く解決して欲しい問題ばかりなのです。
政治界も改善するべき点は改善されておりません、悪化しております。
些細な失態や発言で辞任する議員、民間の税で芸者遊びする議員、常に癒着・着服の報道が絶えない日常です。これは議員だけではない事を忘れないで欲しいです、マジで。
で、話は本腰に入りますが――。
内容からして政治の話なのか、宇宙で働く技術者の話なのか、それとも異星人と初めて接触した人間の話か。いえ、全然違います。皆はずれでございます。
こんな前振りを書いておきながら、まったく違う話で申し訳ございません。これだけの時代背景を書いておかないと今後の物語に支障がきたすと思い、少々大げさに書き込みました。
実の話の内容は学校の話、ただの学校の話ではない・・・現実からとんでもなく離れた学園物語。
平成二千二百十八年(平成二百三十年)の一月始め。
深夜。誰もが寝静まって、二十四時間営業のコンビニやファミリーレストラン以外に人の気配がしない非常に寒い夜。でも東京のネオン街・駅前は老若男女が彷徨うように今日も歩いている。
渋谷・新宿(特に歌舞伎町)・六本木などの有名箇所は、建物や店の窓から漏れる光、看板を照らすカラフルな色、至る所に設置してある街灯に溢れて、寒い夜空の星が一番輝きの強い星や月以外は全然見えない。
公園にビニールやダンボールを組み立てた粗末な家に住むホームレスは、明日食べる食料を調達する資金を稼ぐため、空き缶とか言った金属類を探しに寒い中大きな袋を持ってごみ置き場やコンビニ前のゴミ箱を漁る。
そんなにぎやかな場所から離れた住宅街、駅前と違ってとても静かで街灯の光も駅前などに比べたら弱い。
どこかで飼っている犬の遠吠え、路地を通るタクシーのエンジン音と走り去る音しか聞こえない。電気がついている家は、仕事で遅く帰ってくる夫を待っている妻か、今年受験である子供が深夜になっても勉強しているか、単なる電気の消し忘れかの三択。
近くに大きな学校があるが、学校だって生徒も教師も帰って、警備員も見回りを終えて去っている。警備員も去った後、こんな時間に今よりも厳重な警備システムをすり抜けて、一人の男性がその学校の中へ入ってきた。
弱い月の光で分かるのはとても若い男性だけで、顔が影に覆われて見えない。厚手のコートが必要なほど寒い夜なのに男性の服装は背広で安そうな革靴、身なりは会社帰りの若いサラリーマンと言ったところだろう。
男性は顔を俯かせて猫背のまま、校庭を足に任せてのそのそと歩く、何も知らないでこちらに来た人間がいたら「幽霊だっ!!」と叫んで大きな騒動を招きかねない。
誘われるように校庭を歩く男性、数分歩くと彼が足を止めた先には石像が立ってあった。
まるで獅子を思わせるような髭、威厳漂う老人の石像。この学校の初代校長の石像の横に設置されており、石台に文章が書かれているが樹が影になって読めない。
石像の前で男性は膝を崩し、四つん這いの姿勢で突然泣き出した。大きな声ではないが、すすり泣きながら何かを呟いている。涙が乾いた土に流れ落ち、顔は地面を向いていて顔を上げようとしない。
「自分は今後、どうしたらいいのか・・・」を何回も何回も石像に呟く、石像が答えないのを知っているのに、今日は石像になっている人物に訴える。どうしたらいいかと。
男性は失望していた。何に失望したのか、なぜ失望したのか。それが分からないまま男性はひたすら泣いていた、同じ台詞を何回も石像に言いながら。
彼が泣き止み学校を去っていったのは、夜明け一時間前の事だった。
西暦二千二百十八年(平成二百三十年)四月。
一月の凍えるような寒さは緩和され、季節は暖かな春がやってきた。
自然は寒さから逃れて冬眠していた動物や昆虫が活動を始め、人間はセーターや厚手のコートをクローゼットや押入れの奥に片付け始める。
道路のアスファルトの割れ目に生えたタンポポは黄色い花を咲かせ、秋に抜け落ちた落葉樹は新たな芽が伸び、萌黄色の葉を広げる。花壇には球根から育つチューリップや水仙の花が咲き誇り、街にある全ての花壇がカラフルに染まる。
野道には見慣れた雑草が生え、緑に小さな赤い花、青い花が点々と咲き誇る。蜜を探しに蜜蜂や大きさ様々な蝶が、春が来た喜びと蜜を吸える嬉しさを表現するように飛び回る。
桜の木が植えつけられている公園・学校などど言った公共の場は、桜色一色に染まって人々の目を楽しませる。
春は桜の季節。花見客が昼から夜にかけて桜の木の下で酒を飲み合い、一週間で散る桜の花びらをゆっくりと眺める。中には酒に酔って桜の木に登ったり、近くの池に落ちたり落とされたり、喧嘩をして警察に御厄介になったりなど・・・。花見は後が絶えないイベントであります。
春は桜だけではない。人々の出会いと別れ、新たな旅立ちのきっかけを見つけ、決意を改める季節であるんです。
新しい環境、新しい生活、新しい価値観、春は人を『新しい』と感じさせる季節でもあったりするんです。問題がその新しいに精神と体が馴染めるか、否か。
馴染めればすぐに自分の技量を試せて、これ以上最高なものは無いでしょう。馴染めないと後悔と苦悩だけ襲い掛かって。最後に精神異常を起こしてしまう。道は二つに分かれると結果が一目瞭然、そんな分岐点の季節であります。
二つの分岐点を前に、朝早くから新しい生活を迎えようとしている男性がいました。
春の日差しに照らされている男性の顔は若い。とても凛々しい顔立ちで、「今年三月までは高校生でした」と言えば、周りを納得してしまうほど若かった。
天然パーマとまではいかないが、柔らかそうな毛並みに所々跳ねたような髪型。きっりと整った身なり、金の台座に埋め込まれた男性の目よりも大きい赤色の大きな石が目立つループタイの留め具。使い古された自転車のカゴに、これも使い古された皮製のカバンを入れて、男性は新しい職場に向かって自転車を漕ぐ。
住宅街の入り組んだ細い道から、大型トッラクも余裕に通れる大きな道に抜ける。「通学路」と書かれたシンプルな看板が一定の距離を空けて、電柱に寄りかかるように太めの針金で固定されている。
自転車と同じ方向へ歩く人々を追い抜き、彼は自転車を漕ぐ力を強める。自転車が追い抜いている人達は、男子は黒のブレザーに白のズボン、女子はボタンの位置が男子とは違うブレザーに白のスカート。中にはランドセル背負っている私服姿の小学生とか、二十歳を越えている大学生も混ざって歩いている。
彼と同じように自転車だったり、遠い場所から電車に乗って通学してる者、スクーターやバイクで通学する生徒・・・。驚いたのはタクシーで学校着たり、車で送り迎えしている者もいる。
自転車を漕ぐ彼とこの道を歩いている若者は、この道の先にはる大きな学校がある。彼の新しい職場、期待と不安でいっぱいになりながらも彼は漕ぐのをやめない。
「おはよう」
「おはよ〜」
仲がいい友人同士、挨拶を交わす声が賑わう。
晴天の空を男性に似合わぬつぶらな瞳で見る、この空には小さな白い雲が浮いている。自分のあの青空に浮ぶ雲のように、生徒を遠くから見守れる教師になれるだろうかと――。
朝の空を眺めていたら、自転車が突如音を立てて傾いた。
自転車が道路に転がっていた小さな石にどうしてか躓いて、ガシャァァンッと朝から豪快な音が響いた。ハンドルを握っていた手が離れ、体は宙に浮き上がって一秒も経たないうちにアスファルトの地面に背中が直撃した。
「ぎゃぁぁぁぁ・・・・!!」
自転車事故を起こして、音光寺哲明は生徒が通学する時間帯に今年最初の醜態を晒してしまった。