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ゲノム・グレムリン  作者: 大塚めいと
第3章 バラストの死闘編
20/89

3-2 「強奪」

『混沌の中にこそ活路が見える』

3‐2 「バラストの死闘 強奪」





「リフちゃん、大丈夫なんですか? 」





 大勢の人間が詰め寄せる【第二居住区】の緊急避難シェルター、堅牢なスタジアムのような施設にはあらゆる人間が大挙し、中にはいかにも危険そうな雰囲気の人間もいる。僕には10歳の女の子を一人置いていくには少し危険な場所に思えた。





「大丈夫じゃ! あそこにはワシの友達の嫁さんがいてな、その人にリフを預けたんじゃ。信頼できる人じゃから安心しろ! 」





 シェルターの外で待っていた僕の元にガラにもなく息を切らしながらドクター・オーヤが戻ってきた。





「ならいいんですが……」





「急ぐぞ! 小僧! 」





 ドクターの後を追うように僕は走った。しかしアリーが先走って一人でジープに乗って【バラスト層】へ向かってしまったので僕らは移動手段が無く、どうやって【バラスト層】まで行くのか疑問だった。まさかこのまま走って行かざるを得ないのか? 





「よし! 小僧、アレに乗るぞ! 」





 ドクターが意気揚々に指を指した先には、雷のようなマークが付いた黄色いトロリーバスがあった。今は緊急警報が発令されているので、無人の状態で放置されている。





「いいんですか? 」





「緊急事態じゃ! 大目に見てくれるだろう! 」





 ドクターが迷うことなく入口のドアを開き、運転席に飛び乗る。本当にこの人は70歳近い老人なのだろうか? 





「しめた! 鍵がつけっぱなしだぞ! 」





「ドクター! これってドロボーなんじゃ……」





「ヒヒッ! 無線装置もあるじゃないか! 」





「いや、だから……」





 うろたえる僕を尻目にエンジンを始動させて、素早い足さばきでクラッチを操作し、ゆっくりと力強くバスを発車させようとする。もう後戻りは出来そうにない。





「止まれ! 」





 突然バス内の後部から、低音のよく通る声が発せられた。





 僕らがその方へ向くとコーヒーのような褐色の肌を持ち、前に垂れる形の特徴的なモヒカン頭の男がいた。





 宇宙空間にランチボックスが漂っているイラストが描かれた独特なセンスのTシャツを着た彼は、目を合わせたら失明してしまうんじゃないかと思うほどに恐ろしい目つきでこちらを睨みつけていた。





「これは俺っちのバスだ! 相棒だ! 誰の断りがあってそんな真似してんだぁ? ええっ? 」





 バスの運転手と思われる彼が、ぽきぽきと指をならしながら運転席に近づいてくる。





「ややや、やばいですよ! やっぱりやめましょうよこんなコト! 」





「くそっ! 面倒なヤツが出よったな……おい小僧! 」





 運転手が右手に血管を浮き上がらせて僕らの所まであと2mという所まで近づいてくる!





「1+1は? 」





「え? まさか……」





 その瞬間、僕のTシャツは真っ赤に染まり、乾いた銃撃の残響がバス内に響いた。





「うっ……」





 ドクターの思惑を察して僕は不本意ながらも、ワザとらしいうめき声と共にその場で崩れ落ちた。





「う……うわぁあああああ! 」





 危険な雰囲気を漂わせていた運転手がその見た目からは想像もつかない悲鳴を上げた。





「いいか、若いの? ここはワシにバスを譲ってもらおうか? さもなくば貴様もこの小僧のように破裂した血風船と化すぞ! 」





 ドクターの凄みのある啖呵に運転手は……





「ひえええ! 人殺しぃー! 」





 と情けない声を上げながら、キツネに追われるウサギのような逃げ足でバスから降りて行ってしまった。





「ヒッヒッヒッ! 成功成功! 」





 ドクターは楽しそうな笑顔でアクセルを踏み込み、バスを再び発車させた。





「小僧! よくぞワシの作戦を見抜いたな! なかなかやりおる! 」





「はは、まあ……」





 僕は覚えておかなければならない。ドクターは常にペイント銃を携帯していて、それがいつどんな時でも自分に発砲される恐れがあるということを。





「いくぞぉ! いざ【バラスト層】へ! ヒャーハッハッ! 」





 それにしても僕は、今日一日だけで何度衣服を汚しているのだろうか……







『[花泥棒は罪にならない]という言葉をそのままに受け取ってはいけない』






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