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ゲノム・グレムリン  作者: 大塚めいと
第1章 コブラ編
1/89

1-1 「灰色の海」

『人類は「炎」を発見し、それを使いこなすことで「知性」を得た。人類の歴史は、炎との歴史である』

1‐1 「灰色の海」





挿絵(By みてみん)





 自分の呼吸音が頭に響く。全身にまとわりつく気泡の群れ、ウェットスーツ越しに肌をなでる海水の感触。私は今日、五ヶ月ぶりに地上に上がる。





 海中から泳ぎ見上げる水面に、ぼやけた日光が映りこむ。それを突き破るように海上へ顔を出すと、私と同じように9人の仲間が小さなしぶきと共に姿を現す。ダイビングマスクのゴーグル越しに見上げた空はインク染みのような曇り空。その隙間から申し訳なさそうに太陽が顔を出している。





「久々の地上だってのに曇ってやがるな、晴天を拝めるってだけがこの仕事の楽しみなのによ」





 仲間の一人、コーディ・パウエルが立ち泳ぎをしつつ、水中で呼吸をする為のレギュレータを器用に外して皮肉な笑みを私に向けて呟いた。





「今日で二度と拝めなくなるかもしれないかもね」





 私がそう言い返すとコーディは海水がしたたる右手で曇天の上空を指差した。





「いや、雲の上から毎日見下ろせるようになるかもな」





 いつも、どんな時でもコーディは場を和ませようとこんな具合に軽口を叩く、たとえ今日が人生最後の日かもしれないという状況でも。





「コーディはどっちかというと[上]じゃなくて[下]じゃない? 」





「涼しい顔して言ってくれるなぁ、アリー」





 そんなやり取りを交わしていると、隊長のニールが私達に顔を向け、樹木を叩くキツツキのように激しいジェスチャーで遠くを指差す。指の100m先には遠くからでも分かるほどの金属ガラクタが無数に漂着している海岸が見える。ニール隊長は無言だったけど『何をしているウスノロ共! 早く海岸へ向かえ! 』と心の中で怒鳴っていることは明らかだった。





 コーディは悪びれることなくサムズアップをニール隊長に向け、海岸に向かって泳ぎだす。私もそれに続き、泳ぎだした。





「やれやれ……」





 私の小さなボヤキは微かな風が海水を揺らす音にかし消された。他の仲間はもうスデに20mほど先を静かに泳ぎ進んでいる。







 今日は西暦2505年5月31日水曜日。天気は曇り。時間は昼。






 海岸の向こうには巨大で灰色のビルが植物のようにあちこち建てられていて、その向こうに630mを誇る高さの真っ黒な、凶悪の化身のような建造物……いや、兵器が空に突き刺さるようにそびえ立ち、私を怖気付かせる。





 最大外周は80m。巨大な煙突を思わせる砲筒には鉄骨やワイヤーが鳥の巣のように複雑に絡み覆われている。天空に標準を向けた黒い巨塔は、砲台と言うには大きすぎ、40億の人間を消滅させた悪夢としては小さすぎる。





 その兵器【カーネル】が建造されて以来、人類は100年以上も地上を追い出されたままでいる。

 そして私は今、9人の仲間と共にそれを破壊する為、灰色の海を泳いでいる。









 『人類の科学技術の発展は、2100年を過ぎた頃からどんどん停滞し、それ以降は革命を起こす程の発見や発展は見られなかった』





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