番外編 「エピローグ」
『次は[ホワイトマス図書館前]……[ホワイトマス図書館前]へお越しの方はこちらでお降りください』
停留所の名前を告知したバス運転手のアナウンスにより、熟睡していたぼくの意識はハッキリと目覚め起こされた。
やっと着いたのか……。
学校の授業が終わり、いつもなら自宅方面のバスに乗り込んでそのまままっすぐ帰宅しているハズなんだけど、今日は違う。
ぼくは今日、教会の斜向かいにあるホワイトマス図書館へと向かっている。しかし、なぜその場所に向かっているのかが上手く思い出せずにいる。
なんの用事があって来たんだっけ?
寝起きで頭が上手く回っていなのかもしれない。でも、ぼくはこの停留所に降り立ち、赤いレンガ造りの市立図書館に向かわなければならない。というメインプロットだけはハッキリと覚えている。
バスを降り、どっしりと構えるホワイトマス図書館をなんの気もなしに見つめた。
ぼくはいつも、この図書館の前に立ち尽くす旅に、どういうワケか何か大事なモノをここに置き忘れているような……心の根っこをチョイとつままれるような……そんな気持ちになってくる……一体なぜなんだろう。
そんな気持ちを抱きながらも、今日はここに足を踏み入れなければならない。目的は忘れたけど、それだけは確かなのだ。
バスの中で寝ている間、長い長い夢を見ていたようだ。
おかしくなっちゃうような内容だ。ぼくがロボットに乗ってお姫様を守る。って感じの、退屈な授業中に窓の外を見つめながら思い浮かべる妄想のような夢だった。
ぼくはそんな夢を見た自分自信に対してほくそ笑みながら、図書館内に足を踏み入れた。
木工細工を作っている時に似ている独特な匂いに包まれ、ぼくは慣れない図書館の雰囲気に目を泳がせながら、それとなく空いている四人掛けのテーブルに座った。
木製のテーブルの上には消しゴムのカスが僅かに残っていて、それが学校の勉強なんてほとんどしないぼくにとって、全く違う世界の風景を表しているような感じがして緊張した。
どうしてぼくはここにいるんだろう?
そのまま数分が経ち、居心地の悪さを感じたぼくは席を立って帰ってしまおうかと思った。
「ごめんダフィー! 遅くなっちゃった! 」
その寸前、誰かが僕の隣の椅子にドシっと腰掛けてきた。それと同時に、どこか懐かしい匂いも一緒に感じ取った。
種類はわからないけど、やさしい花の香りだ……
「ダフィー、どうしたの? ボケッとしちゃって」
「いや、ごめん。大丈夫だよ。全然待ってないよ」
そうだよ……なんでもぼくはさっきまで忘れていたんだろう……
ぼくはこの子と会うためにここにやってきたんじゃないか。
「メグ、それじゃあさっそく取りかかろうか。反省文」
「う……ちょっと休んでからじゃダメ? 」
「ダメダメ、こういうのは優先的に片づけたなきゃ」
「ダフィーはまじめだねぇ……ホント」
「はは……こうなったのもそもそもぼくが原因だしね」
「違うよ、キミはなにも悪くない……なにも……」
「うん? どうしたの? 」
「なんでもない」
「どこか身体でも悪いの? 大丈夫? 」
「いいの。平気……ちょっと目にゴミが入って……」
「そう? ならいいけど……」
「ねえ……ダフィー……」
「なに? 」
「ありがとね」
「なにが? 」
「約束……守ってくれて……ありがとうね」
ゲノム・グレムリン番外編「楽園追放」
THE END




